近年、メンタルヘルスへの関心が世界的に高まっており、心の健康状態の維持が重要視されている。気分の落ち込みやストレスが長期間続くと心身の不調をもたらす恐れも…。特に春は新生活のスタートなど環境の変化や気温差により、知らず知らずのうちにストレスが溜まりやすい季節なので注意が必要だ。そこで今回は、ストレスの特徴や原因に加え、ストレス対策として管理栄養士・望月恵理子先生がすすめる“心を整える栄養素”を紹介していこう。
ストレスの原因とは?
メンタルヘルスを保つためには、ストレスの特徴や原因を理解し、ストレスを上手に対処することが重要だ。そもそも「ストレス」とは、外部からの刺激が体に与える反応の一連の流れを指し、外的刺激を「ストレッサー」、それに対する心身の反応を「ストレス反応」と呼ぶ。「ストレッサー」は個人によって異なるが、大きく分けて4つに分類される。
ストレスを感じる原因
・物理的ストレッサー:気温・騒音・空間の広さなど
・化学的ストレッサー:有害物質・薬・酸素の欠乏など
・生理的ストレッサー:病気・空腹・睡眠不足など
・心理・社会的ストレッサー:仕事のプレッシャー・人間関係の悩み・家庭問題など
ストレスが生じると、体内ではその影響を解消しようとする防御反応が働く。この「ストレス反応」は「警告反応期」「抵抗期」「疲憊期」の3段階あり、疲弊した状態の「疲憊期」が長期間続くと、不眠症やうつ病などの精神的な疾患を引き起こすこともある。
良いストレスと悪いストレス
多くの人はストレスを好ましくないものと感じると思うが、実は適度なストレスは、モチベーションを高めたり、生産性を向上させたりするなど、自分にとって有益に働く「良いストレス」も存在する。一方で、過剰なストレスや慢性的なストレスは健康に悪影響を及ぼすことが多い。慢性的なストレスは、不安・無気力・不眠・体調不良など、さまざまな不調につながることもあるため、「悪いストレス」と言えるだろう。ストレスを慢性化させないためにも、自分自身のストレスサインに気付き、いち早く対処することが重要だ。
ストレスを感じている時に現れる【ストレスサイン】※1
・心のストレスサイン:不安、緊張、イライラ、悲しみ、憂鬱感、無力感、無気力など
・体のストレスサイン:食欲不振、不眠、頭痛、腹痛、動悸、血圧上昇など
・行動のストレスサイン:消極的になる、人との関わりを避ける、飲酒・喫煙の増加など
※これらのストレスサインが2週間以上続く場合は、専門家に相談することも考えよう。
ストレスには栄養不足も関係!?
ストレス対策には、睡眠や適度な運動、そして栄養バランスの取れた規則正しい食事が重要。実は、ストレスを感じた時、私たちの体はストレスから身を守るために特定の栄養素を消費している。体内でこの栄養素が不足すると、ストレス耐性が下がり、心の不調にも繋がりやすくなってしまう。そこで、ストレスに負けない体を作るために、消費された栄養素を適切に補うことが大切だ。
ストレスと栄養の関係性
ストレスを受けると、体内でコルチゾールというホルモンの分泌が増加する。コルチゾールはエネルギーの生成を助ける働きがあり、普段から一定量分泌されているが、ストレス時にはその分泌量が増加し、ストレスに対抗しようとする。しかし、コルチゾールの分泌が長時間続くと、血糖値の上昇や免疫機能の低下など、健康に影響を与える恐れがあるため、コルチゾールの分泌をコントロールすることが重要だ。このコントロールのサポートにビタミンやミネラルなどの栄養素が関与している。また、コルチゾールの分泌が増加すると神経伝達物質であるセロトニンの生成や働きに悪影響も。セロトニンは“幸せホルモン”とも呼ばれる精神の安定に重要な役割があるが、セロトニンの生成に欠かせないトリプトファンというアミノ酸は体内では生成できないため、食事から摂取する必要がある。
管理栄養士がすすめる“心を整える栄養素”
神経の働きを助ける「ビタミンB6」
ビタミンB6は、神経伝達物質の合成をサポートする大切なビタミン。ストレスを感じやすい人、気分が落ち込みやすい人に特におすすめの栄養素だ。水に溶けやすく熱や光に弱いので、新鮮な食材での摂取が理想的。
含まれる食材:牛肉や豚肉、鶏むね肉、まぐろ、レバー、ナッツ類
1日の目安摂取量※2(成人):男性1.4~1.5mg、女性1.2mg

