日本映画界屈指の鬼才・石井裕也監督(『月』、『舟を編む』)の最新作『本心』が11月8日(金)に全国公開。原作は、「ある男」で知られる平野啓一郎の傑作長編小説「本心」。キャストには、池松壮亮を主演に迎え、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子ら、映画界を牽引する豪華実力派俳優陣が集結しています。
物語の始まりは2025年。主人公・朔也(池松壮亮)の母・秋子(田中裕子)が、ある日突然「大事な話があるの」と言い残し急逝してしまう。生前母が “自由死”を選んでいたことを知った朔也は、彼女の“本心”を探るため、彼女の情報をAIに集約させ人格を形成するVF(ヴァーチャル・フィギュア)として仮想空間に母を“蘇らせる”が…。
本作でAI監修を務めた理化学研究所の清田純が、本作に登場する、生前の情報をAIで集約し人格を形成するVF(ヴァーチャル・フィギュア)といったテクノロジー、そして“AIは人の心を再現できるのか”というテーマについて、研究者目線で解説。『本心』で描かれる物語は、現実と地続きであると語っています。
本作は、原作を読んだ池松が全幅の信頼を寄せる石井監督に“今やるべきテーマ”と企画を持ち込み結実した意欲作。清田も本作について、「台本を事前に読ませていただきましたが、その時点で“ここはおかしい”と思う部分は全くありませんでした。そもそも原作がChatGPTが登場する前の、2019~2020年に連載されていたのが驚異的です。あの時点で高い精度で未来が予想されていて、我々研究者の間でも、話題になっていました」と振り返ります。
また、2019 年に新聞連載が開始された原作小説「本心」は、2040年代を舞台にした“未来の物語”として描かれていたが、急速なテクノロジーの進化により、映画の舞台設定は「今から地続きの少し先の将来(始まりは2025年)」へと大幅に前倒しに。これを受け清田は、「映画『本心』は“2024年の今年に公開されること”が非常に意味があると思っています。」と語気を強める。「2020年に原作が書かれ、2022年にChatGPTが登場、2023年に映画が撮影され、2024年にはApple Vision Proが日本でも発売、そして映画が公開される――物語と現実が密に交錯している今だからこそ、本作の問いかけにリアルな距離感をもって向かい合えるのです。」
劇中では母を“蘇らせた”朔也が他愛もない穏やかな日常を取り戻そうとしていくが、次第に母の“隠された一面”を目の当たりにしていき、さらには、母だけでなく自分自身の本心すらも見失っていくことに…。作品のテーマのひとつである、[AIは人の“心”を再現できるのか]――。
清田は「劇中で母の筆跡やメールのやり取りなどをAIに学習させるシーンがありますが、今現在の技術であれば、約1000件のデータがあればお母さんの特徴を学習することが可能です。後はそこに視覚だけでなく聴覚や触覚を加えるかどうか、という話でしょうね」と驚愕の事実を述べる。「実際、韓国や中国では故人をAIで再現するサービスが始まっています(※)。日本でも、2019年のNHK紅白歌合戦で“AI美空ひばり”が話題を集めましたし、サイバーエージェントは著名人の“分身”となる公式3DCGモデル“デジタルツインレーベル”のサービスを始めており、最初の一人として冨永愛のデジタルツインが作成されました。本作の設定も、もはや完全なSFではなく、我々も朔也と同じ状況になったら、何人かに一人は同じ行動をとるのではないでしょうか」
『本心』で、朔也や彼を取り巻く人々が直面する事態は、現実として着実に迫っているのです。
※故人の言動や性格を模倣するチャットボット「デッドボット」やAIで人間を生成する「デジタル・ヒューマン」ほか
●AI監修
清田 純 (せいた じゅん) 【略歴】 現在、理化学研究所で3つの研究室を率いている(情報統合本部先端データサイエンスプロジェクト医療データ深層学習 チーム、統合生命医科学研究センター統合ゲノム研究チーム、情報統合本部基盤研究開発部門医科学データ共有開発ユニット)。1996年に筑波大学医学専門学群を卒業し心臓血管外科の研修医を経て、幹細胞生物学を研究し東京大学で 博士(医学)を取得。2006年から2016年までスタンフォード大学で1細胞生物学、システム生物学、データ駆動科 学、機械学習を研究。研究テーマは、AIと生物学、医学、さらにその先の分野に及ぶ。他に筑波大学教授、株式会社アバターイン・アドバイザー等。日本ディープラーニング協会有識者会員。
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