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認知能力が低い人ほどネットで政治意見を頻繁に述べる――大きい声の出所に迫る発見


ネット上で政治について積極的に発言するのは、どんな人たちなのでしょう?

私たちはつい「政治に詳しくて頭のいい人」が多く発信しているのだろうと思いがちです。

しかしシンガポールの南洋理工大学(NTU)で行われた研究によって、ネット上で政治的な意見を積極的に発信する人々には、認知能力が低い人が多く、衝動的で他人への配慮が少ないサイコパシー傾向、自己中心的で注目を集めたがるナルシシズム傾向、さらに「自分だけ話題に取り残されるのではないか」と不安を感じる(FoMO)傾向があることが明らかになりました。

今回の研究はデジタル時代の民主主義において「大きな声」が生まれる過程に重要な示唆を与えています。

なぜ認知能力の低さや暗い性格特性が、ネットでの積極的な政治発言につながっているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月19日に『Humanities and Social Sciences Communications』にて発表されました。

目次

  • 誰がいちばんネットで声を上げる?
  • 認知機能の低さとネット上での政治的活発さ
  • デジタル民主主義の危機

誰がいちばんネットで声を上げる?

誰がいちばんネットで声を上げる?
誰がいちばんネットで声を上げる? / Credit:Canva

政治に関わる人々には、熱心に参加する人もいれば、あまり興味を持たない人もいます。

なぜ人によってこんなに差があるのかを調べる研究は、これまでもたくさん行われてきました。

その結果、積み重ねられた研究結果は「性格」が政治参加に影響することが分かっています。

特に有名なのが「ビッグファイブ」と呼ばれる、性格を5つの要素で分類する考え方です。

これは、「外向性」(人と関わるのが好き)、「誠実性」(真面目で責任感が強い)などの性格を評価する方法です。

例えば、外向性が高い人は、人と交流することが得意なので、政治的な話題にも積極的に参加しやすい、といった具合です。

一方、近年では、人の性格には必ずしも良い面ばかりではなく、少し問題のあるような性格も存在すると考えられています。

その代表例として注目されているのが、「ダークパーソナリティ」と呼ばれる性格タイプでここには「サイコパシー(反社会的・衝動的な性格傾向)」や「ナルシシズム自己愛的傾向)」など人間の暗い側面が含まれています

最近の研究では、これらの「ダークな」性格傾向を持つ人は、政治活動を通じて、自分の力や存在感をアピールする傾向が強いことが指摘されています。

ただ、これまで行われてきた多くの研究は、実際に街頭や会議など「現実の場」で行われる政治活動を調べたものばかりでした。

また、研究が行われた国や地域も限られていました。

そのため、「ダークパーソナリティ」の人が、実際にオンラインの環境でも同じように行動するのかどうかは、よく分かっていませんでした。

しかし、今の時代は、スマートフォンやSNS(ソーシャルメディア)が普及したことで、誰でも気軽にネット上で政治的な意見を発信できるようになっています。

特にTwitterやFacebook、InstagramといったSNSは、いつでもどこでも簡単に情報を発信できるため、多くの人が気軽に政治的な話題に参加しています。

ネット上の議論では、怒りや感情的な意見ほど注目を集め、拡散されやすいことが知られています。

また、衝動的な行動や注目を求める性格(サイコパシーやナルシシズム)を持つ人にとって、SNSは簡単に注目を集められる絶好の場所になっているのではないかと考えられます。

さらに、最近注目されているのが、「FoMO」(フォーモ)という心理です。

FoMOとは「Fear of Missing Out」の略で、日本語では「取り残され不安」と言われています。

これは「周りの人が面白いことをしているのに、自分だけ仲間外れになったら嫌だな」という気持ちのことです。

例えば、友達が面白い動画や話題を共有しているときに、自分だけ知らないと不安になってしまう気持ちのことです。

政治の話題でも同じように、自分だけ議論に参加できないと感じると、焦りや不安を感じてしまう人がいます。

そうした人は、「とりあえず参加しておこう」と、軽い気持ちで政治の話題に参加してしまう可能性があるのです。

一方で、人間にはこうした衝動や不安を抑えるための力もあります。

それが「認知能力」、つまり「冷静に物事を考え、判断する力」です。

「認知能力」は車で例えるとブレーキの役割を果たします。

ブレーキがよく効く人は、すぐに感情的になったり、勢いだけで行動したりすることが少なく、よく考えてから発言します。

反対に、ブレーキが弱い人は、感情に流されて衝動的に発言してしまいやすくなります。

つまり、オンライン上で政治的な発言をするかどうかは、「ダークパーソナリティ」や「FoMO」といった衝動や不安という「アクセル」と、冷静な判断力という「ブレーキ」のバランスによって決まる可能性があります。

では実際に、ネット上の政治活動には、どのような人が積極的に参加しているのか?

