YOASOBIの大ヒット曲「ハルジオン」の原作者としても知られる橋爪駿輝の原作小説「スクロール」(講談社文庫) が北村匠海×中川大志W主演で映画化。2月3日(金)より全国公開中です。
理想と現実のギャップに悩む4人の若者たちが社会や自分自身と必死に向き合う姿をリアルに描く本作。小説の執筆以外にも、Amazon Prime Videoで配信中のAmazon Originalドラマ『モアザンワーズ / More Than Words』にて初の長編監督を務めるなど、多彩な活躍を見せる原作者の橋爪さんにお話を伺いました!
【ストーリー】 〈僕〉のもとに、学生時代に友だちだったユウスケから友人の森が自殺したという報せが届く。就職はしたものの上司からすべてを否定され、「この社会で夢など見て はいけない」とSNSに想いをアップすることで何とか自分を保っていた〈僕〉と、毎日が楽しければそれでいいと刹那的に生きてきたユウスケ。森の死をきっかけに“生きること・愛すること”を見つめ直す二人に、〈僕〉の書き込みに共鳴し特別な自分になりたいと願う〈私〉と、ユウスケとの結婚がからっぽな心を満たしてくれると信じる菜穂の時間が交錯していく。⻘春の出口に立った4人が見つけた、きらめく明日への入口とは──?
──とても素敵な作品をありがとうございます。原作者の先生からご覧になって、北村匠海さん、中川大志さん、松岡茉優さん、古川琴音さんの4名はイメージ通りでしたか?どんな印象を持ちましたか?
まず、「よく揃ったな」と思いました(笑)。こんなに豪華で、ただ豪華なだけではなく実力があって、今一番勢いがある方々ですし。すごく素敵な役者さんたちが集まってくださったことに驚くと同時にありがたいなと思いました。
──撮影現場に行かれたりもしたのでしょうか?
冒頭のシーンとバーのシーンの撮影を見に行きました。冒頭のシーンは10分以上、ワンカットで撮影しているのですが、僕の終電までに本番が始まらなくて(笑)。コロナ禍での撮影ということで、リモートで見られるようになっていたので、家で見させていただきました。照明にもこだわっていましたし、どういうタイミングで動くか、カメラワークなど、すべてを合わせるために時間がかかっていたのだと思います。
──こだわりのつまったシーンになっているのですね。
その冒頭ワンカットシーンは、脚本を読んだときに、一番どうやって撮るかが分からなかったんです。実際に映像としても幻想的で、現実ではない世界、おそらく登場人物たちの心情を表現していると思うのですが、「こういうことを狙っていたのか」と気づいたときにびっくりしました。 ワンカットの映像から始めるというのは、準備も大変ですし、監督としても勇気が必要だったと思います。ごまかしがきかないので、一歩間違えると「なんじゃこりゃ」というシーンになってしまいますし。そういうことを踏まえたうえでチャレンジしてくださったのが嬉しかったです。
──その他、お好きなシーンはありますか?
北村さんが演じる「僕」と、古川さん演じる「私」が走るシーンはすごく好きです。 先に明るい未来があるのかは分からないけど、もがきながら走っている感じが、映像的に捉えられていて。「僕」が途中で一段ギアを上げて走る部分があって、その北村さんの表現もステキだなと思いましたし、胸に迫る映像になっているので好きです。
──映像化に関してお願いしたことなどはありましたか?
清水康彦監督も、カメラマンの川上智之さんも、以前ご一緒したことのある方々で、チームとして信頼をしていたので、特にオーダーはしておらず、お任せしました。清水さんが脚本に入っていない段階でいただいた第一稿が、良い意味でも悪い意味でも、原作そのままで。そのときに、「そのままでもいいですし、変えたい部分があれば気を使わずに変えてください」という話をしました。映像に関しては何も言っていません。「良いものを撮ろう」としてくれているチームなので、完成が楽しみでした。
──自分の手を離れて、また別の、良い作品になっていく様な印象でしょうか。
小説自体、脱稿した瞬間から自分の頭や身体から離れたものという意識があり、“自分の子ども”と表現するのは格好つけ過ぎかもしれませんが、似た感覚があります。なので、デビュー作である「スクロール」が映像化されることはすごく嬉しいのですが、現実味が無くて。先日、映画館に『ケイコ 目を澄ませて』を観に行ったのですが、そこで『スクロール』の予告編が流れて、ビクッとしてしまいました(笑)。
──原作を執筆したときは、どの様な気持ちで作品に向き合っていましたか?
原作を書いた当時は26歳で、「書けるものは、自分と同じくらいの年代や、自分が経験したことがある年代の話だな」と思っていました。仕事もありますし、リアルな人生でも色々あったので、「こんな人たちに読んでほしい」というところまで、明確に計算はできていなかったと思います。「自分に向けて書いた」というところがあります。出版後、多くの若い方に読んでいただけて、感想を聞けたことが嬉しかったです。
──完成した作品を最初に誰に読んでもらいましたか?
