海外でのVRビジネスについて、グリー株式会社の荒木英士氏をモデラーに、Babab StudiosのMaureen Fan氏、Reload StudiosのJames Chung氏、TencentのLi shen氏、VRChatのJesee Joudrey氏をパネリストとして迎え、「海外VRビジネス最前線」というテーマで行われた本セッションの様子を紹介する。
各社の提供しているコンテンツについて
—-まず、各社が現在行っていることについて簡単に教えてください。
Maureen Fan氏:現実では想像力に限界がありますが、VRではそれを突破できるし、そうすることによって感情を解き放つことができると我々は信じています。
中でもVRとアニメーションは相性がいいと感じていて、見る人を映画の中に引き入れて登場人物のようにしたいと考えてコンテンツを制作しています。
例えば「INVASION!」という作品は、視聴者はウサギとして異星人を倒すというストーリーですが、このように、自分があたかも映画の主人公のようになっているような気分で楽しめます。
James Chung氏:Reloadでは、ターゲットユーザーが慣れた姿勢で楽しめるようなコンテンツを考えています。モーションコントーラーなども良いですが、これでは長時間プレイできません。リアルなゲーマーはアクティブに動きたくないものなのです。
我々はユーザーが何百時間もプレイできるもの、1回のプレイで長時間プレイできるものがいいと考えており、普通のコントローラーを使うシューティングを作っています。
Li shen氏:Tencentは現在VRにおいて具体的な製品があるわけではないですが、中国のマーケットについて紹介したいと思います。
中国ではVRを業界全体が注目しており、様々な企業がVRに参入しています。他の国比べてハードウェアメーカーが多いというのもユニークなポイントです。
2016年にはモバイルヘッドセットの規模は1200万台に、2020年には1億台にも増えるのではないかと考えています。
しかし、VRを体験するためには、プレイヤーはどうしてもヘッドセットを着けなくてはならず、それは快適なものではありません。それでもVRコンテンツを体験してもらうには、より高い価値を提供していく必要があるのです。
単に既存のゲームをVRにもちこんだところで、それは通常のコンソールで十分楽しめるものであり、わざわざVRにする必要はないと考えています。
こういった考えの結果、VRソーシャルというところに行きつきました。
環境そのものに自身が入っていき、その環境のなかで様々なアクションをとることができる。このように自身の体を使って表現していくということが、ソーシャルにおける豊かな体験であると感じています。
高い価値を提供することでユーザーが熱量を持つ。その結果、ヘッドセットという障害を乗り越えてくれるのではないでしょうか。
VRは確実に大きくなっていくし、全ての業界を巻き込んでいくでしょう。Tencentは未だ足を踏み込んだばかりなので、現在はそのなかで一番いい立ち位置を見極めている段階です。
Jesee Joudrey氏:VRChatでは現在、ソーシャルVRとユーザージェネレイテッドコンテンツの2つの軸でコンテンツを提供しています。
ソーシャルVRでは、同じところに集まって声や手を使ってコミュニケーションをとっていきます。同時にオンラインになっているユーザーが、あたかもその場にある環境全体が現実であるかのように感じるという体験を全員で共有することができるのです。
人々がVRに求めているものはそれぞれ違いますが、我々の用意したプラットフォームを使ってもらい、自分の生活環境をスキャンしたり、歴史的な場所を再現したりと、自分が求めるものを自身で作り出していくということを可能できる環境を提供しています。
VRに対する考え
—-どのようなきっかけでVRに参入しようと思ったのでしょうか
Maureen Fan氏:最初にVRを体験したのはポールマッカートニーのライブでしたが、ピクセルが粗かったりしてあまり感動しませんでした。
しかし、GearVRを体験したときに、あたかもその場にいるようだが実際はそうではないという状態の中で、自分が世界に入り込んで行けるのに感動し、VRの可能性を感じました。
James Chung氏:プラットフォームそのものがコンテンツによって伸びていくということが大きいと考えています。
どのプラットフォームでローンチするのか聞かれますが、ハードに制約されることなくサービスを展開していこうと思っています。
—-VRChatはなぜソーシャルを選んだのでしょう?
Jesee Joudrey氏:以前の会社を辞めた際は、特にVRをやろうとは考えていませんでしたが、OculusRiftが予想よりも早く提供されたことで、VRは市場になると感じて参入を決めました。
私は初めてVRの世界に入った時に3時間も体験しました。現在、体験時間の平均は70分で、VRがプロダクトとしてすごいだけではないと感じたのです。
—-Tencentは大きい会社ですが、VRでは何が上手くいって、何が上手くいかないと感じていますか?
