
今年もVive Xアクセラレータプログラムの対象となる企業が発表された
HTCが進めるVive Xアクセラレータプログラムは、HTCがVR/AR関連のスタートアップ企業を支援することで業界全体の発展を促すためのものだ。過去にはHTC Viveのワイヤレスアダプタを開発するTPCast、AIを使って写真からVRアプリケーションで使用できるアバターを作り出すObENといった企業がVive Xアクセラレータプログラムの対象となっている。
対象企業の発表は今回で3回目であり、新たに26の企業がHTCのサポートを受けてVRデバイスやARを使ったサービスの開発を進めることになる。
Vive Xアクセラレータプログラム

過去にプログラム対象企業のプレゼンも行われた
HTCがこのプログラムを実施する目的は、VR/ARの世界的プラットフォームを構築・発展させるためだとされている。しかし、有望なスタートアップ企業をHTCのエコシステムに囲い込もうというだけのプログラムではないようだ。
TPCastの例
過去にHTCの支援を受けてViveをワイヤレス化するアダプタを開発したTPCastは現在、HTCのライバルであるOculusのVRヘッドセットOculus Riftをワイヤレス化するアダプタを開発中とされている。中国など一部の地域では既にVive版のワイヤレスアダプタを提供しているTPCastだが、アメリカではVive版とRift版が同じ時期の出荷開始になりそうだ。
この例を見ると、Vive Xアクセラレータプログラムの対象として支援を受けることで企業の方向性を変えられてしまうわけではないようだ。
HTCによる支援
Vive Xアクセラレータプログラムの対象企業は既に2度発表されており、その数は66社に上る。HTCは多額の資金を用意して彼らへの支援を行っているのだ。Vive XはHTCによれば1億ドル、日本円にして112億円という規模のファンドとなっている。
HTCが行う支援は、金銭的なものだけではない。業界の知識や技術を伝えることに加えて、他に例を見ないほどの広範なネットワークへの参加もメリットとして挙げられている。HTCが仲介するVive X対象企業同士のコラボレーションも考えられるだろう。
今回発表された企業は世界5つの地域に渡る。これまでと同じ地域に加えて、新たにテルアビブ(イスラエル)の2社が選ばれた。
サンフランシスコ
サンフランシスコからは、8社が選ばれている。
Apelab
Apelabは、VR/ARコンテンツを多くの人が開発できるものにしようとしている。
VR/ARコンテンツの開発には3DCGやプログラムの高度な知識が必要だが、同社のツールを使えばプログラムの知識がなくても没入型コンテンツの開発が可能だ。さらに、作成したコンテンツは複数のプラットフォーム向けにエクスポート可能だとされている。
CALA
CALAが提供するのは、洋服のデザイナーを助けるソリューションだ。
消費者がスマートフォンのカメラによって自分の身体の3Dスキャンデータを作成できるようになり、デザイナーは彼らのために完璧なサイズの洋服を仕立てられるという。
Cloudgate Studio
『Brookhaven Experiment』や『Island 359』といったVRタイトルを開発したスタジオ、Cloudgate。
過去の作品で高い評価を受けているだけでなく、現在はVirtual Selfと呼ばれるプラグインの開発を進めている。このプラグインを使えば、VRゲームのデベロッパーがVive Trackerによる全身のトラッキング機能を組み込むことができるという。
Vive Trackerを開発したHTCとしては、おさえておきたい企業かもしれない。
eLoupes
eLoupesがターゲットとするのは一般の消費者ではなく、手術を行う外科医だ。
ヘッドマウントディスプレイとライトフィールドレンダリングを組み合わせ、顕微鏡などのツールに代わって手術室で利用される視覚化技術を提供する。
Nanome
Nanomeは、VRとブロックチェーン技術を組み合わせることで様々な分野の研究開発を促進する。
現在の非効率的なシステムを改善し、視覚化によって効率的・直感的に研究を進められる環境を作ることで、技術革新が加速するという。科学・工学といった分野で利用される技術だ。
