5回目を迎えるキングレコードの「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズが7月4日、8月8日に発売。各110発、過去最大220アイテムが揃う。名作、怪作、珍作がさらにパワーアップ。前回に続き、今回も5人の映画人が死ぬまでに観ておくべき作品を紹介する。
第二弾で紹介してくれるのは、井之脇海/襟川クロ/大西信満/立川志らく/松永大司の5名。未見の作品は死ぬまでに観ておくべし!
死ぬまでにこれは観ろ!! by 井之脇海 [俳優]
「ホーリー・モーターズ」は数年前、カラックスオールナイトの一番最後の上映で観た。ラスト一本で眠いはずなのに、アドレナリンが止まらなくて頭フル回転で観たのを覚えている。カラックスが撮るドニ・ラヴァンの集大成のような作品で、ドニ・ラヴァンの魅力が余すことなく映し出されている。また、ラストシーンの会話は、カラックスの現在の映画産業への思いを存分に含ませた内容で、必見。
「パピヨン」は高校生の頃、ダスティン・ホフマンを目当てで鑑賞した。それなのに「この役者うまいな、誰だろう。あれ? ダスティン・ホフマンか!」と思うほど彼の演技に改めて驚かされた。もちろん、スティーヴ・マックイーンも圧巻で、二人の共演だけでも死ぬまでに観る価値がある。実話を基にしているため、展開が中だるみする部分もあるが、そこすら見応えある作品になっているのは二人の芝居が素晴らしかったから。
「フェイシズ」は中年夫婦の関係が破綻していく様を、タイトルの通り顔のアップを中心に切り取った作品。クロースアップを多用することで、顔と言葉と心の不一致さが映し出されていて、より人間らしく面白い。ラストのシーンで、階段がすれ違いの象徴として使われていて、階段を効果的に使う作品は多いが、個人的にこの作品が映画史一番の階段シーンだと思う。また、この作品は自主映画作品で、スタッフもキャストもノーギャラ。予算が少なくても面白い作品が撮れる、と希望をもらった映画。
死ぬまでにこれは観ろ!! by 襟川クロ [映画パーソナリティー]
実話やモデルありきの作品は大好き。知らなかったリアルを分かりやすく教えてくれるから。
「エディット・ピアフ」はコティアールのなりきりに驚きつつ、母親に捨てられ失明の危機を乗り越え殺人共犯の罪を着せられ最愛の恋人を事故で亡くし……とフィクション以上にドラマティックな生涯に圧倒されまくり。で、“私は負けない! それでも歌う”姿に泣き、人生は平凡がいいと地味な日々に感謝です。“愛の讃歌”秘話は忘れられない。
そしてラジオに携わる身としては恐怖度倍増の「ザ・フォッグ」。小さな港町に霧と共に現れた亡霊たち。100年越しのリベンジは痛くて悲しくしつこいです。ひとり灯台の放送局で放送し続けるのが当時ホラー映画のヒロイン代表ジェイミー・リー・カーティス。懐かしいなぁスクリーム・クイーン。年に一度は見たいジョン・カーペンター印です。
大胆な発想が面白すぎて試写で二度見した「カプリコン・1」。初の有人火星着陸が“やらせ”だったとは! セットで撮影されたニセモノ映像に世界中が騙されるとは! 世間ではこの映画がきっかけで実はこうだったかも的論議が始まり大盛り上がり。にしても全面協力したNASA。懐が……深く大きい。この宇宙規模のウソは、死ぬまでに観ないと。
死ぬまでにこれは観ろ!! by 大西信満 [俳優]
ものを言わぬ「魚と寝る女」と「悪い男」の心の声、「嘆きのピエタ」を包む祈り。
ここに挙げた3本は、もともと自分が好きな映画というよりも、たった今の自分の心情が欲した作品と言った方が正確かも知れない。
いずれも、言わずと知れたキム・ギドク監督の作品である。
「嘆きのピエタ」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞するなど世界的な評価を得る一方、常に何かと議論を巻き起こし批判に晒されることも多いキム・ギドク監督。
しかし、昨今の過剰な自主規制、清く正しく安心安全、全方位に忖度、突っ込まれそうな要素は全力で排除といった風潮に倦み気味な今の自分は、たまに今回選出した作品群を見返さなければという衝動に駆られる。
