【バラエティ黄金時代】爆笑問題、ネプチューンやくりぃむしちゅーを輩出した“ボキャブラ天国”シリーズ
断続的ながらも、1992年〜99年に放映されていたフジテレビのバラエティ番組“ボキャブラ天国”シリーズ。第1期には、“文科系語学エンターテイメントのパイオニア”というキャッチフレーズが付けられ、司会者のタモリの番組であることを強調するように、『タモリのボキャブラ天国』というタイトルだった。歌詞のダジャレや替え歌を「ボキャブった」という表現で示し、一般視聴者から送られたVTRを紹介。パネラーが、「バカパク」、「シブ知」、「ポイ」、「小島あずかり」(アシスタントで当時フジの女子アナだった小島奈津子のあずかりの意味)などでランキングする、品評番組だった。
しかし、司会がタモリからヒロミにバトンタッチされたほぼ同時期から、ゆるやかにシフトチェンジ。“キャブラー”と称されたお笑い芸人たちの人気が上昇し、若手芸人の登竜門のような番組になった。キャブラーたちはボキャブラブームを巻き起こし、“ボキャブラ世代”、“ボキャ天世代”などと呼ばれた。番組内の芸風は、コントと言葉のダジャレを組み合わせたもので、本人たちの持ち芸ではないのも特徴だ。
なにより、現在のテレビに欠かせない多くの芸人を輩出している。出世頭のひと組は、爆笑問題。付けられたキャッチコピーは、“不発の核弾頭”だ。現在、爆問のネタを書いているのは太田光だが、同番組では大半を太田が書き、オチとなる「ボキャブった」部分は田中裕二が担っていた。…と表面的にはコメントしていたが、ふたりがレギュラーを務めていた『爆笑問題の検索ちゃん』(テレビ朝日系)では、すべてを田中がひとりで書いていたことをカミングアウト。ダジャレという概念を忌み嫌う太田は、このころからイズムが顕在だった?
“邪悪なお兄さん”と付けられたのは、海砂利水魚。現在のくりぃむしちゅーだ。まだ20代で、とがっていた上田晋也、有田哲平だが、同番組で特に好評を博したのは、ネタと関係のない有田の暴露トークだった。女関連をバラされたのは、アンタッチャブル・山崎弘也。営業で熊本を訪れた際、上田の妹をナンパしたというものだった。ネプチューン・原田泰造は、某グループの女性ボーカルからファンレターをもらい、書かれていた電話番号に連絡をしたことを暴露された。この話にはオチがあり、書かれた番号は有田のもの。原田がトラップに引っかかるかを試した、有田の悪戯だったのだ。
そのネプチューンには、“電光石火の三重殺”というフレーズが付けられ、先の原田がイケメンだったことから、キャブラーイチの女性ファンの多さだった。原田がホストに扮するコント「ホスト・アキラ」は、番組内のネプチューンの代表作となり、原田が「ご指名ありがとうございます、原田です」と言うのが定番フレーズだった。当時のボキャブラブームと原田人気に便乗して、くりぃむ・有田は合コンの自己紹介で、「ご指名ありがとうございます、有田です」とつかみ、モテようとしたという。
土田晃之は、コンビ芸人・U-turnとして出演。現在よりも太っていて、愛想も悪く、芸人サバイバルに残り、はい上がることばかりを考えていた目つきをしている。“回転禁止の青春”が、キャッチコピーだった。番組終了後は、人気も収入も低下していき、すでに既婚者で子どももいた土田は、行き詰まった。そんなころ、厳しすぎる土田の性格に嫌気がさしていた相方・対馬盛浩は、ひっそりと就職活動。次の職場が決まると、あっさり芸能界から足を洗った。
この対馬のように、一般人に戻ってしまった者、元フォークダンスDE成子坂・村田渚のように亡くなってしまった者、元極楽とんぼ・山本圭一のように不祥事を起こして芸能活動を禁止された者など、同番組にはさまざまな元芸人がいたため、映像化・再放送がむずかしい。現に、06年まではフジ系のBS放送で再放送されていたが、NG芸人の出演回は、放映が見送られている。また、逮捕歴がある田代まさし、元横浜銀蝿の翔が出演した回も、まるごと放映されていない(いずれもパネラー)。さたに、死亡した元F1レーサー、アイルトン・セナやダイアナ皇太子妃を扱ったネタも、そこだけカットされる不自然さが生じている。
多くの芸人がチャンスをつかみ、女性ファンからの黄色い声援を浴び、驚くような高額ギャラを手にしたボキャブラブーム。大成した者の裏では、一発屋芸人と化した者、芸能界を引退した者がいる。いっぽう、土田や有吉弘行のようにコンビ解散後、ピン芸人としても花を咲かせた者もいる。「映像化不可」が逆に、キャブラーたちに、番組に箔を付けているかもしれない。
(伊藤雅奈子=毎週木曜日に掲載)
【記事提供:リアルライブ】
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