ポーラが2023年8月に発売した「B.A 3D コンシーラー」。SNSを駆使したマーケティング戦略が功を奏し、売上計画比185%という数字を記録。2023年下期のポーラ全新製品の中で最高の売上を記録しました。キャンペーンに著名人をあまり起用してこなかった同社が今回起用したのは、元宝塚歌劇団のスター。宝塚ファンをターゲットに絞るという大胆なSNS戦略はどのような狙いから生まれ、どのように遂行されたのか。ポーラ 顧客戦略部の山﨑あかね氏と、オプトプランニング 統括室の中村駿介氏に話を聞きました。
低価格帯化粧品が注目される中、高価格帯ブランドのファンを増やすには
――高価格帯化粧品ブランドの市場動向を教えてください。
山﨑:アフターコロナへの転換に伴って化粧品市場が拡大したことにより、化粧品に求める機能や価値、価格帯は多様化していると感じます。高価格帯品の動向をみると、最近は「美容成分を含んだベースメーク品」が増えています。若い世代のお客様が高価格帯の化粧品を初めて買うときもベースメーク品なら1万円ほどで試せるので、こうした商品群を入り口として新しいお客様と接点をつくれるブランドは強いですね。
――「B.A 3D コンシーラー」発売前の課題や狙いを教えてください。
山﨑:高価格帯ブランド「B.A」の主なお客様は、既存のポーラ製品のファンが多くを占めています。そのため、ファンを引き続き大切にしながら、新しいお客様にどのように興味を持ってもらうかが課題でした。税込6930円という価格も新しいファンを意識しての設定です。弊社はこれまで、スキンケア品のプロモーションを必ず実施していましたが、ベースメーク品にはあまり注力してきませんでした。オプトには2023年の春にプロモーションをお願いして以来、そこからベースメーク品のプロモーションの型をつくりたいという狙いもあったことから、2023年8月発売の「B.A 3D コンシーラー」でも引き続きプロモーションをお願いすることにしました。
――オプトはどのようなプロモーションを実施したのでしょうか?
中村:SNSをどう効果的に使うか、という観点で企画を考案しました。その際、私たちが注目したのは「宝塚ファン」の存在です。宝塚ファンの方々はいわゆる「推し」に対する熱量が高く、「推しが使っているメーク用品なら自分も使ってみたい」という購買に対する前向きな姿勢を持っています。自分の趣味には惜しみなく投資するので、その熱量を「B.A 3D コンシーラー」の素晴らしさにどう向けさせるか、ということを意識しました。
コンシーラーの特徴を訴求する「目元当てクイズ」から
――宝塚ファンに狙いを定める企画を山﨑さんはどう思いましたか?
山﨑:ポーラは近年、著名人をPRに起用しておらず、私が宝塚にあまり詳しくなかったことから多少の不安はありました。しかし、社内の宝塚好きの社員に意見を求めたら反応が良かったのです。こうした社員のレコメンドもあり、元宝塚歌劇団の美弥るりかさんを起用したキャンペーンを実施することにしました。オプトに企画を依頼して良かったのは、宝塚ファンと美容の親和性を丁寧に分析し、キャンペーンの波及効果を重視する視点も持っていたことです。

――そこから、具体的にどのような施策を実行したのでしょうか?
