近年、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)推進は、企業が競争力を維持・向上させるために欠かせない施策となっています。
諸外国と比べて「DXが遅れている」と言われている我が国の企業がDXを推し進めることは、国際化する社会の中で勝ち抜いていくためにも必須の戦略です。
とはいえ、DXはなにもグローバルに活躍する一部の大企業だけに求められたモノではありません。
DXの本質は「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くする」ことであり、ビジネスの規模にかかわらず、DXには取り組めます。
むしろ、現在では小規模企業や個人事業主のようなスモールビジネスであっても、他人事ではいられない喫緊の課題なのです。
しかし、小規模企業や個人事業主などは、予算や人員の制約もあり、本業のビジネスを展開することだけで手一杯で、思うようにDXを進められないということもあるでしょう。
スモールビジネスにおけるDXでは、限られたリソースを最大限活用しながらDX戦略を進めることが、なにより重要なDX成功へのカギとなるのです。
そこで、今回は全2回にわたって、小規模事業者向けにリソースの限られている状況下でもDXを成功させるための戦略を特集します。
前編である今回は「限られたリソースの中でDXを成功させる基本戦略」と題して、抑えておくべき基本的な戦略について、3つのポイントに分けて解説します。
さらに、次回後編では「限られたリソースを最大限活用する具体的方法」について解説し、前後編合わせて、小規模事業者などがDXで新たな価値創出するためのヒントをご紹介して参りますので、どうぞご参考にしてください。
目的と目標設定
DX戦略を成功させるためには、まず明確な目的と目標を設定することが重要です。
目的と目標を明確にすることで、具体的なアクションプランを立てやすくなり、効果的なリソースの活用が可能となります。
ただし、これはなにも大企業が取り組むような「大規模なDX戦略」である必要はありません。
DXというと最新のシステムやITツールの導入などをイメージしてしまいがちですが、小規模事業者などがまず取り組むべきなのは、自社の課題を明確にし、身近なところから段階的にステップを踏む目標を立てるDX戦略です。
こうしたスモールステップのDXでも、きちんと戦略を立てれば十分に成果をあげることができるでしょう。
まずは、DX戦略の成功の土台を築くための「目的」と「目標設定」において重要なことから解説します。
目的の明確化
どんなプロジェクトであっても、まず最初に目的を定めることは欠かせません。
「DXに挑戦してみたい」という漠然としたアイディアだけでなく、どのような課題を解決して、どのような成果を得たいのかなど、具体的な目的を持つ必要があります。
DXと一口に言っても、ゴールは企業ごとに異なります。自社に合った戦略を立てるためにも、目的をできる限り明確にする必要があるのです。
例えば、DX推進の目的として考えられることには次のようなものが考えられます。
- 既存業務の効率化
- コスト削減
- 新規事業開拓
- 顧客満足度向上
当然ながら、どれを目指していくのかによって、戦略は異なってきます。
もちろん、DX推進の目的がどれか1つではなく、複数ある場合もあるでしょう。
それ自体は問題ありませんが、その場合でも複数の目的を一緒くたに考えず、1つひとつの目的に対して、どのような成果を目指すのかをはっきりさせることが大切です。
目的が明確であればあるほど、その後のプロセスはスムーズに進みます。
SMARTな目標設定
DXを推進する目的が明確になったら、次は具体的な目標を立てていきます。
目標設定の際は、「SMARTの法則」に基づいて決定することをおすすめします。
SMARTの法則とは、次の5つの要素の頭文字を取った言葉で、目標を達成し成功をつかむために重要な5要素と言われています。
- Specific:具体的
- Measurable:計測可能
- Agreed upon:達成可能
- Realistic:現実的
- Timely:期限が明確
SMARTの法則に従って立てられた目標は、具体的な数値や期限を設けられているため、進捗管理が容易であり、また結果を見える化できるため、取り組む従業員のパフォーマンスを大幅に上昇させるとされています。
ステークホルダーへの共有
目的と目標が明確に設定できたら、次はそれらをステークホルダーと共有します。
この場合のステークホルダーとは、経営陣、従業員、顧客、パートナー企業(金融機関や協業企業)など、自社のビジネスに密接に関わりがある全ての企業・人材です。
企業の業態や地域性によっては、地域住民や自治体などを含む場合もあるでしょう。
自社に関わる全てのステークホルダーと目的・目標を共有し、全員が同じ方向を向いて取り組むことが重要です。
