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オムニバス映画『満月、世界』塚田万理奈監督インタビュー 「わたしたち大人は、子供たちの可能性がいっぱいある世の中を残しておかないといけない」


長編デビュー作『空(カラ)の味』が第10回田辺・弁慶映画祭で弁慶グランプリ・女優賞・市民賞・映検審査員賞と史上初の4冠に輝いた塚田万理奈監督によるオムニバス映画、『満月、世界』が公開になりました。

このオムニバス映画『満月、世界』は、塚田監督の地元長野で10年かけて16mmフィルムで撮影中の劇映画『刻(トキ)』の制作過程で生まれた『満月(ミツキ)』と『世界』を合わせたもので、それまで自分のことをテーマに映画制作をしていた塚田監督が、突き動かされるようにメガホンを握った渾身作となっています。塚田監督に想いをうかがいました。

■『満月』:小説を書いたり音楽に没頭したり、自分の世界を持っていながら、過ぎていく日常の中で、懸命に感性を働かせて生きている中学生、満月(ミツキ)の物語。

■『世界』:吃音があり作文発表では上手く朗読できないが、世界地図を読んだり洋楽を聴くのが好きな中学生、秋と、やりたくて始めたはずの音楽に焦りを感じている歌手、ゆうみの物語。

●個々の作品はすでに映画祭でお披露目されていると思いますが、届いている感想で印象的だったものは何でしょうか?

『満月』も『世界』も海外で最初に上映しているのですが、言葉も違うのにみなさん「満月が綺麗、秋ちゃんが綺麗!」「この映画は美しい!」とたくさん言ってくれました。言葉がなくても、お客さんにちゃんと届いたのだなと思いました。

●これまではご自身のことをテーマに映画を撮っていたけれど、今回の作品は、描かなければいけないものがあるという思いに至ったそうですね。

今まで、自分が体験したこと、自分の人生ばっかり撮ってきました。今は『刻』という作品を作っていまます。これはわたしが中学時代の友達と大人になって再会して、中学時代から抱えていた気持ちが大人になって変化した出来事があって、その気持ちを全部残しておきたいなと思い、わたしの人生を元に、中学時代から大人になるまでの10年間くらいの物語の脚本を書いたんです。

●壮大なスケールですね。

『刻』を撮ろうと思った時に、映画におけるフェイクがとても悔しくて。わたしは本物の人間でしたし、映画の中のキャラクターも本物の人間として扱いたいと思って、より本物にするにはどうしたらいいだろうと考えました。大人役と子役を分けることが元々あまり映画において好きじゃなくて。

わたしも1人の人間ですし、役柄も1人の人間なのに、2人の人間が演じているということに違和感をちょっと感じていたんです。1人のキャラクターは、1人の人間に演じてもらいたいなと思いました。1人の人間に1人の役を任せて、10年間くらいかけて撮影しようかなと思いました。

そこで地元でワークショップを開いて、出演してくれる子供たちと出会い、『刻』の撮影をし始めました。そうして子供たちと関わっていく中で、『満月』と『世界』を撮ることにしたんです。子供たちと関わっているうちに、今までは、自分の撮りたいことばっかり撮ってきたのですが、あの子達を撮りたい、と思ったんです。あの子たちは、未来に対して不安を持っていて、迷いもあって、でもそれって、可能性がめちゃくちゃいっぱいあるからで、とても素晴らしいなって思ったんです。

あの子たちは何にでもなれますし、何でも出来る。あの子たちが何にでもなれる世の中じゃないとダメだなって思ったんです。最近、戦争も多いけど、子供たちが何になれるかと語れなくなっちゃったら嫌だなと思いました。何になりたいとか、言えなくなっちゃったら嫌だなって。

子供たちが未来に対して、これが好き、あれを続けたいとか、そういうことが言える世の中がいいと、子供たちと接しながら 思うようになって、あの子たちが何かを好きになる気持ち、未来に対して生きようとしていることって、撮っておかないと、残しておかないとダメだなと思い、あの子たちのことを撮ろうと思いました。

●それが2個の作品に分かれているわけですね。

『満月』の場合は、子供たちを見ていて、子供たちってこんなに綺麗なんだって思って、シンプルに満月のことだけを撮りました。

『世界』は、子供たちと関わっていくうちに、あなたたちが美しい、とわたしはもっと自信を持って言えるようになっていたので、そういう自分の視点が入ってる映画です。子供をただ見つめた視点と、わたしの存在が視点に入ってる2本という感じになっています。

●これはオムニバス映画として多くのみなさんが観ることになると思いますが、今想うことは何でしょうか?

まず子供たちに対しては、先ほどの繰り返しになりますが、自分が何者になるだろうとか、どうやって生きていくだろうとか、目の前の友達と上手くやっていけるだろうかとか、勉強を上手くやっていけるだろうかとか、未来に不安はあるだろうけれど、その不安はすべて、可能性があるからこそだと思うので、その分、あなたたちは何にでもなれるよと思っていますし、悩んでいるあなたたちはとても綺麗だ、と思っています。

大人のみなさんに対しては、子供たちの可能性がいっぱいある世の中を残しておかないといけないよね、と思います。子供たちを生かしましょう!と言いたいです。

映画『満月、世界』は、9月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開中

(執筆者: ときたたかし)

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