たまたまスナックで飲んでいたときに知り合った、講談社の西川さんという方にお見せして。小説家になりたいけど「一行も書けない」という方ってたくさんいると思います。出版社の方はそういう相談をよく受けているのかな、と想像するのですが、僕はそういったスタンスで話していなかったので、それが逆に良かったのかもしれません。
──おっしゃるとおり、小説などで自分を表現したいけれど「一行も書けない」という方は多そうですよね…。
多いと思います。僕は「スクロール」もですし、今も「一行も書けない」ということはありません。なぜなら直せるから(笑)。一行目って自分の才能を突きつけられる瞬間だと思うんです。綿矢りささんの『蹴りたい背中』の中の「さびしさは鳴る。」という一行なんて中々書けないじゃないですか。でも、読者としてはそういったすごい作品ばかり読んでいるから、手が止まってしまう。その気持ちも分かるのですが、みんなが天才なわけでは無いので、自分なりに表現して、詰まったら後から直せば良いんじゃないかなと。気負わずに書くことがいいのかなと思います。
──橋爪さんは、子供時代、どの様に小説や本と触れ合っていたのですか?
小学生の頃、最初は司馬遼太郎なんですよね。それで歴史が好きになって、堺屋太一、池波正太郎、西村京太郎も時代小説を書いていらっしゃって、そんな方々の本を読み始めたことがハマったきっかけでした。その後は志賀直哉、芥川龍之介といった作家の小説を読み始めて、大学生あたりでは村上龍さん、綿矢りささんの本にのめり込んでいました。
──はじまりは時代小説だったのですね。
司馬遼太郎の「竜馬が行く」だったら、あんなにすごい偉人である坂本龍馬が、子供の頃は鼻たれと呼ばれていたけれど、どんどん時代を変えていく…という部分が描かれていて、「今の僕はダメダメだけど、未来には可能性があるんじゃないか」と思えるところが好きでした。音楽でも、銀杏BOYZとかガガガSPとか、情けない感情を吐露しているのにカッコ良さがある、そんな曲ばかりを聴いていました。
──先ほど、『ケイコ 目を澄ませて』のタイトルも出てきましたが、映画もよくご覧になっているのでしょうか。
もともと好きですし、自分が映像を撮る様になってから、より観るときの視点が増えた様な感覚もあります。新しい作品もそうですし、過去に観ていた映画を今改めて観ると色んな発見があったり。『レオン』(1994)とかも見直すと凄すぎて震えます(笑)。『君の名前で僕を呼んで』(2017)も大好きですし、邦画だと『トイレのピエタ』(2015)も好きなので、松永大司監督の新作『エゴイスト』も楽しみにしています。物語でもドキュメンタリーでも全ての作品は、小説にもインスピレーションを与えてくれますし、煮詰まったときこそ、映画を観たり、遊びに行ったり、飲みに行ったりしています。煮詰まっているときって、考えているふりして考えてなかったりするんですよね(笑)。街に出ることがブレイクスルーになることが多いです。
──すごく分かります。“街に出る”という流れでお聞きしますが、最後に今年やってみたいことはありますか?
今更なのですが地元・熊本の「湯らっくす」というところに行って「サウナ」が好きになったので、色々なサウナに行ってみたいです。“ととのう”が目的というよりも、水風呂代わりが川であったり湖の、自然の中のサウナに行きたいです。あと、「フジロックフェスティバル」に行ったことが無いので、今年は大自然の中で音楽を楽しんで、ついでにサウナにも行けたらなんて思っています。
──すごく素敵ですね。橋爪さんの今後の小説はもちろん、映像作品も観られることを楽しみにしています!今日はありがとうございました。
『スクロール』全国公開中
出演:北村匠海 中川大志 松岡茉優 古川琴音
水橋研二 莉子 三河悠冴 / MEGUMI 金子ノブアキ / 忍成修吾 / 相田翔子
監督・脚本・編集:清水康彦 脚本:金沢知樹 木乃江祐希 原作:橋爪駿輝「スクロール」(講談社文庫)
主題歌:Saucy Dog「怪物たちよ」(A-Sketch)
製作:坂本香 鷲見貴彦 小山洋平 佐久間大介 浅田靖浩 エグゼクティブプロデューサー:麻生英輔 木村麻紀 チーフプロデューサー:小林有衣子
プロデューサー:八木佑介 野村梓二 キャスティングプロデューサー:本多里子 音楽:香田悠真 撮影:川上智之
照明:穂苅慶人 録音・音響効果:桐山裕行 美術:松本千広
衣裳:服部昌孝 ヘア:HORI メイク:NOBUKO MAEKAWA 監督補:⻑田亮 VFX:宮城雄太
助監督:草場尚也 制作担当:小林慶太郎 ラインプロデューサー:門馬直人 安藤光造 アシスタントプロデューサー:金川紗希子
製作:『スクロール』製作委員会 製作幹事:TBSグロウディア ベンチャーバンクエンターテインメント制作プロダクション:イースト・ファクトリー
配給:ショウゲート
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画『スクロール』製作委員会