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「私を本当に愛してくれるのは…」源氏の復活と朧月夜の決断!青春時代とモラトリアムの終わり~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



ホーム・スイート・ホーム…源氏、約3年ぶりに帰宅


源氏は難波でお祓いをしたあと、急いで帰京しました。お告げで導いてくれた住吉神社にもお参りしたかったのですが、荷物や従者が多すぎて自分では参拝できず。そのまままっすぐ我が家に帰りました。


源氏側も、京に残った側もみな夢にまで見た再会に喜び、涙します。もちろん一番うれしかったのは紫の上との再会でした。もう二度と会えないかもしれない、生きていても仕方ないと思った日々が報われたのです。見ない間にすっかり大人っぽく美しくなった紫の上。これからは彼女と一緒に暮らせると思うと嬉しい一方、置いてきた明石の君を思うと胸が痛みます。


源氏は紫の上に、早速明石の君の話をしました。彼女のことを語る源氏の様子は随分と熱心で、どうもただの出来心の浮気ではなさそう…。紫の上が1人で(間男を通わせたりもせずに)孤独に耐えていた間、なんだかんだ言って源氏は明石でよろしくやっていたわけで、そのあたりの経緯も含め、明石の君なる人がどうしてもスルーできません。


紫の上はポロッと「身をば思わず…(忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな)」私はどうなろうといいけど、決して心変わりしないと神に誓ったあなたが罰を受けないか心配ね!とヤキモチ。


紫の上の嫉妬パターンはいくつかありますが、一番可愛いのがこれです。チラッとだけいう、こういう妬き方が源氏は大好きで、ああ本当に可愛いひとだ、と改めて思うのでした。まあ、妬いてくれるうちが華。後半、こんな可愛いセリフがドンドン出なくなっていくんですからね…。


二条院に戻ってきた源氏は、さすがに自重して浮気歩きは再開していません。「そちらでは毎朝、あなたの嘆きのため息が霧になって立ち込めているのでは…」と明石の君に送り、須磨で自分を見舞ってくれた五節の君からの手紙にも返事をしますが、どれも手紙だけです。気の毒なのは花散里で、帰ってきたのに源氏が逢いに来ないのを寂しく思っていました。


「わたしは恋よりも愛を選ぶ」朧月夜の決断


帰京後まもなく、源氏は元の官位を取り戻し、新たに大納言の地位を得ます。惟光らの身分も元通りになり、皆、社会的な名誉を回復しました。源氏28歳の秋です。


まず一番最初に取り掛かったのは、父・桐壺院の御八講。夢に出て自分を救ってくれた父への供養を執り行いました。その間に皇太子や藤壺の宮とも再会。皇太子は既に10歳で、年齢よりもずっとしっかりした賢い少年に育っていました。実の父とも知らず、源氏との再会を無邪気に喜んでいる姿が愛おしくも、あわれでもありました。


一方で、太后は相変わらず、源氏が戻ってきたのが悔しくてなりません。「とうとうあの男を消すことが出来なかった!」彼女の病気は重いままですが、帝の眼病は源氏との再会で日に日に回復。本当に目が悪くなったわけではなく、やっぱり精神的なストレスだったんでしょうね。


それでも、疲れ果てた帝は「なんだか長生きできそうな気がしない。心もとないことだ」。皇太子は聡明だし、源氏も戻ってきてくれた。もう自分の役目は終わった……と、譲位の意向を固めます。ただひとつ気がかりなのが、朧月夜のことでした。


「右大臣も亡くなり、母上(太后)も病が重い。私の寿命も長くないようだし、あなたを守ってあげられる人がいなくなったら、と心配ばかりしているよ。あなたは最初から誰かさんのことばかり想い続けて、私のことはどうとも思っていなかったみたいだけど、私はあなたが大好きだ」。


帝のストレートな愛の告白ぶりは健在。羽振りの良かった頃に比べて、今後落ちぶれていく未来が見える朧月夜が心配でしょうがない、という感じ。実際、朱雀帝には他にも妃も子もいますが、彼女への愛情は年々増すばかりでした。


どうして私達の間には子どもができないのか、本当に残念だね。私が譲位したあと、源氏と結ばれて子どもが生まれても、皇子にはなれないものね。源氏とヨリを戻しても、彼は私ほどにあなたを愛してくれないんじゃないだろうか。そんな事を思っても涙が止まらないよ」。


