プレイステーションVR(PSVR)の品不足や、VRアトラクションの増加など、着実に普及が進むVR。
もちろん、VRコンテンツの成功事例も増えつつある。
そのひとつが、Schell GamesのVR脱出ゲーム「I Expect You To Die」だ。
「I Expect You To Die」は、100万ドル(1.1億円)を超える売上を達成した。
そこでこの記事では、VRコンテンツに成功をもたらすために、「I Expect You To Die」のゲームジャンルである「脱出ゲーム」について解析してみたい。
危機的状況からの脱出を目指せ!「I Expect You To Die」
「I Expect You To Die」は「HTC VIVE」、「OculusRift」、「PSVR」というプラットフォームに対応した脱出ゲーム。
ただし、日本向けには販売されていない。
ゲーム内でプレイヤーはシークレット・エージェントとして危機的状況からの脱出を目指す。
脱出するためには周囲を見回してアイテムを手に入れ、危機の原因となっている状況を打開することが必要。
どうすれば打開できるのか? そのために必要な行動は何か? 解き方を考える点が楽しさのメインとなっているタイプのゲームだ。
謎解きをメインに据えたゲームジャンル「脱出ゲーム」はVRに最適!?
どのゲームジャンルにも言えることだが、「脱出ゲーム」と一口に言っても、実に多様な形式のゲームが含まれる。
ただ、「脱出ゲーム」といった場合にスタンダードな形は、一人称視点で風景の中に描かれたものを調べながら情報やアイテムを入手、謎を解き明かしていくタイプのゲームのことを言う。
「脱出ゲーム」としての代表作は、かつてネットで無料公開されていた「CRIMSON ROOM」。
ただし、画面をタップやクリックで調べて情報やアイテムを探し、謎を解き明かす…というゲームフォーマットは、そもそも、昔からあるアドベンチャーゲームのフォーマットだ。
アドベンチャーゲームとしてのくくりで考えると、Cyan作のアドベンチャーゲーム「Myst」のフォーマットが代表的な形といえるだろう。
脱出ゲームとアドベンチャーゲームの違いは、目的と規模。
脱出ゲームではたいていの場合、なんらかの理由によって主人公は閉鎖空間に閉じ込められており、その空間から脱出することを目指す。
だから「脱出ゲーム」と呼ばれる(わけだが、実は最近では脱出を目的としないものが多い…)。
また、アドベンチャーゲームの場合、プレイ時間が数時間~十数時間かかる規模を持っているが、脱出ゲームの場合1時間以内に終わることが多く、早いものでは数分でエンディングに到達する。
脱出ゲームがVRに向く理由
脱出ゲームがVRに向く理由は、大きく分けて3つある。
ひとつは、「一人称視点」ということ。
そもそも脱出ゲームが「一人称視点」であるため、VRゲームにした場合でも、まったく違和感がない。
新しいデバイスに合わせてフォーマットを変える必要がないので、ゲームシステムやゲームバランスを模索する時間的コストが抑えられる。
ふたつめは、「激しい動きが必要ない」ということ。
脱出ゲームのおもしろさのメインは「謎を解くこと」にある。
このため、FPSやアクションゲームのように瞬間的に方向転換したり、1/60秒単位というタイミングでの入力…といったことは要求されない。
さらに、脱出ゲームはそもそも、探索ポイントから探索ポイントへとワープ移動するという仕様が当たり前だ。
したがって、VRが課題として抱えている「VR酔い」を考慮せずともよい。
そしてみっつめは、「脱出ゲーム」というゲームジャンルに対して固定ユーザーが存在していること。
ゲームやアニメ、コミックといった娯楽作品は、指名買いが基本。
「ドラゴンクエストXI」が欲しい人は、最初から「ドラゴンクエストXI」を購入する。
「なんでもいいからRPGが欲しい」だとか「ドラゴンクエストXIがないから、Fallout4でいいや」なんてことは、絶対にない…とは言わないが極めて稀だ。
しかし、「脱出ゲーム」においては、「脱出ゲーム」というジャンルに対するファンがおり、GoogleやGooglePlayなどで、「脱出ゲーム」というキーワードで新作を検索するユーザーが存在している。
