歴史の教科書では戦国時代の発端は応仁の乱と習った。さかのぼること5年、すでに荒廃していた京都で起きた「寛正の土一揆」の首謀者、蓮田兵衛を主人公にしたのが「室町無頼」(17日公開)である。
飢饉(ききん)と疫病のまん延で、死体の処理に追われる地獄のような光景。一方で痛快なアクションの連続。「モテるために」映画監督になった一方で、近作「あんのこと」では社会の暗部にスポットを当てた。そんな入江悠監督ならではのダークなエンタメ世界には怖い物見たさの魅力がある。
大泉洋演じる兵衛は腕が立ち、浪人の身ながら兵法にも明るい。村人に盗賊対策を指南し、生活苦に輪をかける新設関所には当たり前のように焼き打ちをかける。「七人の侍」の志村喬をほうふつとさせる義の人だ。
兵衛の悪友として、対照的に描かれるのが堤真一ふんする骨皮道賢。こちらは才覚を出世に生かして治安維持の首領にのし上がる。
兵衛も道賢も歴史書に名の残る実在の人物で、2人にスポットを当てた板垣涼介氏の歴史小説が原作だ。
2人を巡るさまざまなエピソードの末に、都の中心部を震撼(しんかん)させる大一揆がクライマックスだ。「るろうに剣心」のワイヤアクションを担当した国際派の川澄朋章氏と京都伝統の殺陣師、清家一斗氏が組んだアクションはバリエーションに富み、目まぐるしい。
当時あった七重の塔を象徴的に使った夜のシーンは、「火」をからめた視覚効果で魅せる。
対立関係にありながら、互いを立てる兵衛と道賢の悪友の絆は、大泉と堤だからこその「深さ」を感じさせる。殺陣では兵衛に付き従う才蔵役の長尾謙杜(なにわ男子)が光る。序盤の汚れっぷりといい、後半の神業のような棒術といい、芝居心、殺陣の感…今後を期待させる。
幕府を裏で操る大名を思いっきりいやらしく演じた北村一輝といい、中村蒼の覚めきった将軍といい、時代活劇には欠かせない悪役キャラもしっかりと立っている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)