どこまでも自身が思い描く世界を徹底的に、まるでコンクリートに釘で文字を刻み込むようにしてフィルムに焼き付けられたこれらの作品を観ると、鈍器で殴られたような痛みと共に、自分の中に堆積した“慣れ”という垢が搾り出され、強制的に初心に帰らされるからだ。
私はきっと、また観ることになるだろう。
死ぬまでにこれは観ろ!! by 立川志らく [落語家]
鬼才マイケル・チミノ監督の中途半端さがゾクゾクする「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」。「ディアハンター」で賞賛を受け「天国の門」の失敗で映画会社を潰した次の作品。娯楽性を重要視するか己の思想を貫くか、その揺れ方がファンにはたまらない。ぜひ前2作を観てからご覧になるべし。中途半端さが美に昇華している。
そして「カサンドラ・クロス」。細菌に感染したテロリストが列車に紛れ込むというシチュエーションが凄い。『24-TWENTY FOUR-』の世界をすでに描いていた。アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」とアーサー・ヒラー監督の「大陸横断超特急」が合わさったような内容。ハリウッドのパニック映画ではなくヨーロッパのパニック映画。ソフィア・ローレンの存在感がハリウッド映画にはない重厚感をパニック映画にもたらしている。
もうひとつは名作「パピヨン」。スティーヴ・マックイーン主演の脱走もの。マックイーンの脱走物といえば「大脱走」がまず浮かぶが、私は「パピヨン」を推す。共演のダスティン・ホフマンとの掛け合いが美しい。脱走ものとしてはあまりに重たいし、長い。でもラストシーンにたどり着いた時のあの開放感ときたらない! こういう映画もあるのだ。我慢に我慢を耐えて、ラストを迎えるあの感動。それは脱獄を試みる主役のマックイーンと全く同じ気持ちなのである。ただこの映画の凄いところは、観客は最後はマックイーンの目線にならず、ダスティン・ホフマンの目線になるのである。
死ぬまでにこれは観ろ!! by 松永大司 [映画監督]
中学生時代、地元にレンタルビデオ店ができ、人生で初めて借りた映画が「ハンバーガー・ヒル」。父の影響もあり、戦争映画への興味はずっとありましたが、本作は描写が赤裸々で、ドキュメンタリーのように強烈だった。ベトナム兵にミンチにされるかも知れない。だからハンバーガーの丘なんだと。徹底したリアリズム、いい意味でえぐい。昔良かった作品を観直しがっかりすることはありますが、本作は今なお壮大なエンタテインメントとして、鮮明に当時の想いが甦る。映画を観るきっかけとなった一本です。
その後、20歳過ぎだったか、「アンダーグラウンド」が大好きでクストリッツァ監督の他の作品に興味を持ち観た「黒猫・白猫」は映画監督になって映画の世界に入りたいと思わせた一本。耳に残るジプシー音楽、キャラクター造形の深さ、ジャケット写真にも使われている死体を吊るした踏切や、木に括り付けられた合唱団などブラックユーモア、ダークファンタジーに溢れる描写。これまで見たことのない世界に多くの刺激をもらいました。
そしてカサヴェテス監督の「こわれゆく女」は僕が監督としてこれから何を描くか? ということを考えさせてくれる一本。なぜ壊れゆくのか。結局悪いのは女ではなく原題“A Woman Under the Influence”通り、旦那の影響だと分かった瞬間、シナリオもさることながら、役者の演技の凄みに圧倒されました。僕の人生のさまざまな転機に出会った3本です。
(『キネマ旬報 2018年8月上旬特別号』より転載)
「死ぬまでにこれは観ろ!2018」キング洋画220連発!
●7月4日/8月8日発売 BD 各2500円+税、DVD 各1900円+税
●発売・販売/キングレコード
●作品ラインナップなどの詳細は公式ホームページにて
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