どうやら「脱出ゲーム」は「謎解き」という性質上、「クロスワードパズル」などのパズルのように、ある脱出ゲームをクリアしたら次の脱出ゲーム…と回遊漁的にプレイするユーザーが存在しているようだ。
どんな「脱出ゲーム」も、謎の解き方がわかってしまえば楽しさが激減してしまうので、こうしたプレイ傾向は頷ける。
そしてこれはゲーム提供者側から見れば、まったくの新奇タイトルであっても一定数のユーザーが獲得できるということだ。
このため、「VRゲームを出したいが、既存IPを安易に移植してファン離れを呼びたくない」とか「これから成長するVR市場に新規参入したいが、知名度の高いコンテンツを持っていない」というケースに向く。
ホラー脱出ゲーム多し!既存のVR脱出ゲームたち
VRの最大の強みは、仮想の空間にも拘わらず、現実に立ち会っているような臨場感が味わえること。
このため、「ホラー的な怖さ」だとか「スピード感」、「高くて怖い」など、感情や本能を直接刺激するコンテンツが威力を発揮する。
それゆえ、既存のVR脱出ゲームには、「怖さ」を刺激するホラー要素を備えたものが多いようだ。
ここではその中でもクオリティの高い、代表的なタイトルをご紹介しよう。
バットマン:アーカム VR
「バットマン:アーカム VR」はPSVR向けのVRアドベンチャーゲーム。
脱出が目的というゲームではないが、ゲームシステム的には「脱出ゲーム」の要件を満たしている。
バットマンに変身するシーンや、バットマンのさまざまなアイテムを使って調査を進める過程がVRで描かれているため、自分がバットマンになりきれるという点が魅力だ。
Dead Secret
//www.youtube.com/watch?v=Da4tG1NrE1Y
「Dead Secret」は「OculusRift」や「Gear VR」でプレイできるホラーアドベンチャーゲーム。
殺人事件の起きた館を探索する…という物語を描いていて、館を移動しつつ、謎を解いていく…という形になっている。
そもそも館の雰囲気からして恐ろしいが、悪意を持った何者かが近づいてくる…という状況がVRの臨場感で描かれている点が恐怖を掻き立てる。
「【VR版】改・恐怖!廃病院からの脱出:無影灯」
「Dead Secret」はスマホ向けホラー脱出ゲーム。
スマホVRゴーグルを使用して楽しむタイプのVRゲームで、コントローラーがないスマホVRでも快適にプレイできるよう、視線だけですべての操作が可能となっている。
360°見回すことができるというVRの特性を生かして、恐怖演出が仕込まれている点が秀逸な作品だ。
VRクリエイター志望者が習作として作成するのにも最適!?
脱出ゲームは、VRクリエイター志望者が、習作コンテンツとして作成するのにも向いている。
シナリオの進行に基づいて画像とテキストを表示すれば、最低限の形にはなってくれるからだ。
3Dで背景を作り込むことにハードルの高さを感じるかもしれないが、それもTHETAのような360°カメラで撮影したパノラマ画像を、3Dの球モデルに張り付けることで対応できる。
また、肝心の「謎」については、謎の解答を複数のヒントに分けて小出しにする…というテクニックを使おう。
例えば、「1番=イルカの彫像、2番=ハトの彫像、3番=トラの彫像という順に彫像を並び替える」というのが解答だとする。
この場合、「イルカ=赤、ハト=青、トラ=黄」というヒントと、「赤=1番、青=2番、黄=3番」というヒントの2つに分けてみよう。
すると、両方のヒントを合わせることで、謎の解答に到達可能な形が完成する。
あとはこのヒントをそれぞれ、ゲーム内の別の場所に隠し、プレイヤーに探索させれば出ゲームとなる。
もちろん、完成させるだけじゃなくヒットさせるためには、ストーリーやVRの演出、謎自体のクオリティが必要なことは言うまでもない。
しかし、「I Expect You To Die」のような成功事例が出現したことで、チャレンジする価値が出てきたといえるのではないだろうか?
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