日曜朝の朝日放送(テレビ朝日)系、いわゆる「ニチアサ」と呼ばれる時間帯で放送中の「プリキュア」シリーズ。もうすぐ20周年を迎えようとしている長寿アニメシリーズです。その資料を集めている方が自室の様子をTwitterに投稿し、収集されたグッズの圧倒的な充実ぶりが話題となっています。
2004年2月放送開始の第1作「ふたりはプリキュア」から始まった「プリキュア」シリーズ。その人気は想定視聴者としていた小さい女の子だけでなく大人にも広がり、さらには「プリキュアを演じること」が女性声優の目標となるまでになりました。
その映像ソフトや音楽作品、さまざまなムックやコミックスなど、コツコツ丹念に集め続けてきたのは祥太さん。熱心なファン活動ぶりは制作陣の耳にも入り、CD-BOXの選曲やアニメーター原画集の編集補佐まで務めています。
シリーズの「開始当初から全力で“大きなお友達”だったが故に集積できた膨大なコレクション」、という言葉とともにTwitterに投稿されたのは、部屋の壁を覆いつくさんとするプリキュア関連資料の画像。画像ソフトや関連CD、コミックスに参加アニメーターの資料集まで、圧倒的な量です。(大きなお友達=子ども向け作品における大人ファンの別称)
■ コレクションの始まり、そして情熱のみなもと
すべての始まりとなったのは、第1作「ふたりはプリキュア」のファンになったこと。その魅力について、祥太さんは次のように語ってくれました。
「どこにでもいる中学生の女の子達の青春、『ふたりはプリキュア』でいえば、なぎさとほのかという対照的な2人の主人公の関係性を丁寧に描いているところが好きです。その中でバトル要素という非日常的なアクションパートがスパイスとして効いているのがプリキュアシリーズの魅力です」
一見、これまでこの枠で放送されてきた「おジャ魔女どれみ」シリーズや「明日のナージャ」から作風が一変したように感じる「プリキュア」。しかし祥太さんは、キャラクターの「等身大の日常を描く」という点において、伝統はきっちり継承されているのだと指摘します。
また、五條真由美さんの歌う主題歌や、佐藤直紀さんによる劇伴音楽も魅力的だった、とのこと。このほかにも「字幕テロップに2004年当時少しずつ姿を消しつつあった、写研書体が使われているのにも個人的な興味をくすぐられました」と、同人誌を作るほどのフォント(書体)マニアでもある一面も垣間見せてくれました。
こうして「最初は月並みにDVDと音楽CDを集めていました」と、コレクションが始まります。そのうちファンブックや設定資料集といった書籍も充実しはじめ「いつの間にかこんなことになっちゃいました」とのこと。
ここ10年くらいでは「プリキュア」シリーズ作品がアニメ誌の表紙を飾るようにもなり、そちらもコレクションの対象に。上北ふたごさんによるコミック版も全シリーズ分がリリースされるようになり、年々本棚もプリキュア色が強くなっているのだとか。
これほど熱心にコレクションするようになった背景には、かつて「セーラームーン」シリーズ放送時に小中学生だったこともあり、思うようにグッズ収集ができなかったことが心残りになっているのが大きい、と祥太さん。しかし、コレクションの理由は自分だけのためではないそうです。
「時は流れてプリキュアでまさに私と同じ思いをして育ってきたリアルタイム世代に向けて、当時どのようなアイテムが発売されていたのかといった情報を整理して提供する活動もしています」
大人になり、金銭的な余裕ができたことで、かつての自分のような思いをしている小中学生ファンの分も収集しておくというのは、同じ「プリキュア」ファンとしての使命感にも似たものなのかもしれませんね。
■ Blu-ray170枚にDVDが408枚・CDが360枚に書籍が計160冊
現在までに収集されたグッズは、Blu-rayが170枚にDVDが408枚、そしてCDが360枚。これに加えて冊子が40冊、大判書籍が60冊、コミックスが60冊あるとのこと。「玩具やフィギュアなどの立体物は実家に送ったり、人に譲ったりしているので、現状なんとか1部屋に収まっています」と話してくれました。