※一人前あたりの含有量
・ミナミマグロ(一人前/100g):1.08㎎
・レバー(一人前/100g):0.86㎎
・鶏むね肉(一人前/100g):0.64㎎
心の安定に関わる「カルシウム」
骨の健康だけでなく、神経の興奮を抑える働きでも知られるカルシウム。ストレスでイライラしやすい人には特に大切なミネラルだ。ビタミンDを含む魚やきのこと一緒に摂ると、吸収率がアップ。一方、インスタント食品や加工食品に多く含まれるリンは、カルシウムの吸収を妨げることがあるため摂取量には注意しよう。
含まれる食材:牛乳、チーズ、小魚、海藻、野菜類
1日の目安摂取量※2:男性750~800mg、女性600~650mg

※一人前あたりの含有量
・牛乳(1杯/200ml)2200㎎
・パルメザンチーズ(一人前/6g):78㎎
・チェダーチーズ(一人前/20g):150㎎
・イワシ(煮干し・一人前/100g):2200㎎
ストレスを調整する「マグネシウム」
マグネシウムは神経の調整を助ける、ストレスに関わる重要なミネラル。リラックスを促す作用があるため、ストレスで眠れない、集中できないという時にも役立つ。また、カルシウムの摂取が過剰になると、マグネシウムの排出が増えてしまうため、マグネシウム1:カルシウム2のバランスを意識して摂るのがおすすめ。
含まれる食材:ごま、アーモンド、豆腐、玄米、ひじき
1日の目安摂取量※2:男性340〜380mg、女性270〜290mg

※一人前あたりの含有量
・干しひじき(一人前/2g):13㎎
・アーモンド(一人前・20粒):58㎎
・玄米(炊飯一人前/150g):74㎎
セロトニンの材料となるアミノ酸「トリプトファン」
トリプトファンは、人間の健康に大切な必須アミノ酸の一種で、主にセロトニンやメラトニンといった成分を体内でつくる際の材料として知られている。“幸せホルモン”セロトニンは心の安定や睡眠リズムをサポートする物質。トリプトファンは体内で合成できないため、毎日の食事から摂取する必要がある。ニンニクなどに豊富に含まれるビタミンB6と一緒に摂るとより効果的。
含まれる食材:乳製品、大豆製品、ナッツ類、レバー
1日の必要量※3:体重1kgあたり4mg(体重50kgなら200mg)

※一人前あたりの含有量
・レバー(一人前/100g):290㎎
・木綿豆腐(一人前/90g):90㎎
・ヨーグルト(一人前・100g):60㎎
※1厚生労働省 こころの耳「3ストレスへの気づき」
(https://kokoro.mhlw.go.jp/nowhow/nh003/)
※2日本人の食事摂取基準
(2025年版https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf)
※3日本人の食事摂取基準
(2020年版https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf)

管理栄養士 望月理恵子氏プロフィール
株式会社Luce代表取締役/健康検定協会理事長
管理栄養士/山の美容藝術短期大学講師/服部栄養専門学校特別講師/日本臨床栄養協会評議員
サプリメント・ビタミンアドバイザーなど、栄養・美容学の分野で活躍。多くの方が健康情報を学ぶための健康検定協会を主宰するとともに、テレビや雑誌などで根拠ある栄養学を提供。
「栄養学の○と×」「痩せる時間に食べてみた!」など著者も多数発刊。現在15冊の「子どものための時間栄養学(仮)」を執筆中。
ストレス社会と言われる現代。特に春はストレスが溜まりやすく、心の不調が現れやすい季節だ。大切なのは、ストレスに早めに気づいて対策すること。毎日の日常生活に欠かせない食事の栄養素を見直すだけでも、心と体はきっと軽くなるはずだ。まずは今日の食事から、“心を整える”一歩を始めてみてはいかがだろうか。
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