Li shen氏:VRのゲームデモを作ろうとしていたのですが、今の段階では、VRヘッドの設置ペース数が多くなく、コンテンツを増やしても収益が悪いのが現状です。
この状態で次のステージで何をすべきかというと、プラットフォームに貢献することだと考えています。やることは少ないとはいえ、プラットフォームについては努力を重ねることができます。
VRがコンテンツになるために必要なもの
—-今のVRは「テックデモ」が多いですが、これをコンテンツに変えていくには何が必要だと考えていますか?
Maureen Fan氏:今市場がVRに対してワクワクしているのはテクノロジーとしてのものです。しかし、技術的なものが一番重要ではなく、オリジナルコンテンツがVRに反映され、マスに広がっていくというストーリー展開が必要になります。
サムスンにおいては今まではライセンスのあるものをVRに乗せていたことが多いですが、現在はオリジナルコンテンツも作っており、このようにVRに特化したコンテンツがあるということが非常に重要だと考えています。
James Chung氏:ソファに寝ながら楽に体験できるようなものが重要です。
若いユーザーは短い時間のコンテンツを楽しむ傾向がありますが、全てのユーザーの生活に合致した長さのコンテンツを提供したいです。今の段階では短時間のものになってしまうと思いますが、ヘッドセットが進化したりすれば、長いものも作っていきたいと考えています。
—-ゲームにおいて、提供時間はどれくらいの長さがいいと考えていますか?
Li shen氏:ゲームというのはハードウェアの制約の中での作業が必要になるものですが、その中でプレイヤーがどう遊ぶかは自由だし、プレイ時間に関してはユーザーが求める時間になるでしょう。
コンテンツそのものがデバイス以上の価値になるだろうと信じていますし、だからこそコンテンツベースのマーケットである必要があると考えています。
VRは、自分自身では体験できないようなことを体験できるようなものである必要があるのです。
VR元年の今から、ビジネスとして成長していくまで
—-2015年はVR元年と言われていますが、1つのビジネスとして収益があがるのはどれくらいかかると思いますか?
Maureen Fan氏:アニメーションでは、収益を上げるまでに期待よりは時間がかかるかもしれません。
VRの規模は来年には広がると思ういますが、その時に懸念されるのはコンテンツ不足です。そうなると、継続的にユーザーに価値を提供できるコンテンツが必要だと思います。
ビジネスになるという観点からいえば来年の早い段階ではないでしょうか。
Li shen氏:ハードウェアの数が多くないこともあり、1,2年以内では大きな収益を上げるのは難しいだろうと考えていますが、2018年まで待てばハードウェアが十分な数に達するのではないでしょうか。
Jesee Joudrey氏:例えば自動車会社や建築会社というような規模の大きいユーザーに、ハイコストなプロダクトを提供するというBtoBのビジネスモデルがありますが、このように投資家を使ってマーケットを確保するというやり方は今後2年は続くだろうと考えています。
James Chung氏:VRメーカーや配信する人々に合わせることが重要ではないし、早くから収益を上げる人も出るでしょう。
モバイルデバイスで育っている人間はフリープレイしか知らないことが多く、そこに対してどうコンテンツを提供していくかが我々の悩みです。
しかし、日本の場合はまたそれが違ったりもします。それら全てを満たすものを提供していきたと考えています。
—-最後に一言お願いします。
Jesee Joudrey氏:VRでなにかしたいのであれば、今始めるべきです。2年後では業界に参入しがたくなっていると思います。
Li shen氏:我々はVRが大きなマーケットになることを信じています。もし、近い将来市場が巨大にならなかったとしても、今後に向けた準備をしていく必要があるでしょう。
James Chung氏:今までは自分の椅子に座り、スクリーンを見ながらゲームをしていましたが、そのステージの中にいるのがVRであり、故にVRは特別です。今はVRでコンテンツを作ることへの熱量が高い時期だと感じています。
Maureen Fan氏:エンターテイメントから始まって市場が成長していくという流れが自然だと思いますが、VRを使って恐怖症を克服したり、手術のシミュレーションをするなど、エンターテイメントに限らずいろいろなものが変わっていくと思うし、それ以外のものについても模索していく必要があると感じています。
ほとんどが英語のセッションでしたが、各社のVRに対する思いや、VR業界全体に対しての思いが伝わってきました。
日本ではVRといえばゲームという認識が強い気がしますが、ユーザー一人一人がアバターをつくり、VRのなかでコミュニケーションをとるVRソーシャルというのも面白そうですね。
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