生物の多くは「オス」と「メス」という性別を持っており、互いに協力して繁殖します。
ただその中には、オスとメスで見た目が違ったり、サイズが違ったりなどの性差をもつ種が存在します。
こうした同じ種内のオスとメスの違いを「性的二形」と呼びます。
そしてこの地球上には、他の生物と比べて圧倒的な”男女格差”を持つ生物がいるのです。
それが「ブランケット・オクトパス」です。
彼らはメスの体長が約1.8メートルに達するのに反し、オスは大きくても2.5センチ程度にしかならないのです。
目次
- メスは女王、オスは豆粒、その差72倍!
- 小さすぎるオスのサバイバル戦略
メスは女王、オスは豆粒、その差72倍!
ブランケット・オクトパスは、太平洋やインド洋などの温暖な海に生息しているタコの仲間です。
その最大の特徴は、「オスとメスのサイズ差があまりにも激しすぎること」にあります。
メスはなんと最大1.8メートルにも成長し、成人男性と同じくらいの大きさになります。
一方、オスはたった2.5センチ(1インチ)程度。
その差は体長比で1対72という、まさに桁違いの格差です。
このオスメスの体格差(性的二形)は、動物界の中でも際立っており、ロンドン自然史博物館は「現存するすべての動物の中で最大の性的二形」だと報告しています。
メスの特徴的な“毛布”のようなひれは、前腕2本の間に張られた膜のような構造で、優雅な見た目とは裏腹に捕食者に対する防御の役割も果たしています。
ひれを大きく広げて自らを大きく見せ、威嚇していると考えられています。
一方で、豆粒サイズのオスにはそんな優雅な装備はありませんが、彼らには別の生き抜く知恵があるのです。
小さすぎるオスのサバイバル戦略
ブランケット・オクトパスのオスは非常に小さく、海の中で目立たない存在ですが、ただの「小さな無力な存在」ではありません。
むしろ、彼らは独自の進化を遂げ、カツオノエボシという猛毒生物を利用する驚異のサバイバル術を持っています。
カツオノエボシは一見クラゲのように見えますが、実は「ヒドロ虫の集合体」であり、毒針を持つ触手で多くの魚類をしとめる危険な存在です。
しかしオスのブランケット・オクトパスは、このカツオノエボシの猛毒に耐性を持っているのです。
彼らはカツオノエボシの触手の中にこっそり入り込み、その一部を切り取って持ち帰り、自分の「ムチ」として使います。
その触手には依然として毒のある刺胞(ネマトシスト)が含まれており、オスはそれを振り回すことで、天敵を遠ざける武器として活用します。

このようにして、体の小ささを補うために、ブランケット・オクトパスのオスは知恵と適応力で生き延びているのです。
つまり、「小さくても侮れない存在」というわけです。
海の中には、まだまだ私たちが知らない不思議な生き物たちがたくさんいます。
ブランケット・オクトパスのように、「小さすぎるオス」と「大きすぎるメス」が同じ種として共存し、それぞれの形で生存戦略を磨いてきたという事実は、自然界の進化の多様性と奥深さを教えてくれます。
参考文献
The Blanket Octopus Has The Most Extreme Sexual Dimorphism In The Animal Kingdom
https://www.iflscience.com/the-blanket-octopus-has-the-most-extreme-sexual-dimorphism-in-the-animal-kingdom-80008
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部