まるで地獄の門が開いたかのように、地面から泡立つ泥と炎が噴き出しました。
2025年6月26日午前5時頃、台湾南部の万丹郷(ワンダン)にある寺院の前で、「泥火山」が突如として噴出したことが報じられました。
泥が地中から勢いよく吹き上がる様子に加えて、その上に立ちのぼる炎が多くの目撃者を驚かせています。
異様な光景をとらえた映像は瞬く間に拡散され、「炎の冠をかぶった火山」として話題になっています。
この現象は一体何なのでしょうか?
目次
- 泥火山とは?
- 意図的に火をつけた理由とは?
泥火山とは?
「火山」と聞くと、マグマが噴き上がる灼熱の光景を想像するかもしれませんが、今回台湾で発生したのは「泥火山」という別種の地質現象です。
泥火山はその名の通り、泥を噴出するものです。
一般の火山のように地下のマグマだまりと関係しているわけではなく、地下深くにたまった高圧の水やメタンガスが、地表の泥や粘土を突き上げることで発生します。
今回の噴出が起きた台湾南部の万丹泥火山は、こうした典型的な「マグマとは関係のない泥火山」にあたります。
実際の映像がこちら。(音声があります)
2025年6月26日の噴火では、4つの噴出口から泡立つ泥が最大で2メートルの高さにまで噴き上がりました。
噴火はおよそ10時間にもおよび、その間、地表では泥の熱とともに立ち上る炎が観測されました。
しかし実はこの炎、自然に発火したのではなく、地元住民によって意図的に着火されたものであることが判明しています。
意図的に火をつけた理由とは?

炎の正体は、泥とともに噴出した可燃性のガス、主にメタンです。
泥火山では、地中にたまったメタンなどの炭化水素ガスが一緒に噴き出すことがあります。
今回の噴出では、寺院の管理者や近隣の住民が「燃える布」を噴出口に投げ入れて点火し、噴き出すガスを“燃やす”という行動に出たのです。
この行為は単なる見世物ではなく、地元では伝統的に行われてきた実用的な対応です。
というのも、放出されたメタンは強力な温室効果ガスであり、大気中にそのまま放出されると地球温暖化を促進してしまいます。
そこで「メタンを燃やして減らす」ことで被害を最小限に抑えようとしているのです。
泥火山の研究者によれば、万丹泥火山の噴出は固定された1カ所からだけではなく、約1キロメートル四方の範囲に広がって発生する可能性があるといいます。
実際、過去には寺院の真下で噴火し、泥が壁を伝って内部に流れ込み、床一面を覆ってしまったこともあるそうです。
このように、台湾の泥火山が見せた「泥と炎の噴火」は、見た目こそ派手ですが、マグマや溶岩とはまったく異なるメカニズムで生じる現象です。
万丹泥火山は、ここ3年間で10回も噴火を繰り返しており、今後も同様の現象が続く可能性があります。
泥の下で何が起きているのか――この地球の神秘は、まだ私たちに多くの謎を投げかけているのです。
参考文献
Watch mud volcano erupt beneath a crown of flames in Taiwan
https://www.livescience.com/planet-earth/geology/watch-mud-volcano-erupt-beneath-a-crown-of-flames-in-taiwan
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部