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ウミウシが「盗んだ葉緑体」を使いこなせる秘密を解明!


「レタスウミウシ」は、食した藻類の葉緑体を体内に取り込み、光合成を行うことができるユニークな海の生き物です。葉緑体を盗んで体内で機能させ続ける仕組みが長年の謎でしたが、ハーバード大学の研究により、「クレプトソーム」という未知の細胞小器官がその鍵であることが判明しました。この構造は盗んだ葉緑体を保護し、生きたまま光合成を可能にします。また、栄養源としても機能し、食料が尽きた際には葉緑体を消化して活用するのです。この研究は進化における新たな共生関係の証明とも言えます。

他の生き物から「特殊能力」を盗んで使う。

そんなSF映画に出てくるような生物が海に実在します。

それが「レタスウミウシ(学名:Elysia crispata)」と呼ばれる海の生き物です。

まるで緑色のレタスの葉のような姿をしたこのウミウシは、食べた藻類から「葉緑体」を盗み取ります。

しかもただ飾っているだけではありません。

実際に葉緑体を使って光合成をし、自らの生命活動に役立てているのです。

しかし長年の謎がありました。

「盗んだ葉緑体を、どうやって体内で機能させているのか?」

この疑問に、米ハーバード大学(HU)の研究チームがついに答えを見つけました。

盗んだ葉緑体を動かし続ける秘密は、ウミウシの体内にある“未知の細胞小器官”にあったのです。

研究の詳細は2025年6月25日付で科学雑誌『Cell』に掲載されています。

目次

  • 藻類から「光合成の力」を盗むウミウシ
  • 葉緑体を守る「クレプトソーム」の発見!

藻類から「光合成の力」を盗むウミウシ

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レタスウミウシ/ Credit: en.wikipedia

レタスウミウシは、カリブ海などに生息する小さなウミウシで、その見た目から「海のレタス」とも呼ばれています。

このウミウシが食べるのは、主に緑藻類。

ところが、ただ藻を消化して栄養にするだけでは終わりません。

レタスウミウシは、藻類の中にある「葉緑体」を盗み出して、自らの細胞の中に取り込んでしまうのです。

葉緑体とは、植物や藻類が光合成をするために使う装置のようなもの。光を受けて、エネルギー(糖)を作り出すはたらきをします。

普通、葉緑体は植物の細胞の中でのみ機能し、動物の体内では生きられません。

それなのにレタスウミウシの体内では数カ月間(最大で9カ月!)も機能し続けるのです。

どうしてそんなことができるのでしょうか?

実は、葉緑体が働くには、それを制御するための化学情報(酵素)が必要です。

ふつうは藻類が持っている「核」が光合成を開始するのに必要な酵素を供給しているのですが、ウミウシは藻類の核は自らに取り込むことなく捨ててしまいます。

つまり、葉緑体だけ盗んで、そのまま使っているのです。

これまでは「なぜそれが可能なのか」がまったくわかっていませんでした。

盗んだ葉緑体が、なぜ核もなしに壊れず、動き続けているのか――そのメカニズムは、謎に包まれていたのです。

葉緑体を守る「クレプトソーム」の発見!

この謎を解き明かす鍵となったのが、「クレプトソーム(kleptosome)」という新たに発見された構造でした。

研究チームがウミウシの体内を詳しく調べたところ、葉緑体はただ細胞内を漂っているのではなく、小さな“袋”に収められていたことがわかりました。

この袋は、ウミウシ自身が作ったもので、盗んだ葉緑体を包み込み、守っていたのです。

研究者たちはこの構造に「クレプトソーム」と名づけました。“klepto”は「盗む」、「some」は「体」や「構造」を意味します。

クレプトソームの中では、葉緑体が生きたまま保存され、太陽光に当たることで光合成を続けていました。

まるで太陽電池を背中に背負っているようなものです。

この仕組みのおかげで、ウミウシは何日も、時には何週間も、何も食べずに生き延びることができるのです。

さらに驚くべきことに、チームは葉緑体の中から藻類由来のタンパク質だけでなく、ウミウシ由来のタンパク質も見つけました。

つまり、ウミウシ自身の体が葉緑体の生産を維持するためのサポートをしていたのです。

言いかえれば、「藻類の部品をただ借りるのではなく、自分の体に落とし込み、生理的に使いこなしている」ことを意味します。

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研究の図解。葉緑体を袋の中に保護し、飢餓状態になったら非常食にしていた/ Credit: Corey A.H. Allard et al., Cell(2025)

食料が尽きると「葉緑体」が非常食に

しかし、この葉緑体利用システムにも限界があります。

レタスウミウシはふだん、緑色をしています。

これは葉緑体が背中にぎっしりと並んでいるためです。

ところが長く食べ物にありつけない状態が続くと、体の色がオレンジ色に変わっていくことが観察されました。

これはウミウシがクレプトソーム内の葉緑体を消化し、栄養源として使い始めているサインだったのです。

つまりウミウシは、光合成を利用するだけでなく、いざとなればその“太陽電池”を非常食として食べることまで考えていたのです。

クレプトソームは、ウミウシにとって“栄養の冷蔵庫”でもあるというわけです。

進化の世界では、ある種の生物が別の生物の能力を取り込んで利用するということが、何度も起きてきました。

私たちの細胞内にある「ミトコンドリア」も、もともとは別の生物だったと考えられています。

それが細胞に取り込まれ、エネルギーを作る工場として共生的に進化したとされているのです。

今回のウミウシの事例は、まさにそのような共生関係が“今まさに起きている版”だと研究者は話しています。

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参考文献

Solar-Powered Thieves: New Study Uncovers Animal Organelle That Sustains Photosynthesis from Stolen Chloroplasts
https://www.mcb.harvard.edu/department/news/solar-powered-thieves-new-study-uncovers-animal-organelle-that-sustains-photosynthesis-from-stolen-chloroplasts/

Sea Slugs Steal Body Parts From Prey to Gain Their Powers
https://www.sciencealert.com/sea-slugs-steal-body-parts-from-prey-to-gain-their-powers

元論文

A host organelle integrates stolen chloroplasts for animal photosynthesis
https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.06.003

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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