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バルト海小国エストニアのVRの今と未来


エストニアはバルト海に面する1991年に旧ソ連から独立した人口わずか130万人、面積は九州程度の小国ですが、近年IT産業の発展が盛んで、あまり知られていないが無料インターネット通話サービス「スカイプ」はエストニアで開発されたものです。


特にVR領域の発展が進んでおり、エストニアのVR業界は有志レベルのコミュニティ組織ですが、そのアイディアと成果に驚かされます。


今回はエストニアVRコミュニティ主宰のMadis Vasser氏とMario Saarik氏にお話を伺いました。


Madis and Mario


エストニアVRコミュニティ主宰のMadis Vasser氏(中央)とMario Saarik氏(右)


—-まずは簡単な自己紹介お願いします。


Madis氏:私本来は心理学者です。VR開発を始めたきっかけは2013年にあるロボット関係のイベントでOculus DK1に触ったことでした。その時のデモゲームがすごく印象的で今までのゲームでは、できなかったことが実現できるようになったと感じ、この経験が忘れられませんでした。


Mario氏:私自身がVRの世界に入ったきっかけは、単純にVR関連のビデオを見たことでした。その時、「私の家にもこんなものを置きたい」と思いました。そこからOculus DK1を注文して友人や知り合いとVR開発の冒険を始めました。


 


—-二人は開発やプログラミングに関する経験があったのでしょうか。


Madis氏:私は心理学者ですが、心理学に関する実験でネズミの視点と行動の疑似体験をするという研究テーマだったので、自分でソフトウェア開発もやっていました。もう一つのプロジェクトではVR世界の中でアイテムを見たらアイテムが消え、見なくなったら出てくるという注意と意識に関する実験もやっていました。そのため、ソフトウェア開発の経験は多少ありました。


Mario氏:私は機械工学の勉強をしていたので、関連する知識は少しありました。とりあえず試行錯誤で試作品の製作を始めました。今作っているのは宇宙船を操縦室から操作するゲームです。操作に反応して動く椅子も作っています。ジョイスティックで操作すると椅子も周りも1対1の比率で反応してくれるのでVRでの体験はすごく感動的です。


 


—-VR開発は始められたのはいつ頃ですか?


Madis氏&Mario氏:共に約2年前から始めました。


Madis氏:2年前はまだまだVRを知っている人が少なかったですが、今ではどんどん人が増えてきましたね。しかし、OculusもHTC Viveもデバイスの値段がまだまだ高く、普及するにはあと5年、6年くらいかかるでしょうね。今はVRが生まれたばかりという感じで、ゲームの数も品質もまだまだですし。


Mario氏:でも面白いことは、前の世代(90年代)のVRは一回死んでしまったが、今回のVRはそんな感じがしません。今のテクノロジーはかなり発展し、VR体験を支えることができるレベルまで来ています。しかし、逆に心配しているのは、ユーザーが高価なVRデバイスを購入した後に、自分の所有するPCでは性能が追い付かない事に気づき、体験できないという状況に陥りかねないという点ですね。


 


—-VRコンテンツを開発するにあたり、苦労した点はどんなところでしょうか。


Madis氏:ちゃんとした開発のトレーニングを受けたことがない点ですね。いつもネットとYoutubeに頼っています(笑)よく眠れない夜を過ごし、翌朝になると細かいメニューのこの項目にチェックを入れないといけないことに気づき、「あ~そうだったのか~!」とちょっと悔しい気持ちになることが多々あります(笑)試行錯誤は大変ですが、自分のアイディアを自分の手で実現できるので人に頼らずに形にするのは非常に楽しいですよ。


Gathering 1


コミュニティの集まりで情報共有


—-エストニアVRコミュニティの活動についてご紹介をお願いします。


Madis氏:我々にはウェブサイトFacebookグループがあり、現在メンバー約350人います。実際に集まるイベントも2ヶ月に一回の頻度で首都タリン(人口40万)と第二の都市タルトゥ(人口10万)で交互に開催しており、毎回約30~40名程集まっています。基本的に最近のVR業界に関するニュースを話し合ったり、お互いのVR作品についてディスカッションしたり、VR開発に関する問題点を話して解決法を一緒に考えたりしています。


Mario氏:最初はゲームイベントでファイティングゲームをやっていたら、隣の人もVRを開発していることに気づき、お互いに開発中のVR製品やコンテンツを見せたことから始まりました。その後、エストニアにこんなに数多くOculusのデバイスが存在していることを知り、毎回刺激的な話も多いので定期的に集まるようになりました。我々がVRをやっていることがきっかけで知り合いの友達や同僚もどんどん入ってきて発展してきました。


Madis氏:今のところ会社もしくはNPO/NGOのような正式な組織は存在していません。基本は私とMarioの二人で運営しています。もちろん、フィンランドのVR業界を見ながら、我々もいつか正式な組織を立ち上げるかもしれません。それで資金を調達したり、フィンランドのVR開発者をお招きして講演をお願いしたりすることもできるようになるかもしれません。


Mario氏:我々のコミュニティもハブ組織の機能を発揮しています。例えば、ある開発者から特定な問題があり、解決できそうな人を探しているとします。その際に私かMadisに連絡してもらえれば我々がそのような人を紹介することができます。このようなハブ組織の機能を発揮することで開発がより効率的に進むことができます。


Madis氏:また、高価なVRデバイスを借りたい時も我々も相談してください。エストニア中にあるOculusやHTCのデバイスを誰が所持しているかを全て把握しています(笑)イベント開催で20セットが必要でしたら調達できますよ!


