
日本製鉄による米鉄鋼大手・USスチール買収を巡り、トランプ米大統領が初めて「黄金株」に言及した。真意は不明だが「米国が51%を保有する」という。完全子会社化が実現しなければ日鉄が計画を取り下げる可能性もあり、交渉の行方は予断を許さない。
経営上の重要事項に強い拒否権を持つ「黄金株」。これを米政府が保有する案は5月下旬に浮上していたが、トランプ氏が明言したことで現実味が増した形だ。ただし日鉄が求める完全子会社化の是非について直接の言及はなく、買収枠組みの詳細はなお見えない。日鉄側は「コメントを控える」としている。
日鉄が完全子会社化にこだわるのは、部分出資にとどまればUSスチールに供与する「虎の子」の技術が外部流出しかねないためだ。米政権から承認を得るべく、交渉では当初14億ドルを計画していた設備投資を10倍の140億ドルに引き上げるなど譲歩を重ねてきた。
日鉄にとって、高水準の高級鋼需要が期待できる米国は今後の成長に不可欠な市場だ。USスチールを完全子会社化したうえで収益力を抜本的に強化し、巨額投資に見合うリターンを得る戦略を描いている。
だが、仮に米政府が文字通り株式を51%保有することとなった場合は、経営の自由度が下がるうえに技術流出の懸念も生じうる。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「トランプ氏がUSスチールへの過半出資を認めない事態となれば、日鉄の投資リスクは非常に大きくなる」と指摘し、日鉄が5億6500万ドル(約800億円)の違約金を支払ってでも計画を撤回する可能性が高いとみる。
異例の展開をたどってきたUSスチール買収計画。バイデン前大統領が買収中止命令を出し、日鉄に買収破棄証明書を提出するよう求めた期限は18日に迫っている。それまでにトランプ氏が買収中止命令そのものを破棄するなど最終判断を示すとみられるが、条件次第では日鉄は厳しい選択を迫られることになりそうだ。【成澤隼人】