ポーランド北部の都市グダニスクで1962年から地元民に親しまれてきた老舗アイスクリーム店「ミシュ」。
そのアイスクリーム屋さんが数年前に移転したことで空き地となっていましたが、なんとその地下から約700年前の中世騎士の墓と人骨が出土したのです。
この騎士は一体どのような人物だったのでしょうか?
目次
- 地中から現れた「中世の騎士」
- 無名の戦士は誰だったのか?浮かび上がる2つの可能性
地中から現れた「中世の騎士」
2025年夏、ポーランド北部の港町グダニスクで、考古学者たちが歴史の扉をこじ開けました。
1962年から営業していたアイスクリーム店「ミシュ」が移転したことにより、考古学者は長年の夢であった地下調査を決行できる運びとなりました。
というのも、ミシュは歴史ある中心地区「シロドミェシチェ(Śródmieście)」に位置し、グダニスク最古の教会に付随する中世の墓地の真上に建っていたからです。
そして7月10日、発掘チームが地面を掘り進めていくと、最初に見えたのは約1.5メートルの石灰岩の板でした。
これはゴットランド産という、当時としては非常に高価で希少な素材です。

そしてその表面には、剣と盾を構えた鎖かたびら姿の騎士が彫刻されていました。
この墓標の下にあったのは、23個の野石で囲まれた長方形の空間。
さらに掘り進めると、その中からは完全な人骨が発見されました。
骨の保存状態は極めて良好で、頭蓋骨、下顎、頸椎、そして四肢まですべてがそろっていたといいます。
発見現場には雨の予報が出ており、考古学者シルヴィア・クジンスカ氏と人類学者アレクサンドラ・プドウォ氏は、天候の悪化による劣化を防ぐため、夜通し作業を続けて遺物をすべてビニール袋で安全に保護しました。
骨の初期分析によると、この騎士は40歳前後のがっしりとした体格の男性で、身長は170〜180センチと推定。
中世のグダニスクでは平均よりやや高めの体格だったと考えられます。
まさに、実戦の場で鍛えられた戦士だったことを想像させます。
無名の戦士は誰だったのか?浮かび上がる2つの可能性
この墓の主は、いったい何者だったのでしょうか。
そこに眠っていたのは、明らかに「普通の市民」ではありません。
第一に注目されたのは、墓標の豪華さです。
騎士が彫られた石灰岩の板は、当時としては非常に高価なものであり、葬られた人物が高い社会的地位と経済力を持っていたことを示しています。
実際、発掘された約300の墓のうち、石の墓標を持っていたのはわずか8基。その中でもこの墓標はとびぬけて精巧で、学術的にも全国的な注目を集めています。

問題は、この人物がどの時代の誰に仕えていたかです。
グダニスクは1308年、ドイツ騎士団(チュートン騎士団)によって占領されました。
この人物がその前に埋葬されたのか、それとも後かによって、彼の所属は大きく異なります。
もし1308年以前ならば、ポメレリア地方を治めていたソビェスワフ家の公爵に仕えた騎士だった可能性があります。
逆にそれ以降であれば、ドイツ騎士団に従う軍人だったかもしれません。
墓からは副葬品などは出てきませんでしたが、クジンスカ氏は「当時の社会において特別な敬意をもって葬られた人物であることは間違いない」と述べています。
3Dスキャンによるデジタル復元や、遺骨のDNA解析、さらに顔貌復元も今後行われる予定であり、さらなる手がかりが得られるかもしれません。
発掘現場では、誰かがふと口にしました。
「彼をズビシュコ(※ポーランド文学『十字軍騎士団』の主人公)と呼んではどうか」と。
また別の者は「グダニスクのランスロットのほうが似合う」と冗談まじりに提案しました。
実在の名が不明であるからこそ、物語とロマンが自由に広がっているようです。
参考文献
Medieval knight’s grave discovered under ice cream shop
https://www.popsci.com/science/medieval-knight-under-ice-cream-shop/
Znaleziono kompletny szkielet rycerza. Kim był, jak go nazywać?
https://www.gdansk.pl/wiadomosci/Znaleziono-kompletny-szkielet-rycerza-Gdansk-archeologia,a,291781
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部