平成28年度 国民生活基礎調査によると、日本において便秘の自覚症状のある人は約450万人。潜在的な患者数はもっと多いと推測されている。
近年の研究では、4日に1回以下しか排便しない人は、1日1回以上排便する人に比べて循環器疾患で死亡するリスクが約1.4倍、特に脳卒中については1.9倍にもなるという発表もあり(※1)、腸は、いまや健康維持のためにかかせない臓器として、第二の脳や心臓とまでいわれている。
2017年10月には、一般財団法人日本消化器病学会が日本初の【慢性便秘症診断ガイドライン】を発刊するなど、今、改めて便秘の正確な診断と対策に注目が集まっているのだ。
食物繊維の意外な役割
便秘解消法といえば、乳酸菌や食物繊維などを摂取して腸内環境を整える「腸活」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
なかでも、食物繊維は“お通じ”をおだやかにする成分。食物中に含まれている人の消化酵素では消化されない成分の総称であり、その保水力によって便に適度な軟らかさが与えられるほか、便の量を増やす材料となることで、便性の改善が期待できると考えられている。しかし、腸にとってそれだけではないらしい。
善玉菌×水溶性食物繊維の働き
食物繊維には、水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と溶けにくい「不溶性食物繊維」に分けられ、それぞれ腸に対する役割分担がちがう。なかでも最近、注目されているのが「水溶性食物繊維」だ。
善玉菌のエサとなった水溶性食物繊維は、発酵分解され「短鎖脂肪酸」がつくられる。この短鎖脂肪酸がつくられることで大腸内が酸性の状態に傾くため、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌はより元気に、酸性に弱い大腸菌などの悪玉菌が減少し、結果として腸内環境が整うそうだ。
注目の「グアーガム」とは?
最近、その水溶性食物繊維のなかでも注目されてはじめている成分がある。
私たちにとって、かなり身近でありながら食品としてはあまり知られていない成分。その名前を「グアーガム」という。
グアーガムは、インドやパキスタン地方で栽培されている「グアー豆」を精製して得られる水溶性食物繊維。その強い粘り気は日本でもアイスクリームやドレッシングの増粘剤としてよく使われており、とても身近な素材だ。
水溶性食物繊維のなかでも特に高発酵のため、腸内細菌によってより多くの短鎖脂肪酸がつくられ、便通の改善だけでなく軟便傾向にも応用できることから、医療・介護現場でも食品に利用されているそうだ。(※2)
現在、日本ではグアー豆やグアーガムそのものはほとんど市販されていないが、今年9月にネスレ ヘルスサイエンス カンパニーが、栄養補助食品ブランド『BOOST』シリーズとして、グアーガムを用いたワンショットサプリメント飲料を販売するなど、「腸活」にかかせないスーパー食物繊維として徐々に注目されてきている。
出典 https://www.nestlehealthscience.jp/brands/boost
それぞれの食物繊維の役割分担
元来、グアーガムをはじめ水溶性食物繊維は、保水性が高く、糖分の吸収速度をゆるやかにする働きがある。食後の血糖値の急激な上昇を抑え、脂肪の吸収をおだやかにし、血中コレステロール値を減少させると言われている。
グアーガムのように粘りのある食品に多く含まれるイメージだが、必ずしもネバネバ系だけでもなく「ごぼう」、「らい麦」などは水溶性食物繊維、不溶性食物繊維ともに多く含む。他にも、水溶性食物繊維を多く含む食べ物として、「らっきょう(生)」「なめこ」「おおむぎ」「アボカド」「海藻類」などが挙げられる。(※3)
対して、不溶性食物繊維には、摂取した食事の水分を胃や腸で吸収して大きくふくらみ、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を活発にし、腐敗物質を絡め取り排出しやすくする作用がある。主に「いんげん豆」「とうもろこし」「きくらげ」「納豆」「りんご」「ブロッコリー」などに多く含まれるそうだ。(※3)
水溶性食物繊維、不溶性食物繊維ともに期待できる効果が違うので、どちらもバランス良く摂ることが大切。快便だけでなく、私たちの健康に大きく影響を与える食物繊維は、さまざまな種類があるので自分に合ったものを選びたい。
■参考
※1 Honkura K, et al. Defecation frequency and cardiovascular disease mortality in Japan:The Ohsaki cohort study. Atherosclerosis. 2016 Mar;246:251-6.
※2 下田妙⼦、臨床栄養学栄養管理とアセスメント編(第2版). 化学同人.
※3 文部科学省日本食品標準成分表