ロボットやCGなどで人間の外見を再現して、それをより「人間らしく」仕上げようとした場合、ある一定ラインを超えると人間はその対象に不気味さを感じるようになる……。いわゆる「不気味の谷現象」をめぐる議論は、おおよそ以上のような内容で一般的に流布している。
もちろん「不気味の谷現象」の存在はVR空間におけるCG制作においても例外ではない。
この課題点の克服には、ベルリンにあるフラウンホッファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所(HII)の科学者たちが現在研究開発に取り組んでいるVRスキャニング技術が役立つかも知れない。
つまり、「人間をスキャンし、そのアバターをVRを空間内に導入する」という手法によって解決の糸口が見えてくる可能性があるのだ。
なぜ「不気味の谷現象」を克服するのか
なぜ「不気味の谷現象」を克服すると考えられるのか。それはこの手法が「CGを限りなく人間に近づける」のでなく、そもそも「人間の外見をそのままVR空間に導入する」というアプローチを取っているからだ。
「不気味の谷現象」の克服、という目的でなくとも、ユーザー自身をスキャニングしてそのアバターをVR空間で動かす技術自体に価値があることは明白である。
たとえばVR空間上で展開されるソーシャルネットワークプラットフォームでは現在、リアルな人間をデフォルメしたスタイルのアバターが主流だ。しかし将来的には「自分自身」をVR空間に送り込むという選択肢をユーザーが選べるようになるかも知れない。
また商業ゲームに自身のアバターを登場させることも可能となるだろうし、全身のスキャニングともなればフィットネスやヘルス分野での活用も考えられる。
HIIの開発中の技術について
32台のカメラで対象を記録!
ところが一口に「人間をスキャニングする」といっても、それが言葉で表現するほど容易なものでないことは明白である。
なぜならば、単純に人間の身体が非常に複雑、かつ多数の部位によって構成されているからだ。静止像ならまだしも、モデルとなる人間が動いている状態まで記録しようとすると、これはなかなか困難である。
この問題に対して、HIIでイマーシブメディア・コミュニケーショングループのリーダーを務めるIngo Feldmann氏は、高解像度の記録が可能な産業用ステレオカメラを用いることで解決した。人間の眼のように2つのレンズを備えているこのカメラを32台対象の周囲に配置し、360°全方向から対象の動きを記録できるようにしたのだ。
このように記録されたデータを元にアバターを作成することで、アバターに精緻でダイナミックな(そしておそらく違和感の抑えられた)身体表現を取らせることが可能となる。
この技術は9月1日から開催されている世界最大級の家電見本市「IFA 2017」においても展示予定だという。
開発者はアバターを「本物の人間」と表現
Feldmann氏はDIGITAL TRENDSのインタビューに対し、上述のような開発中の技術について以下のようにコメントしている。
「我々が「ボリュメトリックビデオ」と呼んでいるものは、3D上で直接人間を撮影するのです。(撮影される)アクターの周囲にカメラを配置し、これらのカメラが(アクターの)2次元画像を生成します。これらの画像から、完璧に自然に見える3Dストラクチャーやモデルを作り出すのです。そこにいるのはアニメーションによって作られたものではなく、まさに本物の人間であり、VRやARエクスペリエンスへと導入することが出来るのです。」
Feldmann氏のコメントからは、スキャンの結果生成された人物のイメージを「本物の人間」と表現するなど、技術に対して自身を持っている様子を伺うことができるだろう。
VRにアバターを導入するための手段は現在開発中!
とは言ってもこれだけでは、「VRにアバターを導入する」ことが達成できていないままだ。いくらリアルに動作するモデルであっても、VR空間内でのアバターの現れ方にVRユーザーが違和感を持つようでは意味がない。
このためHIIの研究者らは現在、動画内の深度データを高速で抽出するためのアルゴリズム開発に着手しているという。このアルゴリズムが算出したデータを元にして、VR内での3Dモデルがどのように現れるべきを計算できるようになるとのことだ。
このように研究は具体的な計画の中で着実に進展していること様子が伺えるものの、実際に「本物の人間」のようなアバターをVR空間で目にする日は、もう少し先の話になりそうだ。
参考URL:
VRfocus
https://www.vrfocus.com/2017/09/we-are-our-avatars-scanning-humans-into-vr/
DIGITAL TRENDS
https://www.digitaltrends.com/virtual-reality/vr-scanning-technique/
フラウンホッファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所
https://www.hhi.fraunhofer.de/jp/startpage.html
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