世界経済をリードする超巨大IT企業、通称「ビッグテック」。その地位は、長らく「GAFAM」と呼ばれる5社の独占状態にありました。
しかし、以前こちらの記事でもお伝えしたように、IT市場全体の拡大に伴い、その勢力図は徐々に変わり始めています。
その中で近頃は、2023年以降は「GAFAM」に変わって「MATANA」の時代が到来すると予想されています。
この「MATANA」とは一体どのような企業なのか。そして、なぜGAFAMに変わる存在と言われているのか。GAFAMの一角を担っていながら、MATANAにはいれなかった企業は一体どこに問題があったのか。
今回は、DX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)を語る上でも欠かせない、IT業界の大幅な勢力図の移り変わりについて考察してみます。
世界を牽引するビッグテックは「MATANA」の時代へ
世界経済を牽引する存在であるビッグテックは、「GAFAM」から「MATANA」の時代へと移り変わってきています。
これは、IT業界の末席に身を置く私のようなIT関係者だけでなく、業界の枠を超えて、世界中のビジネスパーソンにとって注目すべき重大な出来事です。
まずは、「GAFAM」と「MATANA」を構成する企業が、それぞれどのような顔ぶれなのかを確認しておきましょう。
GAFAM
GAFAMとは、アメリカの情報技術産業において最大級の規模を誇り、世界経済をも牛耳る程の超巨大IT企業(ビッグテック)5社の頭文字をとった言葉です。
「GAFA(またはビッグフォー)」と呼ばれる場合もありますが、近年では「GAFAM(ビッグファイブ)」の方が定着しています。
そもそも、「ビッグテック(Big Tech)」という言葉はこの5社を指す言葉として生まれました。
ちなみに、ビッグテックをGAFAMと呼ぶのは日本独自のものであり、アメリカでは単にビッグテックと呼ぶことのほうが多いそうです。
2000年代末以降の世界経済は、この5社を中心に回ってきたといっても過言ではありません。
時価総額的にみても、圧倒的な規模を持った超巨大企業です。
この5社の影響力は、トゥールーズ大学教授のニコス・スミルナイオス氏が、この5社の特別性を「資本主義の文脈の中で市場力や金融力を集中させ、特許権や著作権を利用することで、インターネットの支配権を握っているように見える寡占企業だ(引用:Wikipedia)」と指摘したほどです。
今さら説明する必要もないほど著名な企業ですが、GAFAMを構成する企業は、次のとおりです。
- Amazon
- Facebook(現Meta)
- Apple
- Microsoft
IT業界に詳しくない人でも、当然のように知っているであろうこの5社は、世界のIT業界、ひいては世界経済を牽引する存在なのです。
石油メジャーに変わって世界経済を牛耳る存在になったGAFAM。特に、2018年以降、5社ともに売上高の増加傾向が続き、2021年9月にブルームバーグ(米NY市に本拠を経済・金融情報の世界的発信企業)が公表した世界の株式時価総額ランキングでは、トップ10にGAFAMが勢ぞろいしました。
5社の時価総額を合計すると、日本の東証1部上場企業約2,170社の合計を上回った(2020年5月時点)ことからも、その圧倒的な規模と影響力の大きさがわかるでしょう。
しかし今、この世界経済の構造は少しずつ変わり始めています。
「ビッグテック=GAFAM」だった時代は終わり、代わりに「FANG」や「FAANG」などの呼称が生まれたことからもわかる通り、影響力を持つ企業の構成が徐々に変化しています。
特に、近年新たなビッグテックを示す呼称として広がっているのが「MATANA」です。
MATANA
「MATANA」とは、米シリコンバレーのテック企業をリサーチするコンステレーション・リサーチ創業者のレイ・ワン氏が生み出した造語であり、下記の6社の頭文字を取っています。
- Microsoft
- Amazon
- TESLA
- Alphabet(Google)
- NVIDIA
- Apple
つまり、GAFAMからFacebook(Meta社)が脱落し、新たにTESLAとNVIDIAが加わったということです。
では、レイ・ワン氏が新たなビッグテックとして「MATANA」の6社を選んだのは、どのような理由なのでしょう。
次章では、その理由について、さらに詳しく迫ってまいります。
ビッグテックの新時代
「GAFAM」から「MATANA」へ。
この6社が2023年以降のIT市場、ひいては世界経済を牽引すると予想されています。
まずは、新たに加わった2社の顔ぶれを詳しくみてみましょう。
新生ビッグテック
「GAFAM」から「MATANA」に変わり、新たに加わった企業は次の2社です。
- TESLA(テスラ)
- NVIDIA(エヌビディア)
IT業界の方であれば、既にご存知であろう超有名企業ですが、ここで改めて企業の概要をご紹介します。
TESLA(テスラ)
TESLAとは、米テキサス州に本社を置く、電動輸送機器及びクリーンエネルギー関連企業です。
同社が製造販売する電気自動車のブランドや、自動車自体の通称としても使われており、近年大きな注目を集めています。
