親子の顔や性格は似ることがあります。
では、人の思考や感情を生み出す「脳」は、親と似るのでしょうか?
もし似るなら、父親と母親、どちら似でしょうか?
この素朴な疑問に対して、東北大学の研究チームが新たな答えを提示しました。
そして子どもの脳の構造には「父親に似る部分」「母親に似る部分」「両親に似る部分」「どちらにも似ない部分」が存在し、そのパターンは子どもの性別によって異なることを明らかにしたのです。
研究の詳細は、2025年6月19日付の『iScience』誌に掲載されました。
目次
- 親子で顔や性格は似る。「脳のかたち」は?
- 子供の「脳のかたち」は父親と母親にそれぞれ似ている部分があった
親子で顔や性格は似る。「脳のかたち」は?

「親子で顔が似る」「精神的な傾向が受け継がれる」
こうした現象は「世代間伝達」と呼ばれ、長年にわたり心理学や神経科学の分野で注目されてきました。
この伝達は、遺伝的要因と環境的要因の相互作用によって生じると考えられています。
しかし、こうした現象の具体的な仕組みや、「脳のかたち」における親子の類似性については、まだ十分に解明されていませんでした。
脳のかたちの類似性において、過去の研究は主に母親と子どもに焦点を当てており、父親を含めた検証は非常に少ないものでした。
では、父と母と子(親子トリオ)の「脳のかたち」にはどんな共通点があるのでしょうか。
この問題に取り組んだのが、東北大学の松平泉氏ら研究チームです。
彼女らは2020年から進められている「家族の脳科学(TRIO study)」の一環として、仙台市近郊の住民から協力を得て、152組の親子トリオ(父・母・高校生以上の子)を対象に研究を実施しました。
研究では、MRI(磁気共鳴画像法)を用いて、大脳皮質の厚み(皮質厚)、表面積、脳回指数(脳のしわの複雑さ)、皮質下構造の体積という4つの「脳のかたちの特徴量」を算出。
各子どもについて、親のどちらと似ているのかを評価しました。

比較には、「親子の類似度」と「他人同士の平均類似度」を計算し、相関係数の差を検定することで、「親子は似ている」と判断する厳密な手法が採られました。
子供の「脳のかたち」は父親と母親にそれぞれ似ている部分があった
脳の構造的特徴は一様ではなく、皮質厚・表面積・脳回指数などそれぞれ異なる発達パターンを持ちます。
そして分析の結果、子どもの脳には明確に「父親にのみ似る領域」「母親にのみ似る領域」「両親に似る領域」「どちらにも似ない領域」が存在することが確認されました。

さらに、これらのパターンが子どもの性別によって異なるという点も明らかになりました。
つまり、親子の脳の類似性は「父と息子」「母と娘」など、親子の性別の組み合わせによっても異なると言えます。
これらは脳の各領域が異なる遺伝的・環境的影響を受けて成長することを示唆しています。
また、「どちらにも似ない領域」の存在は、学校や友人関係など家庭外の環境が脳の発達に与える影響を示している可能性もあります。
こうした発見は、親子間でうつ病などのメンタルヘルスの問題がどのように伝わるかを探る手がかりにもなるかもしれません。

それで今後は、「なぜ親子で脳が似るのか」「なぜ性別によって似方が異なるのか」「脳が似ていることと世代間伝達はどう関係するか」といった問いに対するさらなる研究が進められる予定です。
本研究をリードした松平氏は次のように述べています。
「本研究の発展は、親子間の精神的な不調の連鎖を断ち切るための、新たな治療方法の開発に繋がる可能性があります。
また、適応的な特性や複雑な技能の継承を促進する、全く新しい技術の開発にも繋がるかもしれません」
顔や性格だけでなく、脳のかたちまで両親に似ている部分があるとは驚きです。
つまり、あなたの脳も、きっとあなたの両親の脳のどこかと似ているはずなのです。
参考文献
脳の「かたち」は父に似るのか母に似るのか? 親子の脳が類似する性別ごとのパターンを発見
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/06/press20250625-01-brain.html
元論文
Parent–offspring brain similarity: Specificities and commonalities among sex combinations–the TRIO study
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112936
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部