Gathering 2


お互いに作品をテストして進歩を図るメンバーたち


—-すごいですね!コミュニティにはどんな方がいますか?


Madis氏:ほとんどは個人開発者ですね。エストニアには大きいなゲーム会社もないし、VR業界でもまだ複数のチームが結成できるほどのレベルに達していません。これからは我々の活動によってもっと人々にVRに興味を持ってもらい、コミュニティをベースに業界が発展してVR関連会社が増えることを期待しています。


Mario氏:エストニアの個人開発者の中にもクオリティの高い作品を作る人はいて、ある日VRのデモイベントでギロチンシミュレーターのデモを見ていて、隣に立っていた人(Erkki Trummal)と話してみたら、「これ俺が作ったよ」と言われ、驚いて「何!えっ!本当に?えっ!」という忘れられない出来事がありました。



Disunion –The guillotine simulator from André Berlemont on Vimeo.


Madis氏:ちなみに、Oculusのデモコンテンツ共有サイトに開発者各自がVRコンテンツをアップロードができます。驚いたことに一番人気のある「Mythos of the World Axis」というコンテンツはエストニアで開発されたものです。我々今もこの開発者と頻繁に会っています。


Madis氏:360度の絵を作る人もいますね。


Mario氏:彼は360度の写真を撮り、写真を絵になるように作り替え、360度のVR画像になるように繋ぎ合わせることで、もう一つの面白いアートの世界を作り出すようなことをやっています。見てみると結構その高い品質に驚かされますよ。そして、このようなアート的な絵を大量に製作し、一枚一枚に少しずつ違いを持たせることでアニメーションを作ることもやっています。


Madis氏:もう一つはエストニア博物館と提携する話があるそうで、博物館を遠距離でVR体験ができればすごいでしょうね。うまく行けば売り出すことも可能でしょう。すごく期待しています。


さらにVRの世界で自分の体と動きで楽器演奏ができるコンテンツを作っている方もいます。高価な楽器も必要なくなり、自分の体と動きだけで色んな楽器を演奏できるようになるのも面白そうです。開発者たちは自分の夢の世界をVRで実現させようとしていますね。


Gathering 3


議論して更に良いコンテンツを目指すエストニアの方々


—-近くに商品化しそうな製品ありませんか?


Madis氏:一つは私自身が入っているVIRTUAL NEUROSCIENCE LABという会社で製作している、主に心理学に関するソフトウェアですね。例えば、人の前で話すことが苦手な人がいます。彼らがVRの世界に入ってもらい、目の前に聴衆がいる状態で話す練習をしてもらうことで改善を図れます。大学の研究でもあるので、効果を精密的に測ることもできます。


Mario氏:Criffinという会社もVRハードウェアを開発しています。主に無線モーションセンサーを用いてユーザーの手や足の動きをVRの世界で反映させる技術を開発しています。詳細はわかりませんが、彼らは近くに製品をリリースするでしょう。


Madis氏:他は主にVRのコンテンツを開発しています。例えば、非常に高精度でリアリティが高い潜水艦VRコンテンツを開発している方がいます。Displacement Theoryという名前の開発中ゲーム(デモビデオ)です。第二次世界大戦に実際にあったドイツの潜水艦Uボートの魚雷室にいる兵士として魚雷の装填から発射までの操作体験ができます。問題はリアリティが高すぎて操作の手順がややこしくてよくわからないところですね(笑)でもクオリティは非常に高いです。ゲーム産業自体でさえ発達していないエストニアでこんなレベルのコンテンツを作れるだけで誇りに思います。資金も調達できているようで、いつかはリリースするでしょう。他にも多くのプロジェクトが立ち上げられており、いつも新しいものが出てくる可能性があります。



 


—-他の隣国のVR業界について何かご存知でしょうか。


Madis氏:フィンランドでは政府組織から資金250,000ユーロ(日本円で約3,100万円)をもらえるらしく(筆者:恐らく公的資金のTekesを指しています。審査が大変だが貴重な資金源です)、結構大きいな資金です。ゲーム産業もそうですが、フィンランドはいつもエストニアの前を走っています。スウェーデンでしたらVR関係の知り合いはいますが、隣のリトアニアとかは何も情報がないです。


 


—-VRの今後について、どうお考えですか?


Madis氏:ハードウェアの高い出費が一つ大きいな障害になると思います。もちろん、開発者にとっては始めるにはいいタイミングというのは間違いありません。


Mario氏:今後はVRの開発エンジンにもすごく期待しています。例えば、VRの世界に入ってそのまま物を作ることも可能になるかもしれません。となると自分のVR世界をVR世界にいながら作れるので、想像するだけで興奮します。


 


意外にもこんな小さな国でVR開発がこれほど盛んでいるとは非常に驚きました。今後もエストニアからのVR業界動向に注目していきます。


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