時間こそ全ての源なのでしょうか?
アメリカのアラスカ大学フェアバンクス校(UAF)で行われた研究によって、これまでの常識を覆す「時間は3次元であり、空間はそれが生み出す二次的な効果に過ぎない」という新しい理論が提唱されました。
この理論は宇宙の基本的な布地(キャンバス)を「空間」ではなく、3つの独立した次元を持つ「時間」だと主張しており、これまで説明できなかった素粒子の質量の精密な予測や、新しい粒子の存在、さらには重力波の微妙な速度差まで具体的に示しています。
もしこの驚くべき理論が正しければ、私たちの宇宙観は根底から塗り替えられる可能性があります。
時間とは本当に私たちがこれまで信じてきたような「川」のようなものではなく、広がりを持つ「海」のような存在だったのでしょうか?
研究内容の詳細は『Reports in Advances of Physical Sciences』にて発表されました。
目次
- 物理学者が挑む「最後の宿題」――なぜ3次元の時間なのか?
- 宇宙観をひっくり返す新理論「時間が空間を生んだ」とは?
- 「時間の海」を泳ぐ宇宙──世界観を塗り替える理論は本当に正しいのか?
物理学者が挑む「最後の宿題」――なぜ3次元の時間なのか?

「そもそも時間って何だろう?」――誰もが一度は不思議に思ったことがあるのではないでしょうか。
私たちは普段、時間を時計の針が進む方向に過去から未来へと流れているものとして当たり前に受け入れています。
でも実は、この「当たり前」が、現代物理学にとって最も厄介な問題を隠しているのです。
その問題とは、20世紀に物理学を劇的に進歩させた二大理論――アインシュタインの「一般相対性理論」と「量子力学」――が、お互いにまったく相容れないということです。
一般相対性理論は、星や銀河、宇宙そのものの大きなスケールを見事に説明します。
一方、量子力学は原子や素粒子といったミクロな世界の謎を完璧に解き明かします。
ところが、ブラックホールの中心や宇宙が生まれたビッグバンの瞬間など、極限的な状況では、この2つの理論は互いにぶつかり合い、矛盾が生じてしまうのです。
物理学者たちは長年、この矛盾を解決するために「すべてを統一する理論」、いわゆる「万物の理論」を探し続けてきました。
これまでにも、超弦理論やループ量子重力理論など数多くのアプローチが試みられてきましたが、決定的な答えはいまだ見つかっていません。
そこで、この難問を根本から見直す大胆なアイデアを打ち出したのが、米国アラスカ大学フェアバンクス校のクレテチュカ准教授です。
彼は「そもそも私たちが物理的な現実を理解する枠組み自体を、根底から問い直す必要があるのではないか」と考えました。
これまで私たちは、宇宙を「3次元の空間+1次元の時間」からなる「4次元時空」として捉えてきました。
ところが、クレテチュカ氏はこの考えを大胆にひっくり返し、「時間の方が空間より根本的であり、時間そのものが3次元存在する」と提唱したのです。
つまり、時間を3つの独立した方向に広げることで、私たちが見ている空間は、実は時間というキャンバスに描かれた「絵の具」のような二次的なものだと説明します。
このアイデアそのものは全く新しいものではなく、過去にも南カリフォルニア大学のItzhak Bars教授が「二重時間モデル」として提案しています。
しかし、それまでの多次元時間の理論は、原因と結果の順序(因果関係)が曖昧になったり、単なる数学的な仮説にとどまって実際に観測することが難しかったりと、問題を抱えていました。
クレテチュカ理論の画期的なところは、この「時間が3次元」という奇妙なアイデアに、実際に検証可能な予測を結びつけることに成功した点にあります。
では具体的に、この理論はどのようにして検証可能なものとなったのでしょうか?
宇宙観をひっくり返す新理論「時間が空間を生んだ」とは?

