海外メディアUploadVRは、Google VR&AR部門幹部のARに関する発言を報じた。
Googleが描くARとVRの世界
ARこそがメインストリーム?
2017年8月30日、本メディアではAppleのARKitに対抗してGoogleがモバイルARプラットフォームARCoreを発表したことを報じた。
今までのGoogleはGoogle Tangoがあるものも、どちらかと言えばGoogle Cardboard、Google Daydreamに代表されるようにVRに強い企業というイメージがあった。しかし、ARCoreを発表したことでAppleのARKitと直接対決するモバイルAR市場の雄となった感がある。
以上の報道に関連して同メディアは、先週行ったGoogle VR&AR部門のヴァイス・プレジデントであるClay Bavor氏へのインタビューの一部を報じた。報道された同氏の発言は以下の通り。
VR、AR、そしてMRといった専門用語や頭文字をめぐる論争を避けるために、私はそれらを没入的コンピューティング(immersive computing)と呼びたいのです。
没入的コンピューティングということで意味することは、ヒトの体験に対してシームレスにコンピュータで生成したイメージを統合することです。
そして、私たちが現在目指しているゴールは、開発者と消費者に対して、AndroidにおけるARをメインストリームにすることなのです。
VRかARかは「没入的コンピューティング」のさじ加減で決まる
実のところ、以上の発言に登場する「没入的コンピューティング」に関して、同氏は海外メディアRecodeが配信するポッドキャストのなかで以下のようにも発言している。
VRとARの違いとは、ある同一の範囲における違いなのです。私は、その範囲のことを「没入的コンピューティング(immersive computing)」と呼んでいます。
そもそも、VRとARのレッテル貼りには興味がありません。VRとARの違いはデジタル・イメージがユーザーに感じられる範囲の違いに過ぎないのです。
VRでは、ユーザーが体験する全てがコンピュータによって生成されます。対してARでは、ユーザーがいるリアルな環境にデジタル情報が部分的に付加されるのです。
以上の発言をわかりやすく表にすると、以下のようになるのではなかろうか。
体験名 | 使用デバイス | 没入的コンピューティング適用範囲 |
---|---|---|
VR | VRヘッドセット | 100% |
モバイルAR | スマホ | 0%~スマホ・ディスプレイがユーザーの視野を占める範囲 |
(ハイエンドAR)・MR | HoloLens、Meta 2、AppleGlass? | 0%~100%未満 |
没入的コンピューティングとは、ヒトの体験におけるコンピュータが生成した情報が占める割合と解釈できる。この解釈に立つと、ARとVRは没入的コンピューティングの連続量としての「濃度」の違いと理解できる。この理解は、Clay Bavor氏が言うところの「シームレスにコンピュータで生成したイメージ」という表現と一致する。
以上のパラダイムから見ると、VRは没入的コンピューティングの濃度が100%である特殊な体験となり、ARは没入的コンピューティングの濃度が100%未満の任意の値をとる体験と理解できる。このパラダイムでは、もはやVRとARの区別はさほど重要ではなく、むしろVRはARのサブクラスとさえ言える。
没入的コンピューティングというパラダイムをふまえたうえで、同氏が発言した「AndroidにおけるARをメインストリームにすること」を解釈すると、GoogleはARCoreを発表したことでVRに見切りをつけたわけではないと思うべきだろう。というのも、同氏がいう「AR」とは、もはやVRと対立するものではなくVRを内包した概念なのだ。
まとめると、「没入的コンピューティング」というビジョンを掲げるGoogleが目指しているのは、ARとVRの体験が可能な包括的なモバイルAR端末としてAndroidを世界に普及させたい、ということだろう。
Facebookが考える「ライトAR」と「フルAR」
既存のARとVRという概念を別のより包括的な枠組みで捉えようとする試みは、Googleに限ったことではない。
今年4月、Facebookの年次総会「F8」において、同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、「ライトAR」と「フルAR」という対概念を提唱した。
「ライトAR」とは、スマホを活用した現在体験可能なARのことを意味している。対して「フルAR」とは、HoloLensのような専用のARデバイスを活用した現在のAR体験よりリッチなそれを指している。
同氏によれば、フルARが普及するのは20〜30年後と予想される。フルARにおいては、ARデバイスを使って、現在のVRヘッドセットによるバーチャル体験がリアルな世界にいながら体験できるので、現在のVRとARの区別はもはや意味をなさなくなる、とのこと。
以上の対概念を理解すると、同社のAR戦略の一貫性が見えてくる。同社は、F8においてモバイルカメラを活用したAR開発プラットフォーム「Camera Effects Platform」を発表した。このプラットフォームは、同社の「ライトAR」戦略を担うものだ。
また、本メディア2017年8月19日付の記事では、同社がスマートグラスの特許を出願したことを報じた(下の画像参照)。この特許は、同社の「フルAR」実現への一手と見て間違いない。
以上のようなFacebookが提唱する「フルAR」と、Googleが掲げている「没入的コンピューティング」を比べると、両社とも既存のVRとARをより包括的に捉え、この両方の体験を可能とする単一のデバイスの開発こそがゴールであると考えている、と見なせるのではなかろうか。
少なくともVR・ARプラットフォーマーは、もはやVRとARの区別を有意味なものとは考えていないようだ。VR・ARに関わる開発者、市場関係者、そして消費者も、そろそろ自身の考え方に「パラダイム・シフト」を起こすべき時が迫っているのかも知れない。
Google VR&AR部門ヴァイス・プレジデントClay Bavor氏のARに関する発言を報じたUploadVRの記事
https://uploadvr.com/googles-clay-bavor-goal-make-ar-mainstream/
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