また、性格と認知能力の関係は、文化や国によって違いがあるのか?

今回の研究チームは、この点について、多くの国々の人を対象にした詳しい調査を行うことにしました。

認知機能の低さとネット上での政治的活発さ

認知機能の低さとネット上での政治的活発さ
認知機能の低さとネット上での政治的活発さ / Credit:Canva

研究チームは、8つの国の人々を対象にして、ネット上でどのような人が政治的な発言をしているのかを詳しく調べました。

調査を行った国は、アメリカ、中国、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムです。

今回の調査で特に調べたかったのは、3つのポイントです。

1つ目は、「ダークな性格(サイコパシーやナルシシズム)が強い人ほど、ネット上で政治に熱心になるのか?」

2つ目は、「周囲の話題から取り残されることを強く不安に感じる人(FoMO)が、ネット上の政治議論に参加しやすいのか?」

3つ目は、「冷静に考え、情報を判断する力(認知能力)が高い人は、ネットの政治参加に消極的になるのか?」

です。

これを調べるために、研究チームは各国の18歳以上の男女合わせて約8,000人を対象に、大規模なアンケート調査を行いました。

調査では、まず参加者の性格タイプを詳しく調べました。

特に注目したのは、「サイコパシー」「ナルシシズム」「FoMO(取り残され不安)」という性格傾向です。

「サイコパシー」は、自分勝手で衝動的な性格で、他人への思いやりや配慮が少ない傾向を指します。

「ナルシシズム」は、自分を特別だと考え、他人から注目されたいという気持ちが非常に強い性格のことです。

「FoMO(取り残され不安)」とは、「みんなが話題にしていることを自分だけが知らないのが不安で、仲間外れを恐れる」心理状態のことです。

次に、「認知能力」について調べました。

「認知能力」とは、情報をよく考えて判断したり、問題を冷静に解いたりする力のことです。

たとえば、ニュースやSNSで見た情報が本当に正しいかを、落ち着いて判断できる力と考えると良いでしょう。

そして、アンケートでは、それぞれの参加者に「SNS上で過去1年間にどのくらい政治的な投稿をしたか」を答えてもらいました。

例えば、政治に関するニュースや意見を投稿したり、誰かの政治的な意見にコメントしたり、シェアしたりといった行動をどのくらいしたかを尋ねました。

その結果、サイコパシーの傾向が強い人ほど、8か国すべてでオンライン政治活動が活発になることが明らかになりました。

つまり、自分勝手で衝動的な行動をとる人は、SNS上で政治の話に特に積極的に参加しやすかったのです。

また、FoMO(取り残され不安)が強い人も、オンラインでの政治参加が多くなる傾向が全ての国で共通して見られました。

周囲が政治的な話題をしている時に、自分だけ参加しないのは不安だという気持ちから、積極的に発言や投稿をしていた可能性があります。

また8カ国のうちインドネシアを除く7カ国で認知能力の低いほどオンライン政治参加の頻度は高い傾向にありました。

(※インドネシアでも認知能力の高さとオンライン政治参加の頻度は相関係数がマイナスになりましたが、統計的な有意性はないと判断されました)

これは認知能力が高い人が情報を冷静に分析して、「すぐに投稿してしまうのは良くないかもしれない」と慎重に考えてしまうためだと考えられます。

さらに、研究チームはこれらの性格や認知能力の組み合わせが、政治参加にどのように影響するかも調べました。

すると、サイコパシー傾向が高く、しかも認知能力が低い人が複数の国で最もオンライン政治活動が特に活発になる傾向があるとわかりました。

これは、衝動的な性格(アクセル)が強く働く一方で、それを止めるための冷静な判断力(ブレーキ)が弱いため、SNS上で積極的に発言を繰り返すようになるのではないかと推測されます。

一方で、国による違いも発見されています。

アメリカ、フィリピン、タイの3か国では、ナルシシズム(注目されたい気持ち)が強い人ほどオンライン政治活動が活発になりましたが、中国やシンガポールなど他の国では、このような傾向は見られませんでした。

これは文化の違いによって、「自己主張をすることが良いことかどうか」という社会的な価値観が違うためだと考えられます。

加えて興味深いことに中国だけは逆で、サイコパシーが高い人ほど、認知能力が高い層でむしろ政治的発言が増える傾向が見えました。

つまり中国では、ブレーキが強い人でも、アクセルが入ると発言が伸びやすい形です。

これは中国特有の文化や政治的な環境が影響している可能性があり、興味深い結果となりました。

一方、アメリカやシンガポール、フィリピンでは、サイコパシーと発言の結びつきは認知能力が高い層では弱まり、はっきりとは言えない程度になります。

マレーシアも、認知能力が低い層ほどこの結びつきが強く表れました。

要するに、同じ「アクセル×ブレーキ」の組み合わせでも、国ごとに“効き方”が違うのです。

研究者たちは組み合わせによって結果が異なる背景には文化や制度、オンライン環境などの国ごとの差が関わる可能性があります。

デジタル民主主義の危機

デジタル民主主義の危機
デジタル民主主義の危機 / Credit:Canva

今回の研究は、ネット上で大きな声を上げている人々の姿を浮かび上がらせました。

調査結果によると、サイコパシー傾向や取り残され不安(FoMO)が高い人ほど、オンラインでの政治的発言が多くなりやすく、逆に認知能力が高い人は、発言を控える傾向がありました。