では具体的に、この理論はどのようにして検証可能なものになったのでしょうか?
この謎を解明するために、研究者たちはまず、「3次元の時間」という抽象的なアイデアを、実際に私たちが目にしている宇宙の現象や素粒子の性質と結びつける方法を探りました。
理論を組み立てる段階で、クレテチュカ准教授が注目したのは、「もし時間に3つの次元があるなら、それぞれの次元が異なる大きさやスケールの現象に関係しているはずだ」という考え方でした。
その結果、3つの時間軸(t₁, t₂, t₃)が、それぞれ私たちが観測する自然界の現象と驚くほどぴったり対応することが明らかになったのです。
第1の時間軸(t₁)は、私たちが普段感じている時間とは比べ物にならないほど微小な世界を支配しています。
具体的には原子内部で起こるような、1兆分の1のさらに1兆分の1秒(約10⁻²⁴秒)という極めて短いスケールを担当し、この時間軸こそが素粒子の質量を生み出し、量子世界の不思議な振る舞いをもたらすと考えられました。
第2の時間軸(t₂)は、量子世界と私たちが普段暮らしている日常世界との間をつなぐ役割を果たしています。
この中間的な軸は素粒子が「3つの世代」に分かれる理由や、弱い相互作用という特殊な力がなぜ左巻きという偏りを持っているかという謎を解き明かすカギとなっています。
そして第3の時間軸(t₃)は宇宙全体という最も大きなスケールを支配しており、銀河の形成や宇宙の膨張といった巨大な現象を司っています。
こうした対応関係が明らかになったことで、「3つの時間軸」が単なる数学的な仮説ではなく、現実の世界の特徴を非常にうまく説明できることがわかりました。
実際、この新しい理論は、長年物理学者たちが解けずに悩んできた素粒子の謎を次々と解明しはじめました。
例えば、「素粒子はなぜ3世代に分かれているのか?」という問いに対して、この理論は「3つの時間軸が存在するからこそ、素粒子も自然に3世代に分かれる」という明快な答えを与えています。
理論から導き出された質量比の予測は、第1世代、第2世代、第3世代が1 : 4.5 : 21という比率になり、現実の観測値と驚くほど一致しています。
さらに、既に発見されている素粒子の質量を、非常に精密なレベルで再現することにも成功しました。
例えばトップクォークという粒子の質量は、理論上173.21 ± 0.51 GeVと予測されていましたが、実際に実験で観測された値は173.2 ± 0.9 GeVという見事な一致を示しています。
また、電子の質量の計算結果も、実測値と高精度の精度で一致するなど、偶然とは思えないほどの正確さを持っているのです。
新理論の成功度合いを測る物差しの1つに既存の測定値と新理論の理論値がどれほど一致するかというものがありますが、その点において時間を3次元とする今回の理論は素晴らしい一致を見せていたのです。
それだけでなく、この理論は私たちがまだ見つけていない未知の粒子の存在も予測しています。
理論計算によれば、エネルギーが約2.3 TeVと約4.1 TeVの地点で新しい粒子が見つかる可能性があります。
この予測は、今後アップグレードされる大型粒子加速器HL-LHCや、計画されている超大型加速器FCC-hhで直接検証することが可能なものです。
さらに興味深いことに、この理論は重力波と光が全く同じ速さで進むわけではない、という微妙な予測までしています。
理論によれば、重力波は光よりもごくわずか遅れ、その速度差は光速の約1.5×10⁻¹³%(0.00000000000015%)程度とされました。
この違いは、次世代の高感度な重力波望遠鏡(LIGOの改良版や宇宙で観測を行うLISAなど)によって、実際に観測できる可能性があります。
また、この理論を使うと、宇宙の膨張を加速させる謎の力「ダークエネルギー」の振る舞いにも微妙な変化が起こると予測されます。
これについては、2027年以降に本格的に稼働する宇宙望遠鏡ユークリッドやヴェラ・C・ルービン天文台による観測で、近い将来検証が行われる予定となっています。
こうした数々の予測を打ち出したクレテチュカ理論ですが、果たしてこれらは本当に正しいことが証明されるのでしょうか?
「時間の海」を泳ぐ宇宙──世界観を塗り替える理論は本当に正しいのか?

クレテチュカ准教授の「3次元時間」理論が実証されれば、現代物理学の数々の難問が一気に解き明かされるかもしれません。
まず第一に、「なぜ素粒子は3世代あるのか?」という謎です。
標準模型では3世代である理由を説明できませんが、本理論では時間軸が3本あるため自然に3世代の粒子家族が生まれると説明されます。
第二に、素粒子の弱い崩壊で見られる「左手型」の偏り(パリティ対称性の破れ)も、この3次元の時間構造から自ずと導かれるといいます。
宇宙はなぜ左利きなのか、という長年の疑問に幾何学的な答えを与える点も興味深いです。
(※弱い相互作用だけが「左手型」と呼ばれる偏った性質を持つ理由について、時間の幾何学的構造がその答えになるかもしれません。)
さらに特筆すべきは、複数の時間次元が存在しても因果律(原因が結果に先行する原則)が守られることが厳密に保証されている点です。
従来の多次元時間モデルは因果律が崩れてしまうことが弱点でしたが、クレテチュカ理論では高度に洗練された数学構造のおかげで、時間が3次元でも「原因があって結果がある」という当たり前の秩序が保たれるのです。
そして忘れてならないのは、アインシュタインの一般相対性理論との関係でしょう。
新理論は決して相対論を否定するものではありません。
むしろ3つの時間軸のうち2つを無視できる状況では一般相対論の方程式が自然に現れることが示されています。
これは、これまで成功を収めてきた既存理論を包含していることを意味し、新しい理論の整合性を高めるポイントです。
とはいえ、この挑発的な理論も今後の検証を経て初めて評価されます。
HL-LHCやLISA、ユークリッドなど、目前の大型プロジェクトが次々とこの理論の予言をテストしていくでしょう。
その結果次第では、「3次元時間」は奇抜な思考実験の域を出ないまま終わる可能性もあります。
しかし同時に、提示された世界像があまりにも魅力的であることも確かです。
もし時間が単なる一本の川ではなく、無数の可能性が織りなす広大な「時間の海」だとしたら──その壮大な仮説が事実だと証明されたとき、私たちの宇宙観は根底から塗り替えられるでしょう。
物理学における21世紀最大の革命となるかもしれません。
時間という存在の本質に対する理解が深まれば、量子コンピュータや重力波応用技術、宇宙航行といった分野にも、今は想像もつかないブレークスルーがもたらされる可能性があります。
静かなアラスカの地から生まれたこの新しい理論が、宇宙の真の姿を解き明かす主役となるのか、それとも壮大な思索の一幕として歴史に名を残すのか──その答えはこれから始まる実験と観測が握っています。
私たちは今、物理学の新たな大転換が訪れるかもしれない歴史的瞬間を目撃しているのかもしれません。
元論文
Three-Dimensional Time: A Mathematical Framework for Fundamental Physics
https://doi.org/10.1142/S2424942425500045
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部