海外メディアMediumは、ナイアンティックCEOであるJohn Hanke氏のARに関する投稿を掲載した。
「フルAR」に向かう世界への提言
2017年9月13日、同メディアに「ポケモンGO」を開発・運営するナイアンティック社のCEOであるJohn Hanke氏(トップ画像の人物)が記事を投稿した。記事の題名は「拡張現実の未来はどのように捉えられてきたか?」である。
まずこの記事で注目すべきは、投稿された日付である。「2017年9月13日」はAppleがARKitを実装したiOS11を正式リリースした直後である。iOS11リリース直後に記事を投稿したということは、この記事が同氏のARKitへのリアクションという側面があると考えられるのだ。
投稿された記事の題名および投稿されたタイミングを考慮すると、以下に解説する記事には「ポケモンGO」によってARを世界に知らしめた同氏の「AR観」、そのAR観からみたARKitの位置づけ、そして何より「ARの未来」が語られていると見て間違いないだろう。
「スマホAR」は「フルAR」であらず
まず、記事の最初の部分で同氏はARの定義を提示する。同氏が考えるARとは「リアルにある世界を生きるヒトのちからを強化するもの」とされる。この定義は、今日の実用的なARアプリによって体験できるAR体験と矛盾するところはない。
しかし、同氏はこう問いかえる。「現在、ヒトを強化するものとしてのARの未来は実現しているのか」と。この問いかけに対し、同氏は以下のように答える。
わたしたちはARの未来を今日見ることができているのか?その答えはイエスでもありノーでもある。
スマホを使ったARとはフルARへと続く道を歩む重要な第一歩なのだ。しかしこの一歩は、現在のスマホARが技術的なレベルと要因によって制限されているものだと理解すべきなのだ。
同氏はARKitを含めた今日のスマホARを評価しながらも、そのARはまだ完成されたものではない「制限されたもの」であり手放しで称賛できるものではない、という態度をとっているようだ。
ARの「本当の意味」
それでは、同氏が考える「フルAR」あるいは「ARの本当の意味」とは何か?この疑問に対し、同氏は以下のように述べている。
多くのヒトは、デバイスのスクリーンに表示されたカメラビューにオブジェクトあるいは情報がオーバーレイ表示される視覚効果のことをARと解釈している。
しかし、この解釈には見落としがある、というのがわたしの意見だ。ARの本当の意味とは、ヒトが物理的世界を体験しているまさにその時にデジタルな情報、オブジェクト、そして体験とつながることなのだ。
つまり、物理的世界とデジタルな世界がつながっているという点こそが重要なのである。そして、このふたつの世界のつながり方に関しては、ARの本質から見ると副次的だ。
ARとは、つまり映画「Her」で見ることができるような何かでもあるのだ。ARが、例えばヒトが道を歩いていると目の前にある建物に関する歴史的出来事を「話してくれる」ささやき声であってもよい。
現在多くのヒトが体験できるAR体験とは、「ポケモンGO」を典型例としたスマホディスプレイを中心とした一種のビジュアル体験である。
しかし、同氏が定義するARとは「物理的世界とデジタル世界がつながること」であり、そのつながり方は視覚に限ったものではない、というわけなのである。こうした「AR観」から見ると、スマホディスプレイという制約の多いデバイスによって体験できるARは、極めて限定の多い不完全なものとなる。
グラスはやって来る
ARを「物理的世界とデジタル世界がつながっていること」と理解すると、もはや特定のデバイスの性能に依存してARを理解する必要がなくなる。むしろ、ARを「スマホAR」の呪縛から解放して考えるべきなのだ。
同氏は、続けて「スマホAR」の後に来るAR体験について、以下のように語る。
言いたいのは、スマホARカメラビューはクールな第一歩であるが、その一歩はARをより重要かつ強力にする過程にすぎない、ということだ。
そして、今日のスマホのカメラビューにデジタル情報をオーバーレイする技術を突き詰めていくと、未来におけるARグラスを誕生させるのに必要な技術に行き着く。
ナイアンティック社がスマホARの可能性を探求しているのは、スマホARがARグラスを実現する飛び石として重要だからなのである。
…ARグラスはやって来る。ARグラスに至る道は困難をきわめ、しばらく時間がかかるだろうが、ついにARグラスを実現し、それを一度体験してしまったら、わたしたちはもはやARグラスのない時代へは戻れなくなるだろう。
Google Glassは、へまを犯してしまったが、確かにそうした未来を垣間見せてくれたのだ。
すべてがインタラクティブな未来社会
同氏は、記事の最後の段落でARグラスが普及した未来とは具体的にどのようなものかをリアルに描写している。
ARグラスが当たり前になった世界では何が起こるだろうか。そうした世界では、わたしたちが見るものすべてがインタラクティブになるだろう。
建物、オフィス、家、そして街そのもの、さらには移動手段のすべてが生き生きとしてダイナミックに動くインターフェースとなり、ひとりひとりのヒトのためにカスタマイズされ、ヒトが望むように動作することを想像してみるとよい。
現在毎年何十億ドルもかけている物理的な標識、案内、スケジュール表といったリアルな世界をナビゲートしているすべてのものがもはや不要となり、リアルに存在していたモノよりはるかに機能的に優れているオーバーレイされたデジタルARに置き換えられるのだ。
もちろん、(「ポケモンGO」のモンスターのように)カラフルに色付けされたモンスターが裏庭や公園に生息し、見つけられるのを待っている。未来ではわたしたちが想像できるものをはるかに超えたゲームがプレイされているだろう。
だがそのゲームは映画「マトリックス」のようにポッドにつながれているのではなく、ヒトがリアルに歩き、走り、探検し、話し、そして何より現実の世界とつながっているものなのだ。
ARKitおよびARCoreがこれから生み出す新しいスマホ文化の先には、まだ想像することによってしか接近することができない「本当のAR世界」が待っているのだ。
Mediumが掲載したナイアンティックCEOであるJohn Hanke氏のARに関する投稿記事
https://medium.com/@johnhanke/did-we-just-glimpse-the-future-of-augmented-reality-3a859d9f89e2
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