社内外のユーザーからの問いかけに対して、自動的に回答するロボット会話システム「チャットボット」は、企業の業務効率化を実現するための有効な一手です。
様々な業務をデジタルの力で効率化し、そこから先の新しい企業価値を生み出していくDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)の時代において、今、最も注目を集めている施策の1つといってよいでしょう。
そんなチャットボットですが、「実際にどのように活用すれば良いのか、今ひとつイメージがわかない」という企業も多いようです。
そこで、この記事ではDX推進のカギを握るチャットボットの活用事例を、BtoBとBtoCの両方のケースをそれぞれ3例ずつご紹介します。
チャットボットの活用シーンをイメージする一助として、どうぞご活用ください。
DX推進のカギ|チャットボット
チャットボットは、顧客からの問い合わせに自動対応するテキストシステムだと思われがちですが、最近のチャットボットの活用方法はそれだけに留まりません。
具体的な活用事例をご紹介する前に、まずはチャットボットの概要について簡単に確認しておきましょう。
DX推進とチャットボット
チャットボットは、文字通り「チャット(Chat=1対1あるいは複数人でリアルタイムでやり取りするシステムの総称)」と「ボット(Bot=ロボット)」を組み合わせた造語であり、「自動で会話をするプログラム」の総称です。
例えば、チャットボットを利用すれば、頻度の高い問い合わせに対して予め用意した定型文を用いて、適切かつスピーディーに回答することができます。
そのため、カスタマーサポートなどにおける多くの定型業務を削減でき、そこにかかる人的コストを削減したり、あるいは人でなければ答えられない複雑な質問への対応に振り分けることも可能となります。
さらに、近年のチャットボットはQ&Aの繰り返しの中から、ユーザーの傾向をデータとして収集・分析することもできるため、より適切なサポートへと進化していくことが可能です。
チャットボットをうまく活用すれば、ユーザーをCVポイント(質問に対する答えやマネタイズポイントなどチャットボット提供側が誘導したいゴール)へ自然に誘導することも可能でしょう。
また、24時間365日休みなく働き続けるチャットボットであれば、多様化するユーザーニーズにも幅広く対応できますので、顧客利便性の向上にも一役買ってくれるはずです。
このように、チャットボットというデジタル技術を使って、データを収集・分析し、顧客満足度を高め、新しい価値の創出へとつなげていくことは、DXの考え方そのものだといっても良いでしょう。
チャットボットの活用シーン
チャットボットは、今や多くの企業において様々な場面で活用されています。
ここでは、チャットボットの代表的な活用シーンについてご紹介します。
- カスタマーサポート:ユーザーからの問い合わせに対応。「よくある質問」で解決できるような質問はチャットボットに任せることで、スタッフはクレームなどの重要な対応に専念できる
- 社内ヘルプデスク:ITの導入サポートや、必要書類に関する質問など、社内のあらゆるヘルプデスクの一部に活用。社内SNSなどを用いて、いつでも気軽に質問できる環境作りにも一役買う
- アンケート機能:ユーザーから質問が寄せられた際に、内容に合わせていくつかのアンケート項目に答えてもらう機能。ユーザーは個人情報を明かすことなく画面タップだけで簡単にアンケートに答えられるので、回答率が高く、データを集めやすい
- ナレッジ共有:プロジェクトごとにチャットボットを用意して、スタッフ間の情報共有窓口として活用。気軽な会話形式でデータが蓄積されることに加えて、どの情報が多く閲覧されたかなどの検証に役立つ
また、企業が活用しているイメージが強いチャットボットですが、近年は自治体での活用も増えていて、同じような問い合わせが多い窓口の混雑緩和、曜日や時間にとらわれない対応の実現など、自治体の住民生活支援の利便性を高めることが期待されています。
いち早く利用が広まっている地域では、今や住民の生活に欠かせないインフラの1つともなっているケースもあります。
DX推進におけるチャットボット活用事例
それでは、ビジネスシーンでどのようにチャットボット活用がされているのか、実際の活用事例をご紹介します。
BtoB向けチャットボット活用事例
社内ヘルプ業務の削減
総合人材サービスを提供するパーソルグループ(運営:パーソルテンプスタッフ株式会社)は、国内437拠点、海外182拠点で人材派遣やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手がけています。
拠点ごとに営業部門を配置し、きめ細やかなユーザーフォローを行っているのが同社の強みですが、その反面、大勢の営業スタッフの知識やスキルの統一化をはかることが困難であり、重要な課題となっていました。