二次電池式電気自動車の乗用車メーカーとして目覚ましい快進撃を見せており、2020年には純粋な電気自動車(バッテリー・エレクトリック)として世界で23%のシェアを獲得しました。
TESLAを語る上で欠かせないのが、イーロン・マスクの存在でしょう。
2003年に創業されたTESLA(当時のテスラ・モーターズ)ですが、2004年4月にイーロン・マスクが取締役会長に就任(2018年には会長職を退任しCEOとして留まる)して以来、急速な発展を遂げました。
2010年にわずか17ドルで上場したテスラ株は、2020年7月には史上最高値の1,135ドルを付け、2020年7月1日には時価総額でトヨタ自動車を抜いて自動車業界のトップの座に付いたのです。
TESLAの製造・販売するEV(電気自動車)は、単にガソリン燃焼によってCO2ガスを輩出しないエコな車というだけではありません。
運転席に備え付けられたタッチパネル式のタブレットにより、車載コンピュータのOSを操作できる方式を採用した、新しいスタイルの車でもあるのです。
さらに、OTA(Over the Air:無線通信)を通して世界中のTESLA EVから走行データを収集。そのデータを基にソフトウエアをアップデートすることによって、車自体が進化していきます。
それだけでなく、音楽やビデオなどのコンテンツも提供するなど、エンターテイメントの要素も存分に詰め込まれているのです。
DXの進化や社会構造の変化によって、商品を購入するときに人々が重視する要素も「コトからモノ」へと変化しています。
その中でTESLAのEVは、これまでの自動車が提供していた「移動手段」としての価値だけでなく、「移動を楽しむ空間」として、新たな価値を提供してくれるのです。
NVIDIA(エヌビディア)
NVIDIAは、米カリフォルニア州に本社を置く半導体メーカーです。特に、AI(人工知能)関連では欠かせないGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)を汎用計算用途に拡張したGPGPU(GPUの演算資源を画像処理以外の目的に応用する技術)の設計において、この市場を牽引する企業として期待を集めています。
1993年に創業した同社ですが、1997年に大きな転機を迎えます。
CG分野に絶大な影響を与えたシリコングラフィクス社(米)から多数の技術者が続々とNVIDIAに参加し、その技術力をもって低価格かつパワフルなGPU「RIVA 128」を発表して、業界大手の仲間入りを果たしました。
その後もNVIDIAの快進撃は続き、2016年頃に起こったディープラーニングの波に乗ってさらに企業の拡大を続け、株式時価総額においては、売上高では及ばないインテルを上回るなど、これまでの実績の評価に加えてと更なる成長に期待が寄せられています。
近年では、先に取り上げたTESLAで採用されている自動運転システムを支える「NVIDIA Tesla」の供給や、DX業界で期待されるAIの進化において欠かせない企業として、今最も注目を集める企業の1つと言って良いでしょう。
生活必需品と化したIT
ITは、今や我々の生活には欠かせない存在です。世界中に広がったITインフラ網は、既存の社会インフラと肩を並べるほど重要なものになっており、これからの人類が更に発展していくための不可欠な要素になったと言えます。
いわば、ITは既に生活必需品となっているのです。
その社会で求められるIT企業とは、ただ単に「高い成長率が期待できる企業」であることだけではありません。
DXやAIをはじめとする、今後発展が見込まれる分野との関連が高いなど、これからの未来を見据えて投資家の関心を集められる企業でなくてはならないのです。
さらには、持続可能な社会の実現に向けたコミットメントも求められています。
企業の歴史の長さや規模に関わらず、社会的な課題を解決するソフトやハードを開発・提供できる企業でなくてはなりません。
つまり、短期的な売上や成長率だけでなく、中長期的な視点での成長戦略や、人々から要請される地球規模を見据えた社会へのコミットメントなど、先を見据えた企業戦略が重要になっているのです。
現代社会においてビッグテックとして君臨するためには、これから先の未来において、人々の生活に「本当に必要なモノは何なのか」を突き詰め、そこに対して適切なアプローチ方法を見出すしか道はありません。
現状どれだけの成果をあげていたとしても、将来性に対して少しでも疑問を持たれてしまえば、あっという間にその座から追われてしまう過酷な争いが行われているのです。
ビッグテックから消えた企業
先ほど、「GAFAM」というのは日本独特の呼称だと説明しました。
アメリカでは経済界の中心である巨大IT企業はビッグテックと呼ばれていますが、どの企業をビッグテックに数えるかは時代とともに移り変わっています。
例えばMicrosoftは一度ビッグテックの枠組みから脱落しかけましたが、そこから盛り返した企業です。
MATANAの前には、アメリカでは一時期「FAANG」の5社がビッグテックと認識されていました。
FAANGとは、次の5社を指しています。
- Facebook(現Meta)
- Amazon
- Apple
- Netflix