Neurable
Neurableは、脳波によってVRをコントロール可能なブレイン・マシン・インターフェイスの開発に取り組んでいる。
重要なのは、これが遠い未来の話ではない点だろう。彼らは2018年に脳波で操作できるVRアーケードゲームをリリースする予定だ。リンク先の記事に埋め込まれた動画では、実際にコントローラーを使わずにオブジェクトを選択する場面を見ることができる。
Quantum Capture
Quantum Captureは、人間のようなAIキャラクターを制作するためのツールを開発している。
VR/ARアプリケーションのナビゲーションキャラクターやゲームのNPCなどで写実的なキャラクターを使いたい企業は、Quantum Captureのツールを使って開発のコストや期間を削減可能だ。
QuarkVR
過去にVive Xアクセラレータプログラムの対象となったTPCastと同様に、VRヘッドセットのワイヤレス化を目指すQuarkVRも選ばれた。
QuarkVRの圧縮・ストリーミング技術により、高解像度のVR/AR映像を最小の遅延でヘッドセットに届けることができるという。ソフトウェアソリューションなので、ハードウェアに依存せず異なるVRヘッドセットで利用できるのも同社の強みだ。
北京
北京からは、7社が選ばれた。
Future Tech
Future Techは、中国の成都を拠点とするゲームやVRコンテンツのスタジオだ。UbisoftやGameloftで経験を積んだメンバーにより、近年実力のあるゲームスタジオが増加している中国で設立された。
PSVRで開発中の『Mars Alive』で複数の賞を獲得している。
Genhaosan
Genhaosan(GHS)は、カラオケとVRを組み合わせたエンターテインメントを提供する。
彼らのGHS VRKシステムはカラオケルームに設置され、ユーザの行動に反応するバーチャルなオーディエンスの前でロックスターのようにパフォーマンスすることを可能にしてくれる。パフォーマンスの様子をソーシャルメディアで共有することもできるようだ。
実在するアーティストやバーチャルアイドルのライブをVRで視聴できるコンテンツは多数あるが、自分がステージに立てるコンテンツは貴重かもしれない。
JuDaoEdu
JuDaoEduが目指すのは、学生が科学実験を行うことのできるバーチャルな研究室を作ることだ。
VR空間のリアルな研究室で、安全に実験を行いながら生物・化学・物理を学ぶことができる。
Lenqiy
Lenqiyも、教育にVRを活用する。
科学や工学、数学、芸術といった分野で若者の想像力を育てるVRコンテンツの開発を行っているデベロッパーだ。
PanguVR
PanguVRは、AIを使った高度な画像処理を得意とする企業だ。
同社のエンジンを使うことで、3DCGや2Dの画像から短時間・低コストでVRオブジェクトを作ることができる。この技術は、VRコンテンツ開発のコストを下げることに繋がるだろう。
Pillow’s Willow VR Studios
Pillow’s Willow VR Studiosは、幅広い年齢層のプレイヤーが遊べるカジュアルなVRゲームを開発するスタジオだ。
VRゲームには映像のリアルさを活かした暴力的・ゴア表現のあるものが多いが、彼らの作品はおとぎ話のような世界を作り出している。VRの普及を考えると、ゲーマーが熱狂できるようなゲームだけでなくこうしたコンテンツも必要だ。
Yue Cheng Tech
Yue Cheng Techは、オリジナルのVR映像コンテンツ制作や、海外コンテンツの中国への紹介を行っている企業だ。
15カ国、50以上のパートナーが制作した300を超える高品質なVRコンテンツを中国のユーザへと届けている。世界で初めてプロによるVR映画を制作した企業でもある。
深セン

2017年にE3で展示されたAntilatencyのトラッキングシステム
深センからは5社が選ばれている。
Antilatency
Antilatencyは、上画像のトラッキングシステムを開発している。
このシステムでは、モバイルVRヘッドセットを使って広いプレイエリアでのポジショナルトラッキングが可能だ。また、複数のヘッドセットをトラッキングしてのマルチプレイも可能となっている。