中村:まずはティザーとして美弥さんの目元だけを公開して、この人は誰なのかを憶測するキャンペーンを実施しました。ファンの方が「これって○○さんじゃない?」とSNS上で議論することを狙いました。SNSで盛り上がりの火種を生み、製品の販売のタイミングで美弥さんの名前を発表して最初の山場をつくるという二段構えの戦略を取りました。
次は商品購入につながるきっかけとして、1500名の方を対象にサンプルプレゼントを実施しました。Xのポーラ公式アカウントをフォローし、該当の投稿をリポストした方に抽選でサンプルを配布してリーチの拡大を図りました。
山﨑:「B.A 3D コンシーラー」は目元に悩みがある人をターゲットにした商品です。そのため、目元の写真を出すことでクイズの予想で盛り上がるし、商品自体も訴求できたと考えます。発売後のサンプルプレゼントでは、端的に商品の特徴が伝わる「#大人の光カバー体験キャンペーン」というハッシュタグを用意。話題性が高まり、広く拡散されました。
中村:さらにその後、美弥さんのインタビュー記事を公開しました。広告的にみせるのではなく、美弥さんのオフの素顔が垣間見えるような内容にしました。商品の感想やアイメークのこだわりやコツを聞き、オフショットも投稿しました。ラストの施策として一般の方からモニターを募集して実際の商品を使ってもらい、使用感や感想を発信してもらいました。美弥さんに加えて一般消費者の方が情報発信をすることで、商品の信頼感や安心感を届けられるようにしました。
宝塚と高価格帯コスメの親和性
――「B.A 3D コンシーラー」は売上計画比185%を記録したとのことですが、担当者としての実感を教えてください。
山﨑:私の肌感覚として、めちゃくちゃ売れてるなという実感がありました。発売初日にECで欠品になったのですが、これまでベースメーク品で発売当日に欠品が出たことはありませんでした。その時点で社内がざわつきましたね。8月の発売から12月まで在庫が安定せず、ある店舗に入荷したらすぐに売れてしまうという状況が続きました。売上計画比の185%という記録に加えて、2023年の下期に発売された全新製品の中でもっともも売れたのが「B.A 3D コンシーラー」となりました。ただ、冒頭で話した通り、現在は低価格帯の化粧品でも良いものはたくさんあります。約7000円の「B.A 3D コンシーラー」がここまで爆発的にヒットすることは社内でも想像していませんでした。
――今回のキャンペーンの成功は何が要因だと考えますか?
中村:ターゲットの選定が奏功したことです。宝塚ファンの皆様が持つ熱量を、上手くキャンペーンの盛り上がりに転化できたと考えています。「B.A 3D コンシーラー」という商品とターゲット層がマッチングしたことが成功要因だと思います。
山﨑:宝塚ファンの方は普段から観劇に出かけ、推しに会えるイベントがあれば洋服を新調したり、メークアップしたりと自分への投資を惜しみません。そういった消費を楽しむ方にターゲットを絞った点が大きいと考えています。

中村:もう1つは、ポーラさんがオプトの企画にGOサインを出してくださったことも大きいです。近年は著名人をあまり起用してこなかったにも関わらず、元宝塚の美弥るりかさんを起用するアイデアを受け入れたのは、大きな決断だったはずです。
いかにして「攻めの案」に再現性を持たせるか
――今後、オプトに期待することを教えてください。
山﨑:オプトさんと仕事をして面白いと感じるのは、こちらからの依頼に対して「守りの案」と「攻めの案」を出してもらえることです。今回はまさに攻めの案を選んだわけですが、私はいろいろなアイデアを毎回楽しみにしています。もちろんそのときの状況によって攻めの案を選べないこともありますが、私にとって新しい視点を得る学びにもなっています。ぜひこれからも攻めた案をいただければと思います。複数のアイデアを出し続けると似たり寄ったりになりがちですが、そんな中でもオプトさんのように攻めの要素を取り込み続ける姿勢はとても心強く感じます。
――これからの2社の取り組みについて、今後の展望を教えてください。
中村:オプトとしては単に「攻めたアイデア」を出すのではなくて、いかにしてそこに再現性を持たせるかを研究しています。SNS上でキャンペーンを実施するときは、ユーザーが「どのようなモードにいるのか?」を捉えられるかでキャンペーンの成否が分かれます。同じ人でも時間によってSNSを見ているときのモードは変わります。何となく見ているときもあれば、情報収集のために見ているときもあるし、自分から何か情報やコメントを発信したいというモチベーションで見ているときもあります。今回のキャンペーンではユーザーが広告を見たときに、どのようなモードであれば反応するのかを強く意識しました。
ユーザーのモードを捉えることは難しいですが、そこに無意識では広告をせっかく見てもらってもモチベーションと噛み合わずにスルーされる可能性が高くなります。SNS利用時のユーザーのモードを捉えて、再現性のあるキャンペーンを実施していく。これが当面の目標です。