GAFAMと比較してみると、Windowsの生みの親であるMicrosoftの代わりに、配信登録制のストリーミングサービスを提供するNetflixが入っています。
Netflixは日本でも利用者が多いため、ご存知の方も多いでしょう。
ストリーミングサービスが急激な成長をみせる一方で、MicrosoftはWindowsを開発した以降、業界に革新を起こす新たな開発を行うことができていませんでした。
そのため、ビッグフォー(GAFA)と比べて投資家たちからみた場合、将来性も少々見劣りすると判断され、ビッグテックから脱落したと見なされたのです。
しかし、近年はChatGPTの開発元であるOpenAI社へ100億ドル(約1.3兆円)もの巨額な投資を行うなど、Microsoftも新たなイノベーションを生み出そうと積極的な取り組みを行っていました。
さらにはOpenAIのAIをフル活用して、Microsoftが提供する検索エンジン「Bing」を大幅グレードアップするなど、社運を賭けた大きな施策を行い、結果としてMATANAの一角として再びビッグテックの座に返り咲いたのです。
その逆に、ストリーミングサービスを武器に一気に躍進したNetflixは、サブスクリプションモデルの先に、どのような「新たな価値」を提供できるかを具体的に提示できなかったこともあり、投資家の関心を維持することができずビッグテックの一角からは外れてしまったのです。
ビッグテックの変遷として、さらに大きな話題を集めているのは、Metaの凋落でしょう。
世界的なSNSであるFacebookを生み出し、長らくビッグテックの一員として君臨してきたMeta社ですが、MATANAには選ばれず、初めてビッグテックの一角から外れることになってしまったのです。
Metaの現在のビジネスモデルは、同社が保有するSNSプラットフォーム「Facebook」と「Instagram」における広告収入を主な収益源としています。
しかし、未来を見据える投資家たちの関心は、それ以外にどのようなビジネスモデルを提示できるかにあります。
そのため、巨大なプラットフォームを有しているだけでは、ビッグテックに留まり続けることはできなかったのです。
当然ながら、Metaもこの点は十分に理解しており、さらなるビジネスモデルの創出に向けて動いています。
今後の社運を賭けて、社名の語源ともなった「メタバース」や「VRテクノロジー」に多額の投資を行ってきました。
ただし、残念ながら、それらはまだ市場を変化させるほどのレベルには達していません。
実際に、日本でもメタバースは一時期大きな話題となりましたが、最近ではほとんど話題に上がらなくなっています。
つまり、Metaはメタバースの実現などに関して具体的な形でこれからのビジネスを提示することができておらず、市場の期待に答えられていないのです。
Metaが再びビッグテックの座に返り咲くためには、強引にでもメタバース事業を推し進め、業界にゲームチェンジを起こすぐらいのムーブメントを起こすしかありません。
これは大きな賭けですが、リスクもある反面、メタバースを確立し、その分野のリーディングカンパニーになることができれば、ビッグテックに返り咲く以上のインパクトを与えることができるかも知れません。
一時期の勢いには陰りが見えるとはいえ、Meta社の動向に関しては、今後も注目していきたいポイントです。
世界IT市場の勢力図は変わり続ける
「GAFAM」から「MATANA」へ。今回は、2023年以降の世界経済を牽引するであろうビッグテック勢力図の変化について、私なりの考察を交えて解説いたしました。
ビッグテックとして君臨するということは、経済的に圧倒的な影響力を持つ企業であるということと同義です。
その地位を獲得するためには、圧倒的なテクノロジーを保有していること、そしてそのテクノロジーを使って新たな未来を提示することが必要です。
当然ながら、世界のビッグテックの一角を目指せる企業は限られていますし、すべての企業がそれを目標にする必要など全くありません。
しかし、だからと言って、ChatGPTをはじめとするAIが現代ビジネスにゲームチェンジを起こすことが予想されているように、ビッグテックの動向とは無関係でいられないのが現代のビジネスです。
当然、中小企業であっても、ビッグテックの動向には目を配る必要があるでしょう。
また、ビッグテックの座をめぐる巨大なグローバル企業の競争からは、企業の姿勢として学ぶべき要素がたくさんあります。
中小企業においてもそれぞれの業界で他社競合力を持ち続けるためには、ビッグテックのような戦略や考え方を持つことが重要なのは言うまでもありません。
- 現状に満足せず、常に新たな価値を追求する
- 競合他社に対して十分な競争力を持つビジネスモデルを確立する
- ユーザーのニーズに合わせて提供する価値を模索し続ける
こうしたことは、DXを進める上でも、企業活動を続ける上でも必須の考え方です。
巨大グローバル企業ビッグテックの座をめぐる競争は、こうした考え方の重要性を私たちに示してくれています。
今後のIT業界の勢力図がどのように変化していくのか。その動向に注目していきましょう。
記事参考:世界経済を牽引するビッグテックは「GAFA」から「MATANA」へ/@DIME
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