VRを使ったトレーニングコンテンツは、企業の従業員が業務を覚えるために効果的だと言われており、ウォルマートのような大企業でも既に導入を進めている。小売店の従業員だけでなく、スポーツの審判や救急隊員、あるいは宇宙飛行士のトレーニングにもVRは活用されている。
業務用途だけでなく、日常生活でもVRを使ったトレーニングは不慣れなことを覚えるために活用できるかもしれない。Googleが行った実験によれば、動画マニュアルを使うよりもVRでのシミュレーションを行った方が少ない練習回数で効果的にエスプレッソマシンの使い方を覚えることができたようだ。将来は、電化製品に主な機能の使い方を学べるVRマニュアルが付属するかもしれない。
Fjordのデザイナーは、学習に利用できるVRの特性を活かして街中での車椅子の扱い方を学べるVRコンテンツを制作した。
車椅子が苦手な地形
車椅子に乗ったことがある、あるいは車椅子を押した経験がなければ、車椅子は自転車と同じように移動することができると思われるかもしれない。
しかし、実際に車椅子を扱うとかなり重く感じる。そうは言っても、車椅子本体の重量は15kg程度で一般的な自転車と変わらない程度だ。中には、10kg程度とさらに軽量なモデルもある。
問題になるのは、足ではなく腕で扱わなければならない点だ。
坂道
車椅子が苦手とする場所は多数あるが、最も想像しやすいのは上り坂ではないだろうか。
腕の力で操作する車椅子の場合、坂道を上るのは自転車の場合以上に骨が折れる。急な上り坂では手を離すと下がってしまうこともあるため、危険でもある。
自転車ならば楽な下り坂も、車椅子にとっては厄介だ。自転車のようなブレーキがないので、急な坂では加速しすぎないように腕の力で車輪を抑えながら下らなければならない。上り坂よりも、むしろ下り坂の方が恐ろしく感じるかもしれない。
段差
自転車と同じく、車椅子も階段は通れない。最近ではバリアフリーのためにスロープやエレベーターが設置された施設も増えてきたが、スロープが設置されないほどのちょっとした段差でも問題だ。
利用者の体重や筋力にも左右されるが、歩いていれば気づかずに跨いでしまうような段差でも一人では超えられない・超えるのが難しいことがある。
高品質な自転車では段差があってもサスペンションが衝撃を吸収してくれるが、車椅子で降りると大きな衝撃を受ける。
砂利道
悪路を走るのに向いていない自転車だと、砂利道は走りにくい。
車椅子は自転車以上にタイヤを取られてしまうので、玉砂利の敷かれた庭や神社の境内で立ち往生してしまう可能性もある。
横断歩道
一般的な車椅子は健康な成人が歩くスピードよりも遅いため、信号が青になっている時間が短い横断歩道は急いで渡らなければならないかもしれない。
曲がってくる自動車や、他の横断車にぶつからないように注意する必要もあるが、車椅子で急に方向転換するのは難しい。
初めての車椅子
普段何気なく過ごしている街の中には、坂道、段差、砂利道といった車椅子が苦手とする地形がたくさんある。また、視点が低くなることで立っているときに比べて視界も悪くなる。
初めて車椅子を使うことになったユーザが危険を避けて通るために、VRを使って事前にシミュレーションをする意味はあるだろう。
「ありがち」な障害を再現
このVRシミュレーションでは、実際に車椅子を使っているユーザへのインタビューやフォーラムで得た情報、アクセシブルデザインのための考え方に基いて車椅子を使うユーザが直面する可能性の高い障害が再現されている。
3Dで作られたバーチャルな都市の中で車椅子を使って移動する経験をすることで、実際の都市生活の中にある不便さや危険に気づき、避けることができるようになるだろう。
ハイエンドVRゲームのようにリアルなグラフィックスは無いが、道路を走る自動車や歩道を歩く歩行者、歩道に置かれたゴミ箱といった障害物も現実的に配置されている。
リアルな車椅子
単にVR映像をユーザに見せるだけであれば、車椅子に限らず様々な状況を体験してもらうことが可能だ。車の運転や飛行機の運転を試せるゲームも、人間ではない主人公の視点でプレイするゲームもある。
だが、開発者たちはこのアプリケーションがゲームのような体験になってしまうことを避けたいと考えた。
そこで作られたのがモーショントラッキングされた特別な車椅子である。この車椅子はランニングマシンのようなもので、その場に留まったまま本物の車椅子のように車輪を回転させることができる。
現実では移動しないが、車輪の動きによってVR空間では視点が移動する仕組みだ。
この方式を取り入れたことで、リアルに車椅子を操作する感覚でVR体験が可能となった。
VR体験によって初めて車椅子を使う日への備えができるとされているが、特に車椅子を使う予定のない人がその不便さを体験するために利用することもできるだろう。
バリアフリーの重要性を伝えるハンディキャップ体験授業への採用なども考えられるVRツールだ。
参照元サイト名:Fjord
URL:https://www.fjordnet.com/conversations/fjord-makeshop-combining-empathy-and-virtual-reality-for-wheelchair-users/
参照元サイト名:Quartz
URL:https://qz.com/1064968/designers-at-fjord-built-a-vr-system-that-teaches-first-time-wheelchair-users-how-to-navigate-city-environments/
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