Configreality
Configrealityは、人間がどのように空間を認識しているかを研究している企業だ。
同社のアルゴリズムを使うことで、実際にはプレイエリアが限られている場合でも無限に広がる空間があるように感じられるという。VR体験をより深いものにしてくれそうだ。
Super Node
Super Nodeは、機械が周囲の環境を認識するための統合的ソリューションを開発している。
低コストかつ高精度でロボットに障害物を回避させることができ、物体を認識するシステムはVR/ARのトラッキングにも有効だ。
VRWaibao
VRWaibaoは、マルチユーザに対応するVRプラットフォームを開発している。
幅広い業界の顧客を対象とするエンタープライズ向けVRアプリケーションを開発している企業だ。
Wewod
Wewodは、高品質なロケーションベースの教育・娯楽を目的としたVRコンテンツの開発を行っている。
3D制作ではディズニー、任天堂、バンダイナムコといった世界的企業とも関わりのある実力者だ。
台北

VRユーザの感情を測定・分析してマーケティングに活用できる
台北からは4社が選ばれた。
COVER
COVERが提供するのは、バーチャルライブストリーミングプラットフォームだ。
ユーザは、スマートフォンで視聴する人々のためにアバターを使ってライブ配信を行うことができる。また、COVER独自のバーチャルな有名人を使った配信コンテンツも提供している。
Looxid Labs
Loocid Labsは、VRを体験するユーザの感情的な反応を測定・研究する企業だ。
目と脳の動きを測定することで、ユーザがどのように感じているかを分析することが可能になる。この情報は、VRでのマーケティングやゲーム開発などに利用できるだろう。
Red Pill Lab
Red Pill Labは、バーチャルキャラクターの動作をよりリアルで生き生きとしたものにすることを目指す。
ディープラーニングの活用によって、リアルタイムで動くキャラクターの動作がより自然なものになるという。キャラクターの動きに違和感があると「偽物」だと感じて現実に戻されてしまうため、VRへの没入を維持する重要な要素だ。
VRCollab
VRCollabは、建築に携わるデザイナーやエンジニア、あるいはコンサルタントのためのソリューションを提供する。
ビルの設計モデルをデザインレビューに使える形式に瞬時に変換し、作業の効率化を行うという。
テルアビブ

VRを取り入れるテーマパークが増えている
今回初めて対象となったテルアビブからは、2社が選ばれた。
Astral Vision
Astral Visionは、低コストでテーマパークのアトラクションをVR化する企業だ。
既存のアトラクションを利用することで、大きな投資を行わずにVRアトラクションを導入できる。
REMMERSIVE
REMMERSIVEは、VRを活用したドライビングシミュレーターを開発している。
VR技術は各種シミュレーターとの相性が良いため、VRの導入によってよりリアルな運転体験が可能となっている。
幅広い企業が対象に
これまでに発表されたVive Xアクセラレータプログラムの対象企業と同様に、今回も様々な分野からVR/ARに関わる企業が選ばれている。
最新のテクノロジーを用いて新たなハードウェアの開発を進めるNeurableやAntilatencyだけでなく、教育でのVR活用を目指すJuDaoEduとLenqiy、これまでにないサービスを作り出すCOVERやGHSも支援の対象だ。
今回発表された企業は26社で過去2回(いずれも33社)に比べると数が少ないが、これで合計92社がVive Xアクセラレータプログラムの対象となる。HTCを通した全く異なる国・異なる分野の企業同士のコラボレーションも考えられ、Vive Xが新しい製品・サービス誕生のきっかけになることもありそうだ。
過去にVRInsideで紹介した企業も含めて、今後の動向を見守っていきたい。
参照元サイト:Road To VR
参照元サイト:HTC Vive
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