スタッフごとに知識やスキルに隔たりがあると、同じクオリティのサービスを常に提供することができず、担当社員の知識やスキル不足で、問い合わせや相談にすぐに対応できないということも発生しかねません。
特に、近年は働き方改革の一環で、様々な法改正が行われており、企業が派遣社員に求めるもの、派遣社員が望む働き方などが多様化しています。
企業ごと、派遣社員ごとに最適な人材サービスを提供することが求められる営業職ですが、複雑化する状況のすべてを個人のスキルや記憶だけで自己解決することが難しくなっていました。
質問を受けた社員がすぐに回答できない場合、担当部署などに問い合わせることになりますが、このやりとりの時間はエンドユーザーにとっては無意味な待ち時間でしかありません。
そのため、回答の遅れが原因で、クレームに繋がってしまうことも少なくありませんでした。
この問題の解決策として、パーソルグループはチャットボットによるサポートシステムを導入することを決定し、営業担当が求める答えを迅速に得られる環境を構築したのです。
これまで電話で問い合わせると400秒もかかっていた内容が、チャットボットを利用すればわずか14秒で解決するなど、営業担当の疑問解消速度が大幅に向上したため、エンドユーザーに対する回答もスピード感を増しました。
営業中にすぐに疑問が解決できる仕組みですので、当然、社内での満足度は申し分なく、今ではほぼすべての社員が1回は使ったことがあるシステムとなっています。
チャットボットならではの回答のスピードが、営業社員のスムーズな疑問解消を実現したパーソルグループの導入事例は、営業スタッフの業務負荷を軽減するだけでなく、エンドユーザーの満足度向上にも繋がっており、会社全体にとって極めて有益な施策だったといえます。
社内コミュニケーションを活性化
ソフトバンクのキャリアショップを展開する株式会社ベルパークは、全国に広がる店舗網と蓄積したノウハウを活かし、スマートフォン市場で事業拡大を進める企業です。
同社では「最新テクノロジーを活用せよ」という代表からのメッセージを受け、各部署でAIやRPAの導入・検討が進められました。
その一環として、AIチャットボットの導入が決定したのです。
2018年8月の全国店長会議で公開されたAIチャットボット「ベル助」は、親しみやすさを持ったオリジナルキャラクターで、主に総務人事関連の問い合わせに対応するチャットボットです。
単なる自動回答のシステムではなく、アイコンにキャラクターの絵を採用し、またベル助の語尾を「~ナリ」、主語を「ワガハイ」とするなど、親しみやすいキャラクターの世界観を創ることで、社員が問い合わせしやすい環境を作り、コミュニケーションの活発化が図られています。
「ベル助」導入後は、人事部門への問い合わせが1日平均で20件近くも減少するなど、業務効率化への手助けとなっています。
しかし、「ベル助」の効果はそれだけではありません。
親しみやすいキャラクター性を持ったチャットボットを採用したことで、例えば人事の評価基準や賞与についてなど、それまでは直接人事に質問しづらかったことも気軽に聞けるような環境が生み出されました。
これにより、同社の社員が抱える潜在ニーズに応えることができ、回数の多い質問に関しては研修時の説明事項に付け加えるなど、社員満足度の向上に大いに役立っています。
商業施設運営のコンシェルジュ
ららぽーとや三井アウトレットパークなど、数多くの商業施設運営を手がける三井不動産商業マネジメントは、2020年4月にDX推進課を発足させました。
その施策の1つとして導入されたのが、ユーザー向け、社内向け、テナント向けの3つのシーンに分けられた14(2020年現在)のチャットボットです。
テナント向けチャットボットは、施設のオペレーションセンターとテナント店長がコミュニケーションを取る「SCコミュニケーション」というシステム内に設置されており、様々な申請書類などに関する問い合わせに対応しています。
社内向けの方は、施設の担当者から本部スタッフに対する問い合わせ用であり、売上管理や買い物券などの質問にチャットボットで対応する体制が取られています。
「すべての社員が商業施設運営のプロフェッショナルであるべき」という人材育成方針を持つ同社では、配属された部署での仕事を一から先輩や上司に聞くのではなく、チャットボットで自己解決できる環境を整えれた方がより早く業務に溶け込めるだろうと、大きな期待がかけられているのです。
現在、社内チャットボットの利用率は非常に高く、今後は社員が抱く様々な「知りたいこと」に素早く回答を導き出してくれる、「社内コンシェルジュ」のような存在にチャットボットを育てていく構想を持っています。
BtoC向けチャットボット活用事例
TVドラマのファン化を促進
