さまざまな技術が生み出され、大きく文明が発展した現在においても、社会に問題は溢れている。
生活に密着した身近な問題としては、保育園の待機児童や高齢化。
地域や国家といった大規模な問題としては、震災や戦争など、解決しなければならない問題は多い。
そんな中、VRを使ってこうした社会問題の共有を進めようとする動きがある。
この記事ではそうした、VRを使った社会問題共有について事例をお伝えしたい。
なぜ社会問題をVRで伝えるのか?
現在、社会問題の伝達に用いられる媒体には、テレビや映画のドキュメンタリー、書籍といったものがある。
そうした既存の媒体とVRとの差は、「自分事として感じさせる力の差」といえるだろう。
純粋に媒体だけ比較した場合、当然ながら、VRの方が「自分事として感じさせる力」は強い。
このため、VRを用いて社会問題を伝えることで、より「解決しなければならない問題」として強く実感してもらい、強く関心を持ってもらうことができるというわけだ。
社会問題への関心をゲームで高める試み「シリアスゲーム」
実は、VRが技術が普及する前から、社会問題への関心を高めるためにゲームの仕組みを用いるという試みが存在している。
「シリアスゲーム」と呼ばれるものだ。
「ゲーム」という媒体は体験者に強く感情移入させる力を持っているため、これを社会問題への関心増強のために活用しようという意図で作られている。
ただ、「ゲーム」が起源となっているため、ただただ社会問題を伝達するだけに留まっておらず、エンターテイメント性も持っている。
たとえば、11 bit studiosによる「This War of Mine」(上記動画)などは「シリアスゲーム」のひとつ。
「This War of Mine」は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を舞台としており、主人公たちは戦時下におかれた一般市民。
目的は、生き残ること。
一般的に戦争を舞台にしたゲームでは、プレイヤーは兵士や司令官といった人間を操作するが、「This War of Mine」では強力な武器も持たず、ごく普通の体力と精神力をもった一般市民…つまり、我々と同じ立場の人間たちが主人公。
体力や精神力の消耗を極力抑え、病気にならないよう気をつけながら終戦まで毎日を凌ごうとするプレイ体験は、プレイヤーの心に陰鬱な影を落とし、一般のゲームではなかなか描かれない、戦争のもうひとつの側面を見せてくれる。
田代まさし氏の薬物依存治療の一日に迫ったVR「A Day of薬物依存症 田代さんの一日」
田代まさしさんと薬物依存症リハビリ施設の1日を360度動画で体感!赤裸々な声に耳を澄まして下さい。「この世界には、色んな人が生きている」。その多様な
一日をVRで体感するシリーズ「A day of」第2回ですhttps://t.co/voOnE5xyzO #VR#田代まさし— NHKハートネット (@nhk_heart) 2017年5月28日
ここからは、社会問題の伝達を目的としたVRコンテンツについて具体的な事例を見ていこう。
まずは、NHKが「NHK VR」で公開したVR動画「A Day of薬物依存症 田代さんの一日」。
「志村けんのだいじょうぶだぁ」や「志村けんのバカ殿様」といったテレビ番組をはじめ、さまざまなバラエティ番組、CMなどで大活躍していたものの、度重なる覚せい剤使用によって繰り返し逮捕されることとなったタレントの田代まさし氏。
現在、40代前後の世代は小学生のころ、お笑いタレントとしてブレイクしていたころから田代まさし氏を知っているため、氏の経緯には大きな衝撃を受けたのではないだろうか。
田代まさし氏は現在、薬物依存症からの回復と社会復帰支援を目的とした回復支援施設「ダルク(DARC)」のスタッフとして勤務している。
VR動画では田代まさし氏が出演、施設で行われている回復プログラムについて紹介。
VRなので、ぐるりと施設内の状況を見回すことができ、施設や回復プログラムの雰囲気をリアルに実感することができる。
震災1カ月後の被災地の状況を360°展示「南浜つなぐ館」
2012年3月11日の震災は、多くの人たちの心に強い衝撃を残した。
しかし、どんな衝撃も時間が経過すれば、過去の記録になってしまい、衝撃は薄れてしまう。
もちろん、震災に直撃し、心に深い傷を負ってしまった方たちにとっては、そうした記憶の風化が癒しに繋がる。あえて、衝撃を蘇られる必要もないだろう。
一方で、これから先の未来、同様の災害にみまわれた時、被害を抑えるためには、当時の衝撃を残す必要がある。
「南浜つなぐ館」では、ARを使って当時の津波の状況を伝えるアプリも公開。
積極的に未来への伝達を行っている。
シリア内戦の状況を伝える「Nobel’s Nightmare」
「SMART News Agency」という通信社が制作したVRコンテンツ「Nobel’s Nightmare」は、シリア内戦の状況を伝達するVR動画。
Youtubeで閲覧することが可能だ。
動画内では、シリアの崩壊した建物の状況や、逃げ惑う人々の姿が描かれている。
もちろん、すべて実際に取られた実写映像だ。
長らく日本は戦争とは無縁の状況に置かれていたものの、現在は「もしかすると戦争になってしまうんじゃないか…」という不安が増大している。
そんな今だからこそ、内戦が起きているところはどんな状況なのか、知っておいた方がいいだろう。
当事者と思うからこそ解決への一歩を踏み出せる
実際のところ、多くの人にとってどこかで起きている社会問題より、今目の前にある日常の問題の方が関心が大きいはずだ。
これは当然のことで、どんなに社会問題への関心を高めたところで、一人の人間が解決することはできない。
しかしその一方で、人間が社会というものの中で生きている以上、あらゆる問題は間接的に繋がっている。
その意味で、さまざまな社会問題へ関心を寄せておくことは決して無駄ではない。
また、さまざまな問題を「自分事」として、「当事者」としてとらえることで、「解決策のタネ」となる「自分でできる何か」を思いつく可能性は増える。
「解決策のタネ」は小さいかもしれないが、小さな「タネ」が集まって「解決策」を生み出す。
そういった意味で、社会問題を扱ったVR動画は、重要な価値を持っている。
もしよかったら、この記事で紹介したVRコンテンツを、是非一度体験してみてほしい。
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