▲現在のジャズ・ギターを象徴するギラッド・ヘクセルマン(c)Hiroyuki Yoshihama
「ジャズってちょっと難しそう」「いつかジャズをちゃんと聴いてみたいけど、今じゃない気がする」「そもそもジャズにギターって入ってるんだっけ?」……
「ジャズ・ギター」という単語に対してはいろいろな感想があると思いますが、実は現在のジャズ・ギタリストたちはスゴい進化を遂げているのです。ギター好きの方なら、ジャズ・ギターの面白さを軸にしてジャズを嗜んでみるというのはどうでしょうか?
ジャズは異ジャンルのミュージシャン同士が集まれるフィールド
ジャズにそれほど詳しくない人でも、即興演奏(アドリブ)に特徴がある、というのはどこかで聞いたことがあるかもしれません。ほとんどのジャズでは何の手がかりもなく即興をするわけではなく、多くの“スタンダード曲”と呼ばれる共通のフォーマットを知っていて、スタンダード曲を元にした即興をするのが基本です。
例えば、「枯葉」という有名なスタンダード曲がありますが、何人かのジャズ・ミュージシャンが集まり“とりあえず「枯葉」やろうか?”と言えば、数秒後には演奏を開始できるのです。
作曲能力に優れたジャズ・ミュージシャンも数多くいますが、まずはスタンダードの演奏で注目を集めないことにはジャズ・ミュージシャンとしての活動の場が得られない場合もあるのです。スタンダードの演奏による競争では、他の人と演奏する曲は同じなので“うまい人”、“いい演奏をする人”、“個性のある人”など、ミュージシャン仲間に認められた実力者だけが生き残っていく傾向が強くなります。
そして、そんな共通フォーマットが存在するので、そのフォーマットを知ってさえいれば、どんな国のどんな音楽的ルーツを持つ人にでも門戸が開かれているというのもジャズの特徴。このような結果として、あらゆるジャンルから腕自慢のミュージシャンが集っているのがジャズなのです。
▲フィンランド、イスラエル、イタリア、チリ、ブラジル、スロヴァキア、ドイツなどなど、世界中から優れたジャズ・ギタリストが現れています(『Jazz Guitar Magazine Vol.3』より抜粋)
現代のジャズ・ギタリストの特徴
先ほど述べたジャズの音楽的な特徴のため、本場ニューヨークのジャズ・シーンでは世界から集まったミュージシャンたちが今この瞬間も切磋琢磨を繰り返しています。そんな厳しいシーンで磨き抜かれた影響か、凄まじい進化を遂げたギタリストたちが世界各国から次々に現れてきています。それぞれが個性的なので非常に大雑把な傾向でしかないのですが、以下のような特徴を持っている人が多いようです。
1.とにかくテクニックがスゴい!
もともとジャズ・ミュージシャンは技巧的に優れた人が多いものですが、近年のトップ・ジャズ・ギタリストはあらゆるジャンルの猛者が集まっているだけあり、速弾きや指を大きく開くようなフレーズは当たり前、異なるメロディを同時に弾くという芸当まで即興でこなしてしまうことがあります。
2.音色が美しい!
“ジャズ・ギターといえばエフェクターは邪道、アンプ直が基本”というのは二昔も三昔も前の話で、今日はエフェクターを使っているギタリストも多くいます。それでも、“ギターらしさ”を強く感じさせる、クリアでふくよかな音色は、多くの現代ジャズ・ギタリストに共通しています。速く弾いたり複雑なフレーズを弾いたりしても、音色は決して細くなりません。テクニックの向上とも関連しますが、優れたピッキングのコントロール技術によって美しい音色とスリリングな演奏を共存させているのです。
3.リズム感がスゴい!
曲中で急に5拍子や7拍子になるのは当然、11拍子や13拍子もサラッと演奏して、しかも曲としては自然に聞こえる。そんな演奏もよく飛び出します。聴いて楽しむ分にはいいけど、演奏しようと思ったら何拍子だか全然わからない、という事態も……。これはドラマーたちの技術的な進化とも関連していますし、民族音楽に変拍子が多用される地域(中東、東ヨーロッパなど)のミュージシャンたちがジャズを演奏するようになったこととも関わりがあるようです。
4.世界各国の音楽性が昇華されている!
世界中にはさまざまな音楽文化があり、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シや、それを使った和音が普通に聞こえる」という地域の人だけではありません。新しい音楽性を持ったミュージシャンが世界中からジャズ・シーンに参入し、周囲のミュージシャンがそれを面白がって研究してじわじわ広まっていく……そんなサイクルによって、ジャズ界では次々に斬新なハーモニーやリズムを取り入れています。
ちなみに、日本では音楽用語での短音階といえば7音から成る「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ」が“普通”に聞こえる人が多いと思いますが、文化によっては「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ♯・ソ」や、「ラ・シ♭・ド・ド♯・レ・ミ・ファ・ソ」(これは8音)という短音階の方が“普通”に感じる人々もいるそうです。ジャズはそういった世界中の音楽性を吸収し続けているということですね!
▲『Jazz Guitar Magazine Vol.3』で現代を代表するジャズ・ギタリストたちの来歴や演奏の分析を掲載!(『Jazz Guitar Magazine Vol.3』より抜粋)
誰から聴き始めればいい?
ここまで読んでちょっと興味を持ってきたら、実際に音を聴いてみたいですよね? 11月18日発売の「Jazz Guitar Magazine Vol.3」(リットーミュージック刊)では、新世代のジャズ・ギタリストたちを特集しています。ここではその中から、9人の名前をYouTubeなどで検索しやすいよう英字名も併記して、ジャズ・ギター・マガジン編集部の一言コメントとともに列挙しておきます。
ギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)
出身国:イスラエル
コメント:現代のジャズ・ギターを象徴する総合的な実力者
マイク・モレノ(Mike Moreno)
出身国:アメリカ
コメント:美しいトーンで伝統と現代をつなぐ探求者
ラーゲ・ルンド(Lage Lund)
出身国:ノルウェー
コメント:緊張感ある演奏でジャズ・ギターの領域を広げる
リオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)
出身国:ベナン
コメント:アフリカン・グルーヴを持ち込んだ革新者
ニア・フェルダー(Nir Felder)
出身国:アメリカ
コメント:ロックやブルースなども投影させる新世代
マシュー・スティーヴンス(Matthew Stevens)
出身国:カナダ
コメント:新感覚路線を突っ走るカッティング・エッジの要
カミラ・メサ(Camila Meza)
出身国:チリ
コメント:ヒーリング・ヴォイスと新感覚なギター・プレイの融合
ダリオ・キャッゾリーノ(Dario Chiazzolino)
出身国:イタリア
コメント:ストレードアヘッドに新しいセンスで切り込む
ペドロ・マルチンス(Pedro Martins)
出身国:ブラジル
コメント:浮遊感ある歌声とカート・ローゼンウィンケルゆずりのフレージング
「Jazz Guitar Magazine Vol.3」では、さらに次世代のギタリストたちの演奏も、譜例を挙げて紹介。本誌を片手に、最先端のスゴいギター・プレイに触れてみてください!
ギターの最先端はジャズにあり!
『Jazz Guitar Magazine Vol.3』は11月18日発売!!
https://www.amazon.co.jp/dp/4845634236/定価:2,000円+税
発行元:リットーミュージック
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(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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