デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くすること」です。ただし、それは「古いことの否定」ではありません。
確かにDXは、時に旧態依然とした企業文化や伝統を否定するところから始まる場合もあります。しかし、伝統と革新の融合が重要な鍵となる場合も少なくないのです。
今回は、その好例として、カシオ計算機株式会社(以下:カシオ)のスマートリングの事例を取り上げます。伝統と革新を融合させてDXを成功させた一つの事例として、ぜひ参考にしてください。
カシオのスマートリングの特徴

カシオは、2024年12月、私たちを驚かせる革新的な製品を発表しました。
それは、指に装着するデジタル時計「CASIO RING WATCH CRW-001」(以下、スマートリング)です。
カシオの50年にわたる時計づくりの歴史と、最新のデジタル技術が融合したスマートリングは、同社のDXへの取り組みを象徴する製品と言えるでしょう。
この章では、カシオのスマートリングが持つ特徴を紹介します。
従来の時計の概念を覆すリング型デザイン
文字通り、指輪のように指に時計を装着する、という斬新な発想。
これは、カシオがこれまで培ってきた時計づくりのノウハウと、最新のデジタル技術を融合させることで実現した、新しい時計のかたちです。
従来の腕時計と比べて、スマートリングは、より身近に、より自然に身につけることができます。
単にサイズが小さいだけでなく、カシオの伝統的なデジタル時計のデザインを踏襲しているため、ファッションアイテムとしても楽しむこともできるのです。
世界が認めるカシオの技術力
スマートリングの開発で特に注目すべきは、その超小型化技術です。
従来のデジタル時計のモジュールを約1/10にまで小型化することで、指輪サイズへの搭載を実現しました。
これは、カシオの長年の技術開発の賜物であり、世界に誇る技術力と言ってよいでしょう。
多彩な機能性
時刻表示機能に加えて、ストップウォッチ、アラーム、カレンダーなど、カシオのデジタル時計が持つ基本的な機能を、この小さなリングに凝縮しています。
その他にも、1/100秒ストップウォッチやデュアルタイムなど、日常生活で役立つ機能も充実しており、実用性も抜群です。
スマートフォンとの連携
カシオのスマートリングは、Bluetooth®でスマートフォンと接続することで、時刻合わせやアラーム設定などをスマートフォンから簡単に行うことができます。
また、歩数や消費カロリーなどの活動量を記録することも可能です。
カシオのDX戦略:デジタル技術で未来を創造する

カシオは、長年にわたり、デジタル技術を活用した製品開発を推進してきた企業です。その代表例としては、電卓、電子辞書、デジタルカメラなどが挙げられます。いずれも、カシオが世界に先駆けて開発し、市場に大きなインパクトを与えた製品ばかりです。
近年では、AIやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの最新技術を活用した製品開発にも力を入れています。
例えば、ユーザーの学習状況に合わせて最適な学習コンテンツを提供することができるAIを搭載した電子辞書、スマートフォンと連携して、健康管理や活動量測定などの機能を提供するIoT対応の腕時計などを新たに市場に送り出してきました。
今回発表されたスマートリングも、カシオDX戦略の最新の成果といえるでしょう。この製品は、カシオがこれまで培ってきた時計づくりのノウハウと、最新のデジタル技術を融合させることで生まれた、全く新しいタイプのデジタル時計です。
このようにカシオは、デジタル技術を活用した製品開発で長年の実績を持つ企業ですが、そのDX戦略は、単に技術を導入するだけでなく、顧客視点、技術力、スピード、グローバルといった複数の要素を総合的に組み合わせることで、より大きな成果を生み出すことを目指しています。
この章では、カシオのDX戦略の要となるいくつかの要素を解説します。
顧客満足度の追求
カシオは、常に顧客の声に耳を傾け、顧客のニーズを捉え、新しい価値を提供することに重点を置いています。例えば、「MY G-SHOCK」は、自分だけの時計が欲しいという顧客の要望を受けて開始した、自分好みのパーツを組み合わせて、世界に一つだけのオリジナルG-SHOCKを注文することができるサービスです。
