仕事とは顧客はもとより、取引先や同僚などのさまざまな関係の中で成り立っているのは言うまでもありません。オムニチャネルの推進も同様です。オムニチャネルを取り巻く全ての人のメリットや要望を考慮することが必要不可欠です。しかし多くの企業が部署や担当者間の「対立」に悩まされています。オムニチャネル戦略を加速させるには、こうした対立の解消に目を向けることが何より求められます。そこで今回は、社内外を巻き込んだ関係構築の重要性について考察します。【連載第3回:オムニチャネル~ビジネスを共創する時代の基本思考】
本社と現場の対立は“良かれの思い込み”から
オムニチャネルは顧客の利便性を追求するだけでなく、働く人の利便性や作業効率の改善にも目を向けなければなりません。オムニチャネルを推進する施策がどれだけ有効であっても、現場の業務負担を軽減しなければ施策を加速させられません。本社が立案した施策が現場でうまくいっていない場合、現場の業務量を十分考慮した施策になっていないことが主な原因として考えられます。
店舗には本社から「要返答」の連絡が1日に何件も届くことが珍しくありません。その日のタスクがバックヤードの壁に貼られている店舗も多々あります。連絡するのは本部のキャンペーン担当や商品担当、エリアのスーパーバイザーなどで、数十人が個別に店舗へ連絡することも少なくないのです。これに対し、店舗で連絡を受け取って対応するのは店長か副店長の1〜2名です。さらに、店長や副店長には「売場にもっと出るように」という指示が出されています。現場では何を優先すべきか分からなくなり、お客様への対応が後回しになってしまうこともあります。顧客起点と頭ごなしに言い続けるのではなく、従業員起点や現場起点を含めて考えることが欠かせないのです。 本社も現場も、顧客起点に基づく施策を推進したいと考えています。しかしその施策を現場が履行できないのは、方法や手段に問題があるのです。現場でも進めやすい方法や手段なら、施策を円滑に実施できるようになります。「現場はいつまでも動かない」という本社、「本社は無理ばかり言ってくる」という現場、この双方が対立する構図も解消できるようになります。こうした対立を可視化し、解決することもオムニチャネルを推進するためには重要なのです。
取引先は仲間になっていますか?
本社と現場の対立を解消するだけでなく、オムニチャネル推進を支える全ての人の利便性や作業効率を改善させることも重要です。近年の業務は一般的に、社内のスタッフだけで完結しなくなりつつあります。社外のさまざまな人を巻き込んで業務を進めるのが常態化しています。例えばデータを分析する専門会社の担当者が自社のオフィスに常駐したり、新製品の情報をメーカーや卸売事業者の担当者が共有したりしています。システムや機器の保守を外部に委託するケースも少なくありません。専門分野に精通する社外の取引先がいることで事業は成り立っているのです。
社内や社外に関係なく、業務に携わる人を仲間と考え、目的や目標を共有してWin-Winの関係を築くことが重要です。立場によって利害関係は異なるでしょう。業務を委託する側、受託する側といった上下関係があるかもしれません。しかし立場は違えども、事業の成功を目指している点に変わりはありません。対等な立場の仲間による体制を構築することが、施策や業務の推進を加速させるのです。
ちなみに、サプライチェーンも同じです。サプライチェーンを構築する各社が親密な関係を築くことで、物流を効率化できるようになります。サプライチェーン全体の在庫の回転率や生産量の最適化などによって関係各社へのメリットも見込めるようになります。こうした良好な関係が、顧客へのサービス向上をもたらすのです。社内だけでなく社外の人たちとも対等に業務に向き合うことが、結果的にオムニチャネル戦略を後押しするのです。オムニチャネル戦略の成功は売上や利益を最大化し、ひいては従業員体験の向上にもつながるのです。
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逸見光次郎
CaTラボ 代表取締役
日本オムニチャネル協会 理事
1994年に三省堂書店に入社し、神田本店や成田空港店などで勤務。1999年にソフトバンクに移り、イーショッピングブックスの立ち上げ(現:セブンネットショッピング)。2006年にはアマゾンジャパンに入社し、ブックスのマーチャンダイザーを務める。2007年にイオンに入社し、ネットスーパー事業の立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略担当となる。2011年、キタムラに入社し、執行役員EC事業部長を経て、2017年にオムニチャネルコンサルタントとして独立。現在はプリズマティクスアドバイザーやデジタルシフトウェーブのスペシャリストパートナーなどを務める。