
今年7月は“大地震説”が世間を賑わせたが、地震大国・日本では常に地震のリスクが潜んでいる。震災による企業の経済的ダメージは計り知れないが、「物的損害がないために保険が出ない」というケースは珍しくないことをご存じだろうか。
そんな中、HDI Global SEとデカルトアンダーライティングが日本における企業向けパラメトリック地震保険販売認可を取得したと発表した。東京で開催された発表会では、両者の担当者が新しい保険商品の特徴や導入の背景について説明。近年ますます高まる地震リスクに備え、迅速かつ明確な支払いを可能にする画期的なスキームとして注目を集めている。
地震リスクに備える企業の新たな選択肢

株式会社デカルトアンダーライティングの代表取締役社長・島田郁矢氏は、「日本の地震リスクは世界でも群を抜いて高く、南海トラフ巨大地震が発生した場合の経済的損失は百兆円規模になる可能性がある」と述べた。
内閣府が発表した試算によれば、建物・設備などの被害だけで最大92兆円を超える規模。物流の二次被害を含めると、企業のリスクマネジメントにとっては、BCP(事業継続計画)だけでは、避けては通れない脅威となっている。
国内初「パラメトリック地震保険」の特徴とは?
今回、金融庁から認可された「パラメトリック地震保険」の最大の特徴は、地震の震度が保険金支払いの条件になっている点だ。あらかじめ設定された震度を気象庁等の震度観測点で記録すれば、建物や機械設備等の損害、営業の中断による利益損失などについての損害査定を行うことなく保険金が支払われる。
従来の地震保険では、「損害額の査定に半年〜1年近い時間がかかり、災害復旧が遅れる」というケースも珍しくないが、パラメトリック地震保険はこうした課題を根本から解消するものだ。

例えば、保険限度額が30億円の場合、最寄りの観測点で震度6.4を記録した際には、60%相当の18億円が速やかに支払われる仕組みとなっている。なお、保険金額、支払い条件の設定には、建物の耐震性やBCPシナリオなどが考慮される。
火災保険の上乗せにも活用可能
企業によっては、すでに火災保険に付帯する形で地震保険を手配しているケースも多い。こうした場合でも、パラメトリック地震保険を補完的に導入することが可能だ。
例えば、「地震保険の免責額を買い戻す」、「地震保険の限度額に上乗せする」、「火災保険と地震リスクを分離して保険料のコストを最適化する」など、柔軟に設計できる。
また、パラメトリック地震保険は物的な損害を伴わない場合でも補償の支払いを受けられるため、企業のリスクマネジメントを大きくサポートしてくれる。
世界水準の再保険体制
日本は世界有数の地震多発国である一方、国内の保険マーケットだけでは巨大災害時の損失をカバーしきれないという現実もある。特に1件あたり数十億〜数百億規模の企業補償となると、国内保険市場の引受能力に限界があるのが実情だ。
今回のパラメトリック地震保険では、イタリアのGenerali Global Corporate &Commercialをはじめとする再保険企業が参画。1契約あたり100億〜300億円程度の引き受け能力を持つこの体制は、災害時の確実かつスピーディな支払いを実現する堅牢なバックボーンとなっている。
パラメトリック地震保険が企業のレジリエンスを支える
HDI Global SEとデカルトアンダーライティングが共同開発した「パラメトリック地震保険」は、地震リスクの高い日本において、企業の事業継続性を確保するうえで画期的な保険商品と言える。
これまで、保険金の支払いに時間がかかったり、物的損害がない場合に補償対象外とされたりしてきたリスクに対しても、「震度」という客観的な基準で迅速な資金供給を可能にする仕組みは、保険業界にとっても大きな進展だ。
BCPの強化や財務的なリスク分散に限界がある企業にとって、パラメトリック地震保険は将来的に「いざという時」に備える有力な手段として、より広く活用されていくだろう。