松岡充インタビュー ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』
ロンドンの歓楽街・ソーホーを舞台に、主人公のロビーと、その恋人で市長選の候補者であるジェイムズが繰り広げる"現代版シンデレラボーイストーリー"、ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』が、好評のうちに東京公演の幕を閉じ、いよいよツアー公演が始まる。
ロビーを演じるのは、ブロードウェイ・ミュージカル『ロジャース/ハート』で初主演を務めあげた、ジャニーズJr.の林翔太さん。ロックバンド・SOPHIA、そして現在はMICHAELのボーカルとして、また俳優としても活躍する松岡充さんが、ロビーの恋人役のジェイムズ・プリンスを熱演する。
今作は、年齢も階級も違う男性2人の、多様ながら純真な愛情を爽やかに描いた作品だ。近年の日本では、同性カップルを結婚に相当するパートナーとして認める「パートナーシップ制度」の導入が発表されるなど、性別にとらわれない社会に風向きが変わりつつある。一方で、まだまだ当事者たちが声を挙げることが難しいのが現状だ。
「決して他人事じゃない」と真剣な表情で語る松岡さんは、今回のミュージカルを通して伝えたいメッセージがあるという。今作の一つのテーマでもあるLGBTというセンシティブな内容をどのように表現するのか、その先でどんなビジョンを思い描くのか、松岡さんにお話しを聞かせていただいた。
「 好きは全てを飛び越える」表現したいメッセージ
Q.――まずは、今回のオファーを受けての率直な感想を教えてください。
今の日本を生きる僕らにとって、"LGBTの問題"というのは決して他人事じゃないんです。僕の周りにも、ゲイの友達はいます。そういった方たちが「自分たちは声をひそめなくてもいいんだ」、「自分たちの価値観で、胸を張って生きていってもいいんだ」と思えるように、世の中全体がなろうとしている。そんなことを昨今の日本でも感じていて、それは『ソーホー・シンダーズ』の大きなテーマでもあります。
人が人を本当に心から愛するときというのは、性別だとか年齢だとか社会の階級だとか、そういったものを全部飛び越えることができる。相手の人生を輝かせたいという思いやりの増幅みたいなものが、愛情になって、結果的に愛することで自分自身の人生が輝いていく、ということをこの作品は教えてくれるんじゃないかな。
Q.――ご自身が演じる『ジェイムズ・プリンス』という役柄についてはどのような印象を持ちましたか?
人間らしい人ですね。ゲイだということを隠しきれず、宣言したいんです。でも、それを隠して政治家への道を選ぶんですが、そんなときにジェイムズとロビーは恋に落ちる。そうしているうちに、事件が起きて、最終的に何を選んでいくのか…と。
ジェイムズは30代半ばの男なので、充実した将来設計だったり、社会においての立ち位置というものも欲しいと思うし、とはいえやっぱり、心が求めている愛した人のことをずっとそばに感じていたいしという、わかりやすい欲望みたいなものをどっちも欲しかった人。一見自分勝手に見えますが、ものすごく素直な人だなと思います。
Q.――表現方法について、演出家の元吉庸泰さんとはどのようなお話をされますか?
『ソーホー・シンダーズ』という作品は、LGBTの素晴らしさを訴えるというものではないんです。人間に生まれて出会ってしまったからには、好きにならずにはいられないことがある。それって、とても素敵なことなんじゃない?というような、すごくシンプルなことなんだと思います。それを描くために、LGBTや、階級社会の役どころなども扱っている。最終的にはすごくシンプルなメッセージだから、その問題について深く堀り下げるっていうことはあまりないですね。ないんですが、そのテーマを念頭において演じるかどうかが大きく作用すると思って、役作りをしています。
僕らの演技や歌で、男性同士のロビー&ジェイムズというカップルが違和感がなく素敵なふたりだねって思われることを目指すべきだと、そういう話はよくします。
Q.――今回の舞台は、どんな方に観ていただきたいですか?
LGBTの方に、とにかく一番見てほしいです。もちろんそうじゃない方にもですが。ぶっちゃけるとLGBTという分類の仕方もどうかなと思っています。主張や説明をするときに、いわゆるノーマルと言われる僕はそういう言葉とか分類を使われないとピンとこないところがあるので、仕方がないんだとも思うんですが。
だけど、人と人が愛し合えるって素敵じゃないかって思える作品だから、LGBTという分類さえも無くしていいんじゃないか、ということが最終的なメッセージです。
この問題を扱う限りは、LGBTの方に「なんか違う」、「知らないくせにわかったふりして」って言われないような自然体な間柄を表現しないとね、と(林)翔太くんとも話をしています。
Q.――恋人役・ロビーを演じる林翔太さんの印象はどうですか?