言い換えれば、ネット政治ではアクセルを踏む人(勢いで突き進む人)が前に出て、ブレーキを踏む人(慎重に考える人)は目立ちにくい状況です。

つまり、投稿の量が多くても、その質(熟慮されているか)は保証されないということです。

またFoMO(取り残され不安)が強い人は、「自分だけ政治の話題に加われないのは嫌だ」という気持ちからSNS上の政治談議に首を突っ込む傾向があります。

このような人々の政治参加は必ずしも強い主義主張によるものではなく、「仲間外れになりたくない」という不安感に駆られて行動している面があります。

そのため、一見政治に積極的に関わっているように見えても、実は議論の中身よりも参加すること自体が目的化していたり、表面的・感情的な反応が多くなる可能性があります。

このようにFoMOが強い人ほど政治に参加する傾向は、調査対象となった8か国すべてで確認されており、デジタル時代ならではの特徴だと考えられます。

一方で認知能力が高い人ほど政治的発言を控えるという、一見逆説的な傾向については、「慎重さ」と「批判的思考力」が鍵だと考えられています。

知的能力の高い人は情報の真偽を見極めたり、自分の発言がもたらす影響を熟慮したりする傾向が強いため、安易にSNSで議論に飛び込むことを避けるのかもしれません。

つまり認知能力が高い人々は、オンライン政治活動に慎重で、よく考えて参加を選ぶ傾向があると説明されています。

この傾向は、多くの国(少なくとも8か国中7か国)で確認されました。

政治参加というと一般に「知的で高い志を持った人が積極的に行う良いこと」というイメージがあるかもしれません。

しかしこの研究は、少なくともデジタル空間においては、そうした「頭脳派」よりもむしろ衝動的な「行動派」が目立っている現実を浮き彫りにしました。

インターネット上では投稿やコメントのハードルが低く、感情的で刺激的な意見が注目されやすいと言われています。

そのため、じっくり考えて参加するよりも、勢いや感情を優先した参加が増える可能性が高いのです。

この発見は、デジタル時代の民主主義において重要な示唆を与えます。

もしオンライン政治空間で声を上げている人々の多くが、衝動性が高かったり不安に駆られたりする層に偏っているとすれば、ネット上の議論の質や方向性もその影響を強く受ける可能性があります。

これまでの研究では、サイコパシーやナルシシズムの傾向が強い人は、攻撃的な態度を取ったり、誤った情報や極端な意見を広めたりする傾向があると指摘されています。

そのため、こうした人々が中心となるコミュニティでは、過激な意見や誤情報が広がりやすくなってしまう懸念があります。

また、FoMOに突き動かされた参加者が多い場合、政治的な議論が深まるというより、「とりあえず参加しておきたい」という表面的な反応が増えてしまう恐れもあります。

反対に、冷静な視点や慎重さを持つ認知能力の高い人々が、あまり発言をしない状況が続けば、議論が偏り、社会全体にとって有益な意見交換が難しくなる可能性があります。

オンライン空間で「大きな声」それも認知能力が低く精神病気質の人々の声だけが目立つとすれば、それは本当に社会にとって望ましいことでしょうか?

デジタル民主主義の質を考える上で、この問題を見過ごすことはできません。

もっとも、この研究にも留意すべき限界があります。

調査で使われた性格テストは自己申告式のアンケートであるため、参加者が自分をよく見せようとしたり、正直に答えなかったりする可能性があります。

また、認知能力の測定には語彙テストという1種類のテストしか使われていないため、知能のすべての側面を測れているわけではありません。

それでもこの研究は、「ネット上の政治を動かしているのは誰なのか」という重要な問いに新しい視点を与えました。

研究チームは、オンライン政治活動が特定の性格や認知能力を持つ人々に偏りすぎることを懸念しています。

そして、ネット上での議論がバランスよく行われ、多様な人が安心して参加できる仕組みを整える必要性を指摘しています。

社会としても、この研究結果を参考に、「オンラインで政治の声を上げているのはどんな人か」を正しく理解し、より建設的で健全な議論の場を作っていくことが求められています。

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元論文

Dark personalities in the digital arena: how psychopathy and narcissism shape online political participation
https://doi.org/10.1057/s41599-025-05195-y

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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