他にも、近年増加するオンライン学習の需要に応えるために開発した、オンライン学習サービス「ClassPad.net」などの取り組みも、顧客のニーズに合わせたサービス展開の一例です。このサービスは、電子辞書「EX-word」で培った豊富なコンテンツやデジタルノート機能、そして教師と生徒間のやり取りをサポートする授業支援機能などを備えています。
このように、デザイン面でも機能面でも顧客のニーズを捉え、それに合致したサービスを提供することで、顧客満足度向上に努めているのです。
技術力への自信
カシオは、長年培ってきた技術力を活かし、常に新しい技術に挑戦することで、伝統と革新を融合させてきました。
例えば、時計事業においては、1983年に耐衝撃性に優れた「G-SHOCK」を発売し、世界に衝撃を与えました。これは、それまでの時計の概念を覆す、まさに革新的な製品でした。
しかし、カシオはそこで止まることなく、GPS衛星電波受信機能やタフソーラーなどの先進技術を積極的に導入することで、G-SHOCKをさらに進化させてきました。
これは、伝統を受け継ぎながらも、絶えず革新を続けるカシオの姿勢を象徴していると言ってよいでしょう。
また、計算機事業においても、長年培ってきた電子技術を基盤に、AIを搭載した高性能な電卓を開発するなど、各事業において最新技術を積極的に導入することで、伝統と革新の融合を図っています。
このように、カシオは、揺るぎない技術力への自信をベースに、伝統と革新を両立させることで、常に時代を先取りする製品を生み出し続けているのです。
スピード感のある開発
DXを成功させるためには、市場や顧客のニーズの変化をいち早く捉え、迅速に対応することが重要です。カシオは、創業以来、このスピード感を重視し、常に時代を先取りする製品開発を行ってきました。
例えば、スマートフォンが普及し始めた当初から、いち早くスマートフォンと連携する腕時計を開発するなど、市場トレンドを先取りした製品開発を行っています。
また、近年では、アジャイル開発などの手法を導入することで、より迅速な製品開発を実現しています。このスピード感のある開発体制は、変化の激しい現代において、DXを推進する上で欠かせない要素と言えるでしょう。
グローバルな事業展開
カシオは、世界市場を視野に、グローバルな事業展開をDX推進の重要な柱としています。世界各国に販売拠点を設置し、各地域のニーズに合った製品を提供することで、多様な顧客の要求に応えているのです。
例えば、北米では高機能なG-SHOCKやBaby-Gが、ヨーロッパでは環境に優しい電波ソーラー腕時計が、そして新興国では手頃な価格帯のモデルが人気です。
このように、カシオは各地域の文化や価値観を尊重した製品開発やマーケティングを行い、多言語対応のWEBサイトやカスタマーサポートでグローバルな事業展開を支えています。
さらに、世界各地で社会貢献活動にも積極的に取り組み、企業市民としての責任を果たしています。カシオは、グローバルな事業展開を通じて、世界中の人々に喜びと感動を提供し続けるとともに、DXを推進することで、より良い未来社会の実現への貢献を続けているのです。
まとめ:カシオのスマートリングが示すDX成功への道
カシオのスマートリングは、同社の50年にわたる時計づくりの歴史と、最新のデジタル技術を見事に融合させたDXの好例と言えるでしょう。それは、単に新しい技術を導入するだけでなく、顧客視点、技術力、スピード、そしてグローバルな視点を組み合わせることで、伝統を尊重しながらも、革新を続けるカシオの企業姿勢を体現しています。
こうしたカシオの取り組みは、まさに「温故知新」の精神をデジタル時代に適用した好例と言えるのではないでしょうか。
カシオのスマートリングは、私たちにDXの本質を教えてくれます。それは、過去を否定するのではなく、過去から学び、新しい未来を創造していくこと。そして、そのためには、デジタル技術を活用しながらも、顧客視点、技術力、スピード、グローバルな視点を常に意識することが重要なのです。
カシオのスマートリングは、DXを成功させるためのヒントを私たちに提示してくれる、うってつけの事例と言えるのではないでしょうか。
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