これまで17代、19作品を数える「プリキュア」。最初は2人の“バディもの”でしたが、代を経るにつれ人数が増えたり、最初敵方だったキャラクターがプリキュアとして覚醒したりと、より多彩なプリキュアが誕生してきました。祥太さんにとって印象深いのは2010年放送の「ハートキャッチプリキュア!」だといいます。
「就活中で、人生で一番どん底まで悩み苦しんだ時期だったこともあり、それまでお話として楽しんできたプリキュアに物語を通じて大いに勇気づけられました。作中で何度も大きな苦難や悲劇に見舞われても何度も美しく立ち上がるキュアムーンライト/月影ゆりというキャラに励まされました」
ちょうどこの頃、SNSを通じてファン同士で交流する機会が増え、その縁は現在まで続いているのだそう。劇中で描かれるキャラクター同士の絆と同じように、祥太さん自身もファン同士の絆を実感したようです。
祥太さんのファン活動は制作陣のもとへも届き、「プリキュア」関連タイトルの制作にも携わるように。それが、ご自身のコレクションでも「特別」と語る、10周年と15周年の節目で発売されたCD-BOX「プリキュアボーカルベストBOX」と、「ハートキャッチプリキュア!」でキャラクターデザインを手がけた馬越嘉彦さんの原画集です。
「CD-BOXは私自身が一ファンとして、選曲協力という形で初収録BGM(放送当時のサントラに収録されなかったレア音源やバージョン違い)の選曲という形でお手伝いさせていただきました。原画集では編集作業補佐という形で、原画が使用された話数やカットなどを特定する作業のお手伝いをさせていただきました。ファンとして、少しだけ恩返しができたような気がします」
■ 「プリキュア」シリーズの魅力
シリーズの魅力を、祥太さんは「とにかく作品自体がキラキラしていて楽しいので、見ているだけで元気になってくるというのが大きいです。疲れている大人達にこそ、日曜日の朝はプリキュアを見て癒やされてほしいと思います」と語ります。
そして、シリーズをずっと見ていくことによって、徐々に感じるようになったこともあるのだとか。
「東映アニメーションという業界最大手の老舗スタジオにおいて、プリキュアという基本的なフォーマットの中で毎年毎年それぞれの作り手がそれぞれに個性的な作品を送り出してくる。矛盾しているようですが、本当の『プリキュアらしさ』とは『プリキュアらしくなさ』の中にこそ存在する、言い換えればあらゆる既存の制約を壊して自由に大暴れするありさまこそがプリキュアの神髄なのだと思います」
第1作「ふたりはプリキュア」のキャッチコピーは「女の子だって暴れたい」でした。その言葉通り、ともすればシリーズとしての「プリキュアらしさ」という枠をはめそうになるのを、軽々と打ちこわしていく女の子達の物語が「プリキュア」の本質なのかもしれませんね。
ご自身の収集活動には、1960年前後生まれを中心とした「おたく第1世代」の影響も大きいのだそう。幼かった1980年代、「ウルトラマン」にハマっていく過程で、さまざまな体系的な知識や楽しみ方を「おたく第1世代」の人々の背中を見ながら育ったといいます。
「彼らが私達にしてくれたように、私も『今現在、大人になっているからこそ残せる知識や資料』を、後の世代に様々な形で少しでも伝えていけたらいいなと思っています」
目下、祥太さんのお気に入りは、現在放送中の「デリシャスパーティ プリキュア」。最終回に向かってさまざまな謎や伏線が明らかになっている、という本筋はもちろん、個人的にはヒロインの和実ゆい(キュアプレシャス)に密かに思いを寄せている、品田拓海の恋の行方も気になるのだとか。
例年では、そろそろ次の作品についての発表が行われる「プリキュア」シリーズ。これからも、見守る祥太さんのコレクションは増える一方のようです。
<記事化協力>
祥太さん(@shota_)
(咲村珠樹)