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乱獲でタラの体が「衝撃的な縮小」を起こしていた


かつて大きく成長し、バルト海の漁業を支えてきたタイセイヨウダラ(大西洋ダラ)は、乱獲による急速な進化的変化で小型化しています。GEOMARヘルムホルツ海洋研究センターの研究によれば、1996年から2019年にかけて、タラは急速に縮小し、今はかつての半分以下のサイズとなっています。この変化は、単なる環境要因ではなく、遺伝子に明確な進化的変化が観察された結果です。調査では、成長関連の遺伝子の一部に方向性のある進化的変化が起きており、小さく早く成熟するタラが選ばれやすくなっています。過去25年の乱獲が原因で、タラの遺伝子が根本から変えられたと結論付けられています。現在、タラの大きさの回復には非常に長い時間がかかるとされています。

かつて1メートルを超え、40キロもの巨体で海を泳いでいたバルト海の「タイセイヨウダラ」。

現地の漁業を支えてきたこの魚が、いまやお皿に収まるほどのサイズにまで小型化しているというのです。

しかもこの変化は、単なる栄養不足や環境の悪化ではなく、人間による乱獲がタラの「遺伝子」を書き換えてしまった結果であることが、独GEOMARヘルムホルツ海洋研究センターの最新研究で明らかになりました。

いま、タラたちに何が起こっているのか?

研究の詳細は2025年6月25日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次

  • 最盛期の半分ほどにまで縮小
  • DNAにも刻まれていた「乱獲の爪あと」

最盛期の半分ほどにまで縮小

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かつてのタラ/ Credit: GEOMAR –“Shrinking” Cod: How Humans have altered the Genetic Make-Up of Fish(2025)

バルト海に生息する「タイセイヨウダラ(学名:Gadus morhua)」は、かつてこの地域最大の魚として、ニシンと並び漁業の主役を担ってきました。

そのサイズは大の男性でも両手で抱えきれないほど大きなものでした。

ところが1990年代以降、その数が激減し、体のサイズも年々小さくなっていったのです。

最も大きなタラはかつて体長115センチにもなりましたが、2019年には最大サイズでも約54センチにまで縮小していることが確認されました。

小さいものだと女性の小さな両手にも乗っかるほどでした。

つまり、体の長さがほぼ半分、体積で見れば激減している計算になります。

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現在のタラ/ Credit: GEOMAR –“Shrinking” Cod: How Humans have altered the Genetic Make-Up of Fish(2025)

この異常事態に疑問を抱いた研究者たちは、1996年から2019年までにバルト海で捕獲されたタラの「耳石(じせき)」と呼ばれる小さな骨を調査。

耳石は魚の年輪のようなもので、年ごとの成長の記録が刻まれています。

分析の結果、タラの成長速度の傾向自体がガラリと変わっていることが判明しました。

1996年時点では成魚になるまでに比較的長い年月をかけて大きく成長していたのに対し、2019年の個体は早く成熟する代わりに、大きくならない傾向が見られたのです。

つまり、タラは「小さくても早く子どもを産める体質」に進化していたのです。

DNAにも刻まれていた「乱獲の爪あと」

さらに驚くべきことに、こうした体の変化はただの“環境の影響”ではなく、タラのゲノム(DNA)にまで変化が起きていたことが突き止められました。

チームは、過去25年間に捕獲されたタラのDNAを網羅的に解析。

その結果、成長に関わる遺伝子の一部に、明らかな「方向性のある変化(進化)」が起きていたのです。

具体的には、タラの成長に関与すると考えられる336個の遺伝子領域で、ある遺伝子型が他よりも多く残る傾向が見られました。

これはつまり、「大きくゆっくり育つ」タラは漁で早々に捕まってしまい、「小さくても早く成熟する」個体だけが生き延びて子孫を残す――という自然選択ならぬ“人間選択”が起きていたことを意味します。

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タラの耳石/ Credit: GEOMAR –“Shrinking” Cod: How Humans have altered the Genetic Make-Up of Fish(2025)

これまで進化は数千年、数万年という時間スケールで起きると考えられてきましたが、今回の研究は、たった四半世紀ほどの乱獲が、野生魚の遺伝子を根本から変えてしまったことを示す衝撃的な証拠です。

しかもこの変化は、単に小型化するだけでなく、成長に必要な代謝やホルモン、卵の浮力調節といった機能に関わる遺伝子にも影響を及ぼしていました。

環境の変化(たとえば水温上昇や酸素不足)ももちろん影響していますが、それだけではここまでの変化は説明できないと研究者は言います。

事実、過去25年で海水温の上昇によるサイズ減少は理論上6%程度と予測されていましたが、今回のタラの縮小は48%という、まさに「進化的変化」です。

2019年から東部バルト海のタラ漁は全面禁止となりました。

しかし、いまだにタラの体サイズの回復は確認されていません。

これは人間の手で急速に引き起こされた進化を元に戻すには非常に長い時間がかかることを示唆しています。

タラがもとの大きさに戻るには何世代もの自然な繁殖を待たねばならないかもしれません。

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参考文献

“Shrinking” Cod: How Humans have altered the Genetic Make-Up of Fish
https://www.geomar.de/news/article?tx_news_pi1%5baction%5d=detail&tx_news_pi1%5bcontroller%5d=News&tx_news_pi1%5bactbackPid%5d=12123&tx_news_pi1%5bbackPid%5d=12123&tx_news_pi1%5bnews%5d=9917

元論文

Genomic evidence for fisheries-induced evolution in Eastern Baltic cod
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adr9889

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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