金脈化したアイドルの「接触系イベント」 “警備の安全性”“ファンへの対応”抱えるデメリット
情報サイト「Woman Insight」がアイドルファン250人を対象に行ったアンケート調査によれば、同じCDを複数枚買ったことがある人は、回答者250人のうち250人。つまり、100%。枚数に差はあれど、アイドルファンならCDを複数枚買って当たり前の時代なのだ。
ただ、どれほど熱心なファンでも、同じCDを何十枚も必要とはしない。彼らが何十枚も必要とするのは、CDに付属するイベント参加券だ。CDに付属する“特典”だったはずの接触系販促イベントは、もはや“メイン”の商品となりつつある。
ちなみに、複数枚買ったCDはどうするのか? 「布教」と称して無料配布する者も多いが、前述のアンケート調査では「とりあえず家に保管している」が73%と圧倒的。余剰CDを部屋に山積みにしているアイドルファンは多いようだ。
この状況が健全であるかは別問題として、現在のアイドル業界が、接触系イベントによる実売の積み増しに支えられているのは否定しようがない。夢を与えるアイドルも、しょせんは商売。そこにニーズがあるのなら、接触系イベントをメイン商品とするやり方も、否定することはできない。
その流れを作ったのは、言うまでもなく国民的アイドルグループのAKB48だ。今年8月に行われた40thシングル『僕たちは戦わない』劇場盤の発売記念握手会では、広大な幕張メッセに全メンバー分の約300レーンを作り、3日連続で催された。握手会そのものが主要商品となっている分かりやすい例だ。
ステージと客席の間に存在した見えない壁を、「接触」というハンマーで打ち壊したアイドル業界。それによって新たな金脈を掘り当てもしたが、本来、アイドルを守っていた防護壁を壊す行為ともなった。最も象徴的なのが、2014年5月25日にAKB48の全国握手会で発生した傷害事件だ。のちに「人の集まるところで人を殺そうと思ってやった。誰でもよかった」と供述する男は、隠し持ったワイヤー型のノコギリを使い、AKB48メンバー2名とスタッフ1名に大ケガを負わせた。事件後、被害にあった川栄李奈と入山杏奈は段階的に活動復帰を果たしたが、川栄は翌年の3月に卒業を発表。涙ながらに「去年の事件があって、握手会に出られなくなった」と語った。
一歩間違えば、殺されていたかもしれないのだ。誰も、彼女の決断を責めることはできない。むしろ、事件後に戻ってきた精神力に驚き、それゆえ胸を痛めたファンも多かっただろう。
アイドルにもファンにも大きな傷を残した事件以後、握手会など接触系イベントの警備は厳重化された。握手をするブース内に手荷物は持ち込めなくなり、金属探知機でポケットもチェックされた。ただ、そうした厳重チェックも徐々に緩和され、現在でも変わらずに行っているのは、ハロー!プロジェクトぐらいのものだ。公式グッズで売られているタオルやリストバンドまで外さなければいけないのは奇妙な話だが、そこまでしても、前述のような事故を確実に防げるとはまったく思えない。目の前のアイドルに危害を加えることは、いくらでもできる。
言葉の暴力もそのひとつだ。ほんの一瞬、握手をする1〜2秒の間に口汚い暴言を吐かれ、ショックを受けて泣き出してしまうアイドルもいる。いくら警備を厳重化しても、握手会を行う限り、これを防ぐことはできない。2015年10月11日に行われたHKT48の握手会イベントでも、興奮状態で意味不明の言葉を喚き散らす男が現れ、その場を騒然とさせた。こうしたことが起きるたび、アイドルたちは大きな不安とストレスをその身に受ける。
握手会などの接触イベントで傷ついたり、ストレスを感じたりしているのは、アイドルだけではない。本来、サービスを受けている側のファンが、握手会によって不快を与えられることもままあるようだ。その好例が、いわゆる「塩対応」というやつだ。塩対応とは、握手会などでアイドルがファンに対して愛想のない態度を見せることで、その逆は「神対応」と呼ばれている。
もちろん、愛想のない対応も「キャラクター」として受け入れ、塩さえ楽しめるようになれば、“お強いヲタ”と呼ばれるのかもしれない。しかし、すべてのアイドルファンのハートがそこまで強靭にできているわけではない。お気に入りのファンとそうではないファンとの対応の差ぐらいならまだしも、なかには露骨に冷たい表情を作り、まったく口をきかずに無視をするアイドルも。「もう握手には行かない」と泣きながら会場をあとにする女性ファンもたびたび見かける。
こうなると、いったいなんのために握手会を行っているのか分からない。ファンとしては、傷つけられるために1080円を払った形だ。まぁ、そうした趣味をお持ちの方なら、精神的なダメージを受けて喜んでいるのかもしれないが……。
ファンへの塩対応が問題となるのは、後輩にも影響を与える点だ。憧れの先輩の姿を見た後輩が、「この程度でいい」「こんな態度が許される」と誤った学びをしてしまったら、グループ全体の人気低下にも繋がりかねない。握手をすればするほど人気が落ちるアイドルグループ? それこそ、本末転倒だ。
今のアイドル業界で、接触系イベントから“卒業”するのは難しい。ならば、安全面も含め、アイドルとファン、両者ができるだけストレスを抱えないで済む方法を探ることが必要だろう。おそらくそれは、体裁だけの警備などではない。
【リアルライブ・コラム連載「アイドル超理論」第5回】
【記事提供:リアルライブ】
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