企業全体でDX戦略を理解し、推進していくことで、より効果的な成果を生み出すことができます。
さらに、あらかじめ顧客や金融機関、自治体などと取り組みについて共有しておけば、DXによる変革を社外のステークホルダーにもスムーズに理解してもらうこともできるでしょう。
その結果、お互いにとってより良い成果へと結びつけることもできやすくなるのです。
既存リソースの見直し
今回のテーマは、「限られたリソースの中でDXを成功させる基本戦略」ですが、当然ながら、実際に自社のリソースがどのくらいあるのかを正確に把握していなければ、その有効活用などできるわけもありません。
リソースとは「資源」や「資産」を指す言葉ですが、企業がDXを推進するにあたって考えるべきリソースは、主に次の5つです。
- 技術
- 人材
- データ
- 時間
- 資金
繰り返しになりますが、小規模企業がDX戦略を進める際のカギは、既存のリソースを最大限に活用することです。
これが、コスト効率の向上、ひいてはDX成功率の底上げに繋がることは間違いありません。
そのためまずは、上記の5つのリソースについて、自社の状況を正確に把握するところから始めましょう。
技術
「技術」はDXの基盤となる重要なリソースです。使用している技術が古く、非効率な場合は、これを最新のものに更新することで、業務の効率化や新たなビジネスチャンス創出が可能になるでしょう。
自社が既に保有している技術やシステムを再評価し、「どれがそのまま使用可能か」や「どれを改善やアップグレードする必要があるか」を見極めます。
また、新たな技術やシステムの導入にあたっては、既存のシステムとの互換性や拡張性を考慮することが重要です。
その際、既存の技術を新たな視点で見直し、異なる用途で利用することも考慮に入れるようにしましょう。
人材
「人材」は企業の最大の資産であり、DXを推進する上でも欠かせないリソースです。
小規模企業に限らず全ての企業にとって、DX推進にあたっての最大の課題は「DX人材の不足」と言われています。
経営陣を含めて、自社の人材がどれだけDXリテラシーを有しているかを考えることは、DX成功への重要なステップとなるでしょう。
スキルや知識を持った人材を有効に活用することで、企業はDXを推進し、成長を続けることが可能になるのです。
DX人材が不足している場合の解決方法は主に3つあります。
1つは、既存の人材に対する研修や教育を通じて、デジタルスキルを向上させることも重要です。
もう1つは、新たな人材を採用することです。その場合には、デジタル領域の専門知識を持つ人材を優先的に採用することを検討しましょう。
最後の1つは、外部の専門企業にDX推進の一部を委託する、あるいは協業することです。
社内にデジタルスキルを持つ人材がいれば、積極的にその能力を活用し、研修や外部の専門家を招聘して社内のDXリテラシーを向上させる。あるいは積極的に人材を登用しDXを内製化していくことも選択肢の1つですが、リソースの限られた小規模事業者の場合は、むしろ外部企業との連携をおすすめします。
データ
「データ」も、DXを推進する上での重要なリソースです。
自社が持つビジネスデータや顧客データを適切に分析し、活用することができれば、ビジネス戦略の策定や意思決定に大きく寄与してくれるでしょう。
データの収集・管理・分析体制を見直し、適切なデータ活用を行うことで、顧客のニーズを的確に捉えた商品開発やマーケティング戦略の策定が可能となるのです。
また、既存のデータを再利用・再解析して、新たなインサイトや価値を見出すことができれば、リソースを最大限活用できるでしょう。
社内にデータ分析スキルを有する人材を確保することは、限られたリソースの中でデータを有効活用し、競争力を高めることを可能とする最高の武器となります。
時間
「時間」は企業規模の大小を問わず、全ての企業にとって平等であり、DX推進だけでなくすべてのプロジェクトに避ける時間は有限です。
時間は有限なリソースである以上、当然ながら、その有効活用がDX推進を成功へと導く重要なカギとなります。
例えば、業務の自動化を進めることで、その業務に関わる時間の節約を図ることができるでしょう。つまり、限られたリソースを最大限効率的に利用できるようになるのです。
また、企業内のプロセスを見直し、無駄を排除することで、業務効率化を実現し、空いたリソースを他の重要なタスクに集中させることができます。
今現在どの程度の「無駄な時間」が発生しており、それをどのように改善すれば、どの程度の時間的リソースを生み出すことができるかを正確に把握することは、DX戦略を考える上で重要なプロセスです。
資金
新しい技術の導入や人材の育成・採用、データ分析ツールの導入など、DXを進めるために必ず必要となるのが「資金」というリソースです。
また、新しいビジネスモデルの開発や、既存業務のデジタル化を行うにもそれなりの投資や資金が必要となります。
