『ゆれる』『ディア・ドクター』など、これまでオリジナル作品で高い評価を受けてきた西川美和監督。

その西川監督が初めてオリジナルから離れて原作小説に基づき制作した作品が今公開されている。

原作は、直木賞作家である佐木隆三の小説『身分帳』。

出所後のある犯罪者の人生に焦点を当てたノンフィクションだ。


映画は、人生の大半を刑務所で生活した殺人犯・三上の出所後の生活を描く。

前科者というレッテルや反社に所属していたことは当然に就職にとって大きな支障となり、偏見や差別からは容易には逃れられない。

ただ、この映画が文字どおり素晴らしいのは、三上自身の人情味や憎めないキャラクターといった個性をきちんと描いている点だ。

そんな三上の個性に自然に呼応するかのように、三上と関係性を築く人たちの暖かさを映画はしっかりと拾う。

今度こそ堅気として真面目に暮らそう、と奮闘する三上。

そんな三上が不意に周囲の人たちの優しさに触れて感極まるシーンは、頭での理解より確実に早く心を締め付けるだろう。

いつの間にか三上を応援している自分に気付くのだが、一方で、「何も騒ぎを起こさず普通に生きること」という意味での「更生」とは何だろう?といった疑問も頭をもたげてくる。

そもそも偏見、差別、不条理に囲まれながらの「普通」とは?

義理人情と正義感を持ちながら、不器用で怒りっぽく凶暴さも秘めた三上という男。

三上が目まぐるしく見せる喜怒哀楽。

演じる役所広司が非の打ち所がない。本作は冒頭から最後まで一貫して役所広司を堪能する映画とも言えるかもしれない。

異質な存在を不寛容に排除する傾向がますます強まる昨今の風潮。

刑務所出所者の立場からこのような閉塞的な社会の不条理を見事に伝えた映画としては『ヤクザと家族 The Family』も最近公開されている。

もっとも、不条理を不条理として凄みをもって鋭く突き付けてくる同作とは異なり、本作ではそんな不条理を乗り越える力ないし可能性としての「人の暖かさ」を垣間見ることができる。

その暖かさとは、少しのスーパーの商品かもしれないし、短い電話での会話かもしれない。あるいは何気なく贈られた花束かもしれない。

その些細に思える小さな「暖かさ」に触れることができる限り、この世界は何がどうあってもすばらしいんだ、と力強く肯定したい気持ちになった。

 

『すばらしき世界』 あらすじ

下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、優しくて真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)がすり寄りネタにしようと目論むが…。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく――。

■出演:役所広司 仲野太賀 橋爪功 梶芽衣子 六角精児 他
■脚本・監督:西川美和
■原案:佐木隆三著「身分帳」(講談社文庫刊)
■配給:ワーナー・ブラザース映画

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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記事名:「【レビュー】刑務所から出所した男を待ち構える外の世界〜役所広司の新たな代表作―『すばらしき世界』