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【レビュー】海外に飛び火した壮絶な韓国ノワールアクションを目に焼き付けろ―『ただ悪より救いたまえ』


ノワールアクションには定評のあるお隣は韓国から、また一つ目の覚めるような強烈な作品が届けられた。

監督・脚本を務めるのは、世界中で絶賛されたナ・ホンジン監督作『チェイサー』『哀しき獣』で脚本家を務めたホン・ウォンチャン

『ベテラン』『哭声/コクソン』のファン・ジョンミン、『10人の泥棒たち』『イカゲーム』のイ・ジョンジェの韓国2大スターが『新しき世界』以来久々の共演を果たした。

描かれるのは、引退直近の暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)と、彼に義兄弟(豊原功補)を殺されて復讐の鬼と化す殺し屋レイ(イ・ジョンエ)の壮絶を絶する殺し合いの対決。

ともに人を殺す技術に長けた2人だが、悲しい過去を背負う寡黙なインナムの攻撃性が青白き炎とでも形容できるのに対して、狂人的なレイの攻撃性を特徴付けるのは狙った獲物を決して逃さない捕食者の執念と残虐性だ。

孤独だったインナムにある少女への父性愛が芽生え、彼は少女を危険から救うために手段を選ばず冷徹に支障となるものを排除していく。

他方でインナムを追い回すレイの義兄弟の敵討ちという当初の目的は、「殺し合う理由。そんなものは忘れた―」とのポスターにも書かれたセリフにあるように妄想的なほどに肥大化していき、周囲を容赦なく巻き込んでは死体の山を築いていく。

このはたからすると大迷惑な追走劇と直接対決。その舞台となるのは韓国ではなく灼熱の国タイの首都バンコクだ。

その地は2人にとって同様にアウェイであるはずが、バンコクの街中特有の熱気は、守る者の命を背負い冷静に徹しようとするインナムより、むしろ彼を殺せさえすれば周りがどうなろうが構わないと言わんばかりの執拗さと傍若無人ぶりを発揮するレイの方にシンクロして、まさに熱風として彼の追い風になっているようにも見えてくる。

そんなインナムにとっての絶体絶命の逆境下で、暴力と距離を置いた憎めない良心という立ち位置で登場するトランスジェンダーのユイ。

パク・ジョンミンが見事に演じる彼女の存在感は作品に確かな深みを与えている。

観客は、彼女の存在を通して、殺し合う2人の暴力の異常性を再確認し、また少女を救いたいというインナムに残された人間性に自然な共感を覚えるはずだ。

少し脱線すると、孤独な暗殺者が人間性を取り戻して少女を救おうとする物語と言えば、リュック・ベッソン監督作『レオン』が思い浮かぶかもしれない。

本作の中身はそれとは別物だが、少女を守ろうとするインナムの協力者であるユイが『レオン』のマチルダのようなボブの髪型であり、マチルダのように首にはチョーカーをしていたのは単なる偶然だろうか、それとも意図されたオマージュだろうか。

本作はアクションの迫力がとにかく凄い。

これまでの韓国ノワールアクション作品の多くと異なり、韓国内ではなく外国のタイを舞台に破茶滅茶やっているのも想像以上に新鮮だし、殺人鬼である一方が攻撃して主人公である他方が防御に回る(あるいは逃げる)といったよくあるパターンではなく、異なる動機からどちらも互いを激しく攻撃しまくるため、ずっと息の休まる暇もない。

他人を守るための狂気と、他人を殺すための狂気。2つの気は互いに絡まりながらジェットコースターのように加速を続け、果たしてどこに辿り着くのか。

大スクリーンを通して体験できるのは、間違いなく韓国ノワールアクションの贅沢な新境地だ。

 

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