Oculus Riftを開発したOculus社の創設者、Palmer Luckey(パーマ・ラッキー)。
彼は2017年の3月にOculusを去ったが、VR業界を作り上げた第一人者として現在もその動向が注目されている人物だ。先日も、日本でVRハードウェアの将来について語っている。
そんなLuckeyが、Oculus Storeでしか販売されていないアプリをHTC Viveで動作させるためのハックアプリ『Revive』の開発者に資金を提供したという。
金額は最大でも2,000ドル(22万円)で、本格的な投資を行ったわけではない。しかし、彼のオープンVRに対する姿勢を示す行動には違いない。
Revive
Reviveは、当メディア内でも度々登場するハックツールだ。Oculus Riftでしか動作しない専用タイトルをHTC Viveで動かすためのアプリである。
コンテンツの独占
初期のVR業界では、VRヘッドセットを製造する各メーカーが自社のプラットフォームにユーザを囲い込むためにコンテンツを独占していた。
デベロッパーに資金を提供する見返りとして、自社プラットフォームでのみ開発したコンテンツを販売させるのがその主な方法だ。
デベロッパーにとっては開発資金を得られるというメリットがあるのだが、割りを食うのはユーザである。遊びたいVRゲームが持っていないデバイスにしか対応していなければ、諦めるかヘッドセットごと購入するしかない。
ゲーミングPCは使いまわすとしても、ハイエンドVRヘッドセットは高価なデバイスだ。Oculus RiftとTouchであれば600ドル(値下げ前ならば800ドル)である。
ハックツールの登場
HTC Viveは持っているけれどOculus Riftは持っていないというユーザのために開発されたのがReviveだ。2016年の4月に登場したこのツールを使えば、Rift専用のゲームをViveで遊ぶことができる。
もちろん非公式なツールなので全てのアプリが快適に動作するわけではないが、ゲームによってはクロスプラットフォーム対応作品のようにプレイすることもできるほどだった。
Oculusによる対策
当初、OculusはこのReviveに対して「いずれ対策される」との声明を出していた。
実際にReviveを使ってOculus Rift用のアプリを起動できなくする対策が行われたが、これは後に撤回されている。
これはOculusがオープンプラットフォームに賛同していることを示した動きだと思われる。
現在では、OculusのエンジニアがReviveを使ってOculus用のアプリケーションを動作させるときの互換性を高めるために努力しているという。
Patreonでの募集
芸術はお金がかかる
パトロンとは、後援者のことだ。個人や団体に対する援助(特に金銭的援助)を行う存在がパトロンと言えるだろう。
中世の芸術家や錬金術師などは、貴族の援助を受けて芸術や研究に打ち込んでいた。だが、現代のアーティストが生活全ての面倒を見てくれるようなパトロンを見つけるのは難しい。
芸術的な活動を続けるには、作品の売上で食べていけるだけの人気を得るか、他の手段で生活費を稼ぎながら趣味として活動することになるだろう。
パトロンを探すサイト
Patreonは、クラウドファンディングのような形でパトロンを探す・パトロンになることのできるサービスだ。
アーティストやクリエイター(いわゆる芸術家はもちろん、ゲーム実況者などもいるようだ)はサイトに登録し、資金を提供してくれる援助者を募集することができる。
支援する側は、好きなアーティストを少額から支援できる。また、登録者側が定めた一定以上の金額を提供すればクラウドファンディングのように何らかの特典が用意されていることもある。
特典には、本人も書き込む支援者コミュニティへの参加権や開発中のゲームへのテスト参加などがある。
一見すると安い金額で特典を得られるように見えるが、支援は毎月継続される。10ドルならば、支援を取りやめるまでは毎月10ドルを支払うことになるのだ。
この点がクラウドファンディングとの大きな違いである。
Reviveへの支援
Reviveの開発者は、Reviveを開発して報酬を得ているわけではない。彼はこれまでフルタイムの仕事をする傍らでReviveの開発を続けていたが、現在は仕事を辞めて大学に通っているという。
Reviveの開発には時間がかかるだけでなく、多くの資金も必要だ。各ゲームで最適な動作に調整するために、これまでにOculus Storeで500ドル以上をつぎ込んでテスト用のゲームを購入しているという。
資金が集まれば彼は毎月登場する新しいゲームをさらにたくさん購入し、Reviveをそのタイトルに対応させることが可能になる。さらに、開発に使用しているうちにボロボロになってしまったOculus Rift DK2をOculus Rift CV1に買い換えることもできる。
Khronosグループへの参加
Patreonでは、クラウドファンディングにおけるストレッチゴールのような形で複数のゴールを設定することができる。
Blokが元々設定したゴールは4つだった。その最後の目標金額は月額1,500ドルで、この目標が達成されればBlokが3,500ドルを提供し、Khronosグループにアソシエイトメンバーとして参加するとされていた。
現在はその目標が達成されているので、OpenVR標準を作るための会議に彼も参加することになる。
オープンプラットフォームなVRを考える上で、Oculus RiftとHTC Viveの壁を壊したReviveの開発者が参加することには意味があるだろう。
支援者への特典
Reviveは無料のアプリなので、支援をしたからといってクラウドファンディングキャンペーンのように製品がもらえるわけではない。
代わりに、1ドル以上の支援で毎月の開発報告が読めるようになる。5ドルならばテキストチャット、10ドルならば音声チャットへの参加も可能だ。
25ドルならば以上の報酬に加えて「Jules Blokがあなたの開発しているクールなゲームを試してくれる」という。
Reviveのテストで多くのゲームに触れている人物のレビューは、開発の参考になるかもしれない。デベロッパー向けの特典である。
もっとも、まだこの特典を申し込んだパトロンはいないようだ。
Luckeyの支援
Jules Blokへの支援額は現在2,004ドル(毎月)となっている。支援を行っているパトロンは63人で、この中にLuckeyがいるようだ。
Luckey個人からの支援額は不明だが、2,000ドルの大部分が彼によるものらしい。
上述の通り、Patreonのシステムでは毎月継続して援助を行うことになる。パトロン限定のチャットコミュニティにLuckeyが登場するとは考えにくいが、彼は今後も継続してReviveを支援していくのだろうか?
購入した製品をどのように使うかは購入者の自由と言いたいところだが、デジタルデバイスの世界ではなかなかそうもいかない。
メインとなるハードウェアを安価に販売して、関連アクセサリやコンテンツを販売する自社のエコシステムに取り込むような手法は一般的に利用されている。
自社の売上だけを考えるならユーザがライバル企業の製品を利用するのは損でしかないので、囲い込みは理にかなった戦略と言えるだろう。
しかし、VR業界ではコンテンツの独占が問題視されており、オープンプラットフォーム化が進められている。
Luckeyは以前からオープンプラットフォームに賛同しているので、Reviveの開発を支援したとしても驚くには値しない。現在はOculusとの繋がりもなくなっているため、彼個人の意向として支援を決めたのだろう。
最近はLuckeyがTwitterを更新することも増えているが、この件については何のツイートもなされていない。
Upload VRは、この件についてLuckeyに確認を取っているという。本人から何らかのコメントが発表されるかもしれない。
参照元サイト名:Patreon
URL:https://www.patreon.com/crossvr
URL:https://www.patreon.com/posts/thanks-palmer-2-12239793(Luckeyに感謝を示す投稿)
参照元サイト名:Upload VR
URL:https://uploadvr.com/oculus-rift-inventor-palmer-luckey-pledges-2k-revive-hack/
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