お名前は知ってましたが、共演は初めてです。翔太くんは、本当にさわやかで純粋さを絵に描いたような、穢れのない感じ。真っ白の"洗いたてのタオル"のような、すごく稀有な存在だと思います。
ジャニーズという看板を背負いながらも、彼しか無い唯一無二な感じって、作ろうと思ってもなかなか作れない。歳や経験を重ねていくと、初めて見たような表情とかってなかなか難しくなってできなくなっていくものだと思うんですが、彼は全部をまっさらに聞いてくれて演技をするし、歌声もすごく素直。"洗いたてのタオル"のまま、これからも変な色に染まらないでほしいなと思います(微笑)。
Q.――今回の役を演じていく中で、自身の価値観や人生観に影響を与えたことはありますか?
あります。作中の2009年のジェイムズは36歳くらい。その当時の僕の年齢に近くて、ほぼ同じ。僕は学生時代に野球をやっていましたが、例えばもし野球でなく、彼のように水泳をやっていて、日本じゃなくてロンドンで生まれ育っていたら、僕もバンドじゃなくて政治家を選んでいたかもしれない。そう考えると、彼の人生と僕の人生がクロスして、僕がそういう生き方をしていてもおかしくなかったのではと思える人物像ではありますね。
人との付き合いの中でいけないことだったりズルいよと言われるようなことに、蓋を閉めきれないで正直に向き合っていく姿がこの舞台では描かれていて。トラブルや事件も起きてしまうんですが、最終的には「ただ愛する人に笑っていてほしい」という純粋な思いからのことなので、共感もすごくできるんですよね。
僕は、自分とは共通点の無い架空の人物よりも、もしかしたら自分だったのかもしれないという役のほうが好きですね。今回はその感覚に近いです。逆に、本当に1%も合ってないっていう役もやってみたいという気持ちもありますが(笑)。
Q.――本業ミュージシャンでありながら、俳優としても精力的に活躍していらっしゃる松岡さんですが、今後のビジョンは?
僕は、自分の心の叫びや感情みたいなものを、曲を創り、歌詞を書いて、それを自分で歌い、表現するということが、一番自分にマッチする自己表現で、生きている意味というものを一番感じられることではあるんです。そのうえで、こういったミュージカルやドラマ、映画など役者としての活動があり、バラエティに出演することもあったり。それは正直な話、どうしてもやりたいと思ってやってきたことではなかったんです。
俳優として活動させて頂いてから早くも17年経ちました。お声をかけて頂いて、幸いなことに僕が演る意味がある作品ばかりに恵まれて。それが続いていく中で、思いもよらぬ宝と巡り会えることがある。宝といっても物ではなくて、こんなに素敵な環境や時間を過ごせた、こんなに熱い涙を流してくれるお客さんと出会えた、とか、そういうものが積み重なっているというのが現状で、今後もそういう期待ができるのであれば、探していきたいです。
その反面、実は一通りチャレンジしたなと思っているところもあるんです。ミュージシャンの僕が俳優をやっている作品数としてはめちゃくちゃ多いと思う。本当に贅沢にいろんな作品をやらせていただいたので、もっと大きな作品に出たいとかっていう欲望はないです。シンプルに、楽しそうならやりたい!という感じです。
ヘアメイク:笹川知香
ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』
音楽:ジョージ・スタイルズ
歌詞:アンソニー・ドリュー
脚本:アンソニー・ドリュー&エリオット・デイヴィス
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:元吉庸泰
出演:
林 翔太(ジャニーズJr.) 松岡 充
東山光明 谷口あかり 西川大貴 豊原江理佳 菜々香 青野紗穂
マルシア 大澄賢也
【東京公演】
2019 年3 月9 日(土)~3 月21 日(木・祝)
会場:よみうり大手町ホール
【大阪公演】
2019年3月23日(土)・24日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
【金沢公演】
2019年3月26日(火)・27日(水)
会場:北國新聞 赤羽ホール
【愛知公演】
2019年3月28日(木)
会場:刈谷市総合文化センター アイリス
【神奈川公演】
2019年3月31日(日)
会場:やまと芸術文化ホール メインホール
チケット好評発売中
料金 9,000 円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
公式サイト https://www.stagegate.jp/
公式Twitter https://twitter.com/soho_cinders_jp
発信地・日本
<文・デザート編集部>