さいたま市・大宮駅から徒歩3分に位置する「医療法人博文会 埼玉外科クリニック」。ここには、鼠径(そけい)ヘルニアの日帰り手術を求め、地元のみならず全国各地から患者が訪れる。国内ではいまだ入院を伴う治療が一般的なこの疾患に対し、埼玉外科クリニックは患者の負担を最小限に抑える低侵襲手術の普及に挑戦している。その取り組みの背景と現状について、松下公治院長に話を伺った。
■患者負担を軽減する鼠径ヘルニア治療の最前線
鼠径(そけい)ヘルニアは、男女問わず多くの人が罹患し、特に男性では3人に1人が発症する。鼠径部(足の付け根)の腹壁に隙間が生じ、腸や脂肪が皮下に飛び出す疾患で、俗に「脱腸」とも呼ばれる。
日本国内では年間13万人以上、世界では約2000万人がこの疾患の手術を受けており、外科手術の中でも最も多い疾患の一つだ。欧米では日帰り手術が主流となっているが、日本では実施率がわずか6.9%に留まり、平均4.5日間の入院が一般的とされる。しかし、多くの鼠径ヘルニアは入院を要せず、日帰り手術で治療可能だ。腹腔鏡を用いた低侵襲手術なら、体への負担を最小限に抑え、早期の社会復帰が可能となる。
埼玉外科クリニックは、松下院長の「患者負担を軽減したい」という想いから2022年9月に開院。鼠径ヘルニアに特化した治療を提供し、開院から2年余りで累計手術件数は1000件を突破。2024年には年間449件を記録した。
腹腔鏡による日帰り手術は徐々に普及しているものの、全国的に対応可能な医療機関はまだ少ない。患者ニーズは高く、同院はこれからも一件一件を丁寧に積み重ね、応えていく。
■経験豊富な外科医が挑む、質の高い日帰り手術
累計5000件以上の手術経験を持つ松下院長。転機は、友人医師のクリニックで週1回非常勤として鼠径ヘルニアの日帰り手術を手伝い始めたことだった。長期休暇を取れない人、育児や介護を抱える人が日帰り手術を選ぶ姿を見て、そのメリットを確信。以降、この術式を徹底的に磨き上げ、普及を目指す決意を固めた。
鼠径ヘルニア手術は「若手医師の登竜門」とされることも多いが、実際には再発や合併症のリスクを伴う手術で、豊富な経験を持つ医師が責任を担うべきだと松下院長は語る。こうして鼠径ヘルニア治療に専念し、埼玉・大宮駅近くに自身のクリニックを開院。口コミで評判が広がり、日帰り手術を求める多くの患者が訪れるクリニックへと成長した。
同院では、術前検査を徹底し、リスクを正確に把握した上で、日帰り手術が適しているかどうかを慎重に判断。患者が自宅で自己管理できるよう、詳細な説明を行い、理解を確認しながら治療を進める。
「開院当初、手術の完成度には自信があったが、それでも『ここをこうした方がいい』という改善点が日々見つかる。現状に満足せず、見逃されがちな部分にもこだわり、より完成度を高めたい」と松下院長。「自ら手術を行い、患者が元気になり、喜ぶ姿を見ることが医師としての原点。外科医、麻酔科医、看護師、医療事務のチームで診療の質を高め、より満足度の高い治療を提供していく」と決意を示す。
■診療報酬の壁を超え、世界一の手術を目指す
日本で鼠径ヘルニアの日帰り手術が普及しにくい背景には、診療報酬制度の構造的な課題も影響している。海外では入院費用が高額なため、患者はできるだけ入院を避けるが、日本では保険制度が手厚く、入院費用が比較的安価なため、病院側にとっても入院は収益源となり、日帰り手術普及の妨げになり得る。
それでも埼玉外科クリニックは、患者から寄せられる「ありがとう」の声を糧に、腹腔鏡による低侵襲手術に挑み続ける。
「世界一の鼠径ヘルニア手術を目指し、日本だけでなく世界中の知見を集め、より良い術式を追求したい。理想の診療を実現するため、挑戦を続ける」。松下院長の挑戦は続き、診療の未来を切り拓いていく。
医療法人博文会埼玉外科クリニック
理事長 松下 公治
2004年に宮崎大学医学部卒業後、横須賀市立うわまち病院着任。西吾妻福祉病院を経て、
2008年、Oregon Health & Science Universityに短期留学。帰国後、自治医科大学附属さいたま医療センター、東京北医療センター、練馬光が丘病院にて勤務。イムス三芳総合病院腹腔鏡ヘルニアセンター長、東京外科クリニック特任院長(兼務)を歴任後、2018年、板橋中央総合病院 鼠径ヘルニア統括医師。2022年、埼玉外科クリニックを開院。2024年、医療法人博文会理事長に就任。
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