日本テレビでは、自社系列で放映するドラマのキャラクターを、AIチャットとしてLINEに登場させて、視聴者が自由に会話できる環境構築を試みています。
その初の試みは、2019年に放映された日本テレビ系日曜ドラマ「あなたの番ですー反撃編ー」と連動したAI会話サービス「AI菜奈ちゃん」でした。
同ドラマの第15話の中で、原田知世演じる手塚菜奈というすでに亡くなっている人物が、夫の前に「AI菜奈ちゃん」というアプリとして登場する場面が描かれました。
その回が放送終了後、TVドラマ連動型AIサービス「AI菜奈ちゃん」としてスタートしたアプリは、ドラマで登場した「AI菜奈ちゃん」がLINEの友だちとして再現されたものです。
視聴者は、まるでドラマの主人公と同じように「AI菜奈ちゃん」とチャットを楽しむことができます。
「AI菜奈ちゃん」は最初は簡単な会話しかできませんが、ユーザーとの応答履歴からディープランニング(深層学習)で学習することで、会話内容も徐々に進化していく仕組みで、すべて無料で提供されました。
さらには、問いかけ方次第によっては、ミステリードラマである同作品のヒントを「AI菜奈ちゃん」が教えてくれるかもしれないとあって、ドラマの視聴率向上とも相乗効果を生み出したのです。
こうした試みは、TVドラマやアニメなどのファン化を促進する手段として、多くのファンビジネスなどでも応用のきくチャットボット活用例といえるでしょう。
保険の診断・見積もりをサポート
保険会社のライフネット生命は、LINEなどで、保険診断や保険見積もりができるサービスを提供しています。
ユーザーは生年月日や性別といった各種データと、いくつかの質問に回答するだけで、自分にあった保険を自動で案内してもらえます。
従来から、インターネットを利用した保険の診断や見積もりといったサービスは存在していましたが、同社の場合チャットボットを利用することで、より手軽に、より詳しい診断を可能としています。
ユーザーは名前などの個人データを入力する必要がない点や、LINEという使い慣れたSNSで友だち追加するだけなので、問い合わせへの心理的ハードルが大きく下がるでしょう。
また、基本的にはチャット欄に表示される選択肢を段階的に選んでいくだけなので、専門用語などを知らなくても簡単に診断ができます。
さらに、必要に応じて有人対応に切り替えて、直接保険プランナーとチャットで保険相談を行うことも可能になっており、AIによる自動応対とスタッフによる直接対応のそれぞれの利点をうまく活かした仕組みづくりができています。
自治体が高齢者の生活を支援
株式会社エルブズは、「御用聞きAI®」と呼ばれるチャットボットシステムを日本中の自治体向けに提供しています(2022年12月現在は一般公開終了、システム開発ツールとしてのみ販売)。
同社の自治体向けチャットボットへの取り組みは、京都府唯一の村である南山城村などで実証実験を行うところから始まりました。
「高齢者生活支援対話システム」と位置づけられた同システムは、地域の事業者と連携し、地方創生を目的として開発・推進されています。
LINEなどスマホの画面上に表示される、会話調のチャットにタップして答える形式のインターフェースは、スマホに慣れていない高齢者でも使いやすく、直感的な操作が可能です。
また、御用聞きAI®は行政からの様々な地域の情報提供をするだけでなく、AIが雑談相手になってくれるなど、過疎地の高齢者に寄り添ったシステムとなっているのも特徴といえるでしょう。
御用聞きAI®に限らず、こうした地方自治体の取り組みを後押しするチャットボットは、今後もますます増え、インターネットならではのインフラ整備に一役買ってくれるはずです。
まとめ
DX推進の流れの中で注目されているチャットボットの活用事例について、BtoB、BtoCそれぞれの事例をご紹介しました。
いずれのケースも、具体的な事例を見てみると「なるほど」と思えるような、当たり前の取り組みかもしれません。
しかし、その事例でも確実に業務の効率化や顧客満足度の向上に結びついており、こうした事例を見るだけでも、社員にとっても顧客にとっても有益な施策であることがわかります。
さらに、実際にシステムを導入したり、複数のチャットボットを試したりしていく中で、そこから生まれる新しいアイデアもあるはずです。
このような事例を参考としながら、チャットボットの活用で貴社ではどのように業務の削減ができるのか。また、どのような新しい価値を創出できるのか。あらゆる可能性を踏まえた上で、検討を行うことが重要となります。
また、次の機会にはさらに一歩踏み込んだ、実際にチャットボットを導入する際の注意点や失敗例などについてもご紹介いたしますので、どうぞ楽しみにお待ちください。
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