源氏と続いていたことを黙認していたように、朱雀帝は暗に朧月夜が源氏のもとにもどってもいい、と言っています。それにしても、まだ源氏とヨリを戻したわけでもなく、妊娠したわけでもないのに、直接的なことをアレコレ言われて、朧月夜は恥ずかしさで真っ赤です。


頬を染めて涙をこぼしている、その様子が何とも可愛いので、帝は「どんな罪を犯したのであっても、とにかく彼女を愛さずにはいられない」。どんだけ好きなんだよ!!もうこっちが恥ずかしくなってくるよ!自分の過ちを許し、無上の愛を注いでくれる優しい帝に、朧月夜の気持ちも次第に変わってきました。


順風満帆で何の不安もなかった彼女の人生も、この約3年で大きく暗転しました。最初は源氏のことばかり考えていた朧月夜も、今は冷静になっています。


「源氏は素敵だけど、帝ほど私のことを愛してくれていない。あの時は若くて何もわかっていなかったから、あんな事件を起こして、お互いに辛いことになってしまった」。大変な経験をし、傷ついたからこそ、自分を本当に愛している人が誰なのかわかった。朧月夜は譲位する帝についていくことを決めます。


源氏復帰で政界再編、朱雀帝譲位と新帝誕生


年が明け、源氏29歳の2月。朱雀帝が譲位し、ついに皇太子が元服・即位。冷泉帝となります。源氏は後見役として、内大臣に任命されます。


冷泉帝は11歳にしては大人っぽい美男子で、源氏の顔をそっくりそのまま写したよう。世間の人はなにも知らず、新帝誕生と源氏の復権を喜び、美しい2人が輝き合っているようだと褒め称えますが、宮だけは心を痛めていました。


急な譲位に太后は驚きますが「母上には申し訳ありませんが、これからは気楽な身分でゆっくり親孝行を致します」。朱雀院は太后と妃たちと共に宮中を引き上げて、院の御所にうつります。新しい皇太子には彼の唯一の男子、承香殿女御が産んだ皇子が立てられました。


驕れる者は久しからず。故・右大臣一派は政界を去り、辛酸を嘗めた源氏が見事に返り咲きました。一挙に政界が再編されたのです。源氏は内大臣の他、摂政も打診されますが「とてもそんな重責に耐えられない」と辞退。一連の事件で政界を引退していた義父・左大臣に話を持ちかけます。


娘・葵の上との不仲にもめげず、源氏を常に大切にしてきた義父・左大臣。御年63歳と高齢で「病気で引退した上、年もとりましたし、今更そのような重い地位はとても…」と辞退するのを口説き、めでたく太政大臣に就任


ひな祭りの歌のように、基本的には左右大臣が常任していればいいのですが、左右大臣の外の大臣として『内大臣』が充てられることがあります。この時はたまたま、左右の大臣が埋まっていたために源氏が内大臣になりました。これ以降、源氏は「源氏の大臣(おとど)」と呼ばれるようになります。


太政大臣はその名の通り、最も地位の高い大臣ですが「適任者がいなければ欠員でもいい」というポジション。権威ある名誉職です。幼い帝や本格的に政治参加する源氏の、経験豊富なシニアアドバイザーとでも言えばいいでしょうか。桐壺院の時代から公明正大で信頼されていましたから、この人が全体を見てくれれば安心です。


今回の抜擢は、窮地に立たされた自分を見捨てず、息子・夕霧を養育してくれた義父への孝行ともとれますし、源氏自身への権力集中を避けたリスク分散とも言えます。


義兄の頭の中将もこの影響で中納言に出世。源氏と左大臣(現太政大臣)一家は葵の上との結婚を通じて、大きく言えばファミリーなのですが、源氏は源氏、頭の中将は藤原氏と、それぞれ自分の家系を発展させていかなくてはいけません。


朧月夜が恋よりも愛を選んだように、源氏も恋や楽しみだけを追いかけて生きていく年齢ではなくなりました。本腰を入れて仕事をしないといいけないし、大臣ともなれば軽く夜遊びもできない。須磨・明石での約3年のモラトリアムを経て、源氏の青春時代は終わり、新帝誕生とともに壮年時代が明けたのです。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。


3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


(画像は筆者作成)


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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