旅する髭面の男11人。その名もギあいうえおス。天竺を目指す三蔵法師御一行とも、諸国漫遊の水戸光圀御一行とも、はたまた「オン・ザ・ロード」なビートニク御一行ともまた違う。彼らは何処へ通じるとも知れぬ道を彷徨いながら、何をさがす? 鬼才柴田剛、久々の新作についてインタビュー!
――記録とも虚構ともつかない……という原理上、映像を観る時に常に訪れる感覚、そこを増長させまくったかのような不思議な感じ……前作『ギ・あいうえおス-ずばぬけたかえうた-』(10)で受けたあの感じを再び、今回の『他山の石を以って、己の玉を磨くべし』で味わいました。今回の“新たな旅”を撮るきっかけは……?
柴田 山口情報芸術センター(YCAM)キュレターの杉ちゃん(杉原永純)から『ギ・あいうえおス』を新たに撮ってほしいと声をかけてもらったので、“謎の発光体”をみようとする男たちの映画にするか、と。僕はガキの頃、UFO、オバケが大好きで、3・11以降、改めて図書館やネットでUFOに情報を追っかけはじめていたんです。「映画が撮れないからそっちに行ってしまったノイローゼおぢさん」と心配されながら(笑)。そして、14年11月に韓国のアーティスト、ムン・キョンウォンさんの展示のためにYCAMでリサーチしていた山口の巨石のマップをもとに、山口県を車で巡ってロケハンしました。で、その初日にロケハンを終えてYCAMに車を入れようかとした時、緑色の発光体が走っている道路の目先にある山の方へとブワーッと飛んで行ったんですよ。黄緑色の閃光を連発しながら頭上でこちらの車を抜いていった。「うおおっ!」と思って運転席の杉ちゃんをみたら、「みたよ」って平常のテンション(笑)。その数日前に北九州空港で緑色の火球が目撃されて地元の新聞やラジオで大騒ぎになっていたから、ネットで動画を確認したらまったく同じ発光体で。「ああ、これは映画を撮れってことなんだ」と思って。
――この映画をみていて実は“懐かしさ”を感じました。まず、ギ・あいうえおスの、“砂場で遊んでいた幼年時代“に観客を連れ戻すかのようなすっとぼけた存在感に。
柴田 すでにいい歳こいて、子持ちだっている11人のおっさん達が、それぞれの仕事を調整して9日間無理くり時間を割いて山口県に集まって、目的が“謎の発光体“の出現を待つこと。空を見上げているおっさん達の顔のアップがあればこんな幸せな映画はないんじゃないかと思っていたんです。おっさん達の『スタンド・バイ・ミー』(86/監督=ロブ・ライナー)というか(笑)。それさえ撮れればいいと思っていたら、カメラに“謎の発光体“が写ってしまって……実は、ちょうどそれが撮れた時に僕はうんこに行っていて……(笑)。その前に二日連続でUFOをみていたけど、カメラで捉えられてなくて撮影の高木風太に「撮れてないじゃん」と口にこそ出さなかったけど心のなかでは密かに思っていて(笑)。今度は、うんこから戻ったら風太から「撮れたぞ」とドヤ顔されて(笑)。実は、脳性麻痺で重度の身体障害を持つ住田雅清さんを主演に『おそいひと』(07)を公開した時、「この監督は隠している。障害者を見世物にすると差別監督だと言われるからアート系の映画に収まろうとしているんじゃないか」という意味のことをネットで書かれて、「確かに、それも否めないよな」と思って、自分の言葉の足らなさを強く感じていたんです。だから次、やるときは「見世物をやるぞ」と思っていたから、今回はストレートに「UFO、撮れました!」という映画にしました。柳町光男監督に観てもらったら「あれは本当にUFOなのか? 専門的な所に確認して裏を取ったのか?」と聞かれて「え? ……取ってません。で、映画は楽しかったですか?」「お、うん、面白いよ」……ってかわいくおっしゃられて(笑)。
――おっさん達が「“謎の発光体”を追う」という行為にも“懐かしさ”を感じました。95年のオウム事件までは、テレビでも矢追純一のUFO特番など現実を揺さぶるような虚実ともつかない番組が放映されていて、ギ・あいうえおスは子どもの頃それを観ていた世代ですよね。で、95年の事件以後、そういう番組はダメとなった。彼らはその後、頑に守られている“現実“への息苦しさから外れようと旅するおっさん達なのかな、と。
柴田 人間の目に映るもの全身で感じるものすべてが、大きな意味で情報ですよね。“謎の発光体”は、謎だから如何様にも解釈できるし、向こうから、何かを発するために現れているのかも知れない。そして、最も大事なのは、「それをみた人がどうその体験をキャッチして人生に生かしていくか?」ってことで。それって、根っこまで降りると映画体験と一緒なんじゃないかって思っているんですよ。映画も現実に窮屈さを感じる時に観て「感じたものをどう生かしていけるか?」を問うものだから。
――三つ目の“懐かしさ”として、これは僕らの生まれる前の出来事なんで想像上の懐かしさなんですけど、大まかに言えば「映画の文法、美学、技術が固定される前の時代の映像から可能性が放射される感じ」をちょっぴり体験させてくれるところです。この不思議な映画をどうやら『キネ旬』編集部は星取レビューに取り上げようとしているようですが、いいのか……(笑)。
柴田 先日、ドイツのニッポンコネクションで上映した時に、これだけ小規模な映画も、玉石混淆に商業映画館にかけられているのは日本だけだっていうことを知ったんです。だから日本のお客さんは“外れた映画”との“未知との遭遇”をしやすい状況にいて。“謎の発光体”と遭遇するつもりで、劇場に来ていただけたら嬉しいです。(取材・構成=寺岡裕治)
※この記事は発売中の『キネマ旬報 7月下旬号』(850円+税)より転載されたものです。
誌面には「ギ・あいうえおス 他山の石を以って、己の玉を磨くべし」の特集をさらにディープに掲載中!ぜひご覧ください。
しばた・ごう/映画監督
1975年生まれ、神奈川県出身。大阪芸術大学では山下敦弘、呉美保らと同期。99年、処女作「NN891102」公開。04年「おそいひと」、09年「堀川中立売」公開。『あらかじめ決められた恋人たちへ』のMV等を監督。好きな監督はD・リンチ、ホドロフスキーなど。
「ギ・あいうえおス 他山の石を以って、己の玉を磨くべし」
2016年・日本・1時間26分
監督・編集:柴田 剛/撮影:高木風太/録音:森野 順/美術:西村立志
製作:山口情報芸術センター[YCAM]
出演:柴田 剛、西村立志、森野順、堀田直蔵、酒井力、高木風太、松本哲生、加藤 至、星野文紀、吉田祐、VP-MONCHI
◎7月15日より渋谷ユーロスペースほか全国順次
公式HP:http://special.ycam.jp/guiaiueos/
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