『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』
(クロスメディア・パブリッシング)
「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
構造的にも、美しさの点でも堅牢で耐久性の高い靴は、少なくとも 年、場合によっては 年以上履くことが可能です。特に底付けがグッドイヤーウェルト製法で作られたものはアウトソールの交換が複数回可能なので、そうなる確率はぐっと高くなります。
履きはじめはやや硬く感じていたアッパーやインソールの革が、次第に足の形に馴染んでくる醍醐味こそ、その種の靴でしか味わえない熟成感でしょう。オールソール交換をする頃になると、心理的以上に形状的に自分の足の一部と化していることも多く、そんな無二の一体感は、男性の他の持ち物では得られないのではないでしょうか。
また、長年同じ靴を適度な頻度で愛用してゆくと、靴を履くと必ず生じてしまう履き皺や、何らかのトラブルで付いてしまう傷やシミの類ですら、これまで自分の歩んできた道を象徴するかのように感じます。物理的には劣化ではあるものの、むしろ「なくてはならないもの」のように思えてしまうのですから不思議なものです。
履き潰すのではなく、履き尽くす。そんな姿勢で靴と向き合っていけば、値段以上の価値が必ず返ってきます。ただし、そのためには「定期的なお手入れ」が必要不可欠です。これを怠ってしまうと、せっかく「素質のある靴」を選べたとしても、案外短命に終わってしまう場合もあります。
靴に付いてしまった傷を完璧に修復し切ることはできませんが、お手入れを通じその悪化を最小限に食い止め、逆に一種の味、風合いにしてしまうことは十分可能です。この章のタイトルに「育てる」というフレーズを使ったのは、それもあってのことです。良い靴を「買う」だけでは、まだまだスタート地点。はじめの一歩に過ぎません。
とは言いつつも、決して高度なテクニックは必要とはしませんから、どうかご安心ください。品質の維持、いや考えようによってはその向上が、お手入れでいとも容易にできてしまうのも紳士靴の素晴らしさです。その要素をこれからご紹介しましょう。
最近は、靴のお手入れに興味・関心を持つ男性が増えているようです。紳士靴を扱う弊社の立場からすると、これは非常に嬉しい現象だと思っています。弊社のセレクトショップにお越しいただくお客様の中には、プロの靴磨き職人並みにピカピカに磨き上げているという人もいらっしゃいます。
しかし、その一方で、仕事が忙しくじっくり靴のお手入れに取り組めないという声があるのも事実です。
この項目では、私が普段、特に帰宅後に気をつけていることをいくつかお伝えします。いずれも単純なことですが、経験上、これらを日頃しているかいないかで靴の寿命が大きく異なる気がしています。
靴紐は単なるアクセサリーではありません。膨張と収縮を繰り返す足に対して、靴のフィット感を調節する大きな役割があるのです。
ですから、帰宅したらまず靴紐を解き、そのホールド感をすべて開放してあげてください。その方が明らかに簡単に、そして靴にダメージを与えることなく脱ぐことができるからです。たかが数秒のことですが、これを怠ってはいけません。
靴に付いた埃や軽い汚れは、放っておくとさらなる汚れの積み重ねのもととなります。履いたその日の軽いうちにブラッシングして、それらを落としてしまいましょう。これも1分もあれば可能です。
ブラシの毛の種類も色々とあるようですが、最初のうちはそこまでこだわる必要もないかと思います。また、悪天候の際に履いて泥汚れがひどい時は、おしぼり程度の水分を含ませた雑巾で、靴全体を軽く拭くのもお勧めです。
靴は最低3足揃えておいて原則なか2日のローテーションで履き回すというのがセオリーです。数日間に渡る出張や旅行で、荷物を少なくするため靴を1足だけで済ませたとき、次第にその中の湿っぽさで不快になったという経験をしたことはありませんか?
両足で1日にかく汗の量は、なんとコップ半分以上。それが靴の中から完全に抜けるまで丸々2日はかかると言われます。同じ靴を何日間も続けて履くことは、その中に染み込んだ汗を閉じ込めさらに汗を吸収させようとする、靴にとっては苦行のような行為です。これを続けていると、次第に靴は湿気でいっぱいになり、やがて悪臭を放つようになります。
それだけではありません。さらには最悪ひび割れのような形で、ライニングやインソール、それにアッパーといった部分に、コンディションの乱れが表れます。
シューキーパーは靴の形を守る、あるいはきれいに保つためのものです。これを使えば、アッパーの履きじわを伸ばし、アウトソールの反り上がりも元に戻すことができます。おすすめは木製(靴の中の汗を吸い取る効果があります)。できれば、その靴のメーカーの純正を使うようにしましょう。その方が靴の形によりフィットすると思います。
もちろん、汎用的なプラスチック製のものであっても、入れないよりは遙かに良いと思います。木製でもプラスチックでも、履いていないときは必ずシューキーパーを入れるように習慣づけてください。
また、②のブラシで埃を取るときにも入れておくといいでしょう。履き皺がきれいに伸びるので、そこに付いた細かな埃まで取り除くことができます。
久々に履こうとして靴棚の奥から取り出したら、靴の中も外もカビだらけになっていた……。そんな真っ青なご経験、誰しも一度はあるかと思います。
靴棚の中は、実は油断をすると相当の湿気が溜まる場所です。靴を置く場所は必ずしも自分では選べないかもしれませんが、お掃除の度に靴棚の換気を欠かさないとか、吸湿剤を都度入れ替えるなどして、日頃から気を付けたいものです。②で挙げたように、靴棚に靴をしまう前に汚れや埃を軽く落とることも、カビの予防策としてとても有効です。
今回は日ごろから実践すべき靴のメンテナンス5つのポイントを紹介しました。ビジネスの相棒となる靴を長く履き続けるためにも、ぜひ活用してください。靴は履きつぶすのではなく、履き尽くす。そんな姿勢でどうか靴と向き合ってみてください。
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