小規模事業者の多くにとって、DXを進めるための最大の課題が、この「資金」というリソースの不足ではないでしょうか。
しかし、予算が限られている場合でも、効率的な投資計画を立てることで、有限な資金を最大限に活用し、DXを進めることは可能です。
資金の適切な管理と使用は、企業の財務健全性を保つ上でも重要な要素であり、資金流動性を維持し、企業の成長と持続可能性を確保するためにも、資金の管理に十分な注意を払う必要があるでしょう。
資金というリソースの管理は、DX予算を決定するという重要なプロセスの1つとなりますので、次章で詳しく解説します。
DX予算の効果的な配分
小規模企業がDX戦略を実施する際には、限られた予算内で効果的な投資を行うことが求められます。
潤沢な予算があるに越したことはありませんが、莫大な予算があれば必ずDXが成功するわけではありません。
適切なDX予算の策定ができていない場合は、それ以外の戦略がどれだけ素晴らしくても、DXを成功させることは困難であり、「絵に描いた餅」になってしまいます。
DX成功のためには、予算の効果的な配分を行い、最適化された投資でDXを加速させることが重要です。
ここでは更に詳しく、小規模企業でもDX戦略を効率的に進めることができるようになる予算のポイントについて解説します。
予算策定のポイント
DX戦略における予算策定では、優先順位を明確にし、投資対効果の高い領域に予算を配分することが求められます。
具体的には、新しいテクノロジーの導入、人材教育、データ分析ツールの購入など、投資項目のリストアップとその予算の見積もりを行った上で、その優先順位を決めていくのです。
予算策定時には短期的な利益だけでなく、中長期的な視点での投資効果も考慮するようにしましょう。
予算の見直しと調整
小規模事業者が限られた予算を効果的に活用する方法として非常に有効なのが、まずは小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その結果を評価する施策です。
成功したプロジェクトは段階的に規模を拡大し、失敗したものは早期に見切ることで、リスクを最小限に抑えることができるでしょう。
ROIの評価と改善
DXは常に進化し続けるものであり、その過程で新たな投資が必要となる場合もあります。
DX戦略に投じた予算に対して、どれだけの効果があったのかを定期的に確認し、必要に応じて見直しや修正、再分配を行うことも、限られたリソースの中でDXの効果を最大限に発揮するための重要なポイントです。
その際の指標となるのが、ROIです。
ROIとは「Return On Investment」の略称であり、日本語では「投資収益率」や「投資利益率」と呼ばれています。いわゆる「費用対効果」のことと考えて良いでしょう。
ROIの高いプロジェクトにはさらなる投資を行い、低いプロジェクトについては改善策を検討するためには、常に正確なROIを計測することがカギとなります。
ROIは、DX投資が正常に行われているかを評価する基準となるのです。
補助金の活用
政府や地方自治体が提供する補助金や助成金も、資金調達の1つの大きな手段です。
これらの補助金は、新たな技術の導入や事業の拡大を支援するためのものが多く、DX推進のための資金源として活用することができます。
申請の際には、補助金の申請条件や利用方法は制度ごとに異なりますので、詳細を確認し、自社の事業計画やDX戦略に適したものを探すことが重要です。
また、補助金を活用する際には、その効果的な使い方や報告方法についても理解しておく必要があります。
補助金の申請と活用については、専門的な知識や詳細な業況分析が必要な場合もありますので、補助金の申請に十分な実績と経験を持つコンサルタントなどの助けを借りることも検討すると良いでしょう。
まとめ~小規模企業のDX戦略成功への道筋
前後編で解説する、「リソースが限られている小規模事業者のためのDX戦略」の前編をお届けしました。
限られたリソースの中でDXを成功させる基本的な戦略は、大きく分けて次の3つです。
- 目的と目標設定
- 既存リソースの見直し
- DX予算の効果的な配分
これらの基本戦略を適切に実践することで、小規模企業でもDXを成功に導くことが可能となります。
DX推進を目指す小規模企業の経営者の皆さんは、これらのポイントを参考にして、貴社に適したDX戦略を構築し、実行に移してみてください。
デジタル時代の競争に勝ち抜くためには、小規模企業であってもDXへの取り組みを躊躇することなく、果敢に挑戦していく姿勢が求められます。
今こそ、DX推進への一歩を踏み出しましょう。
後編では、「限られたリソースを最大限活用する具体的方法」について解説してまいりますので、どうぞご期待ください。
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