FPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲームをプレイしていると、「もっと正確に撃てるようになりたい」と思ったことは誰にでもあるはずです。
YouTubeで上級者のプレイ動画を見ては、自分との圧倒的な差を感じ、ひたすらエイム練習に励んだ経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、どれだけ練習しても上達の実感が得られず、伸び悩んでしまうこともあります。
そんなFPSプレイヤーの「どうすれば本当に上手くなれるのか?」という疑問に対して、ひとつのヒントを与えてくれる研究が報告されました。
中国・上海体育大学(Shanghai University of Sport)心理学部のLiu Yang(リュウ・ヤン)氏らの研究チームは、FPS経験者と未経験者を比較し、「FPSのスコアに影響している要因」を調査しました。
その結果、意外にも成績を左右していたのは、「エイムの正確さ」そのものではなかったのです。
この研究の詳細は、2025年1月27日付けで科学雑誌『Computers in Human Behavior』に掲載されています。
目次
- 「エイムの正確さ」だけではない上達の鍵とは?
- 上手い人は「視線に迷いがなかった」
「エイムの正確さ」だけではない上達の鍵とは?
FPSゲームが上手な人と、そうでない人との違いはどこにあるのでしょうか。
「それは単なるゲームの話でしょ?」と思う方もいるかもしれません。
ですが近年、ゲームは単なる娯楽を超えて、人間の注意力・判断力・視覚処理といった高度な認知能力を測る場として注目されています。
特にFPSのようなリアルタイムの操作を必要とするゲームは、実験室での心理実験よりもむしろ現実に近い“複雑な認知の実践の場”とさえ言われています。
たとえば、敵の動きに瞬時に反応したり、味方の位置を確認しながら視野全体を把握したりする力は、運転・スポーツ・軍事訓練などにも通じるスキルです。
つまり、「ゲームが上手い人はどこが違うのか?」を解き明かすことは、人間の脳や体の使い方を理解する手がかりにもなり得るのです。
そうした問題意識のもと、中国・上海体育大学(Shanghai University of Sport)の心理学者たちは、FPS経験者と未経験者を比較し、「ゲームの成績を決めている真の要因は何か?」を明らかにしようとしました。
実験では、FPSを2年以上定期的にプレイしている大学生28人と、FPS未経験の大学生35人を対象に、ターゲットを狙う課題が行われました。
画面中央の「開始ボタン」をクリックすると、0.25秒または0.5秒後に、画面のどこかに赤い的が現れます。参加者は、できるだけすばやくその的にカーソルを合わせてクリックしなければなりません。
このとき、ターゲットに視線を合わせるまでにどのくらいの時間がかかったか、どの程度余計な場所を注視したかという参加者の眼球運動(eye movements)が高性能カメラで詳細に記録されました。
研究の目的は、これらの視線パターンが経験者と未経験者でどう違うかを明らかにし、FPS上達の本質的な要因を科学的に理解することでした。
上手い人は「視線に迷いがなかった」
実験の結果、的をクリックした際、ターゲットの中心からどれくらいズレていたかという命中の正確さそのものは、FPS経験者と未経験者の間で大きな違いは見られませんでした。
しかし、的をクリックするまでの反応時間(execution time)にははっきりとした差がありました。FPS経験者のほうが、どの条件でもターゲットをより素早く、ためらいなく捉えていたのです。
とくに注目されたのが、そのときの視線の使い方でした。
FPS経験者は、ターゲットの出現に対して視線を一度だけ素早く動かし、そのままカーソルを動かしてクリックするという、シンプルかつ効率的な行動パターンを多くの試行で見せました。
これは「0回の注視(fixation)+1回の視線移動(saccade)」(1度も視線を止めずに一発で目的のターゲットへ視点を移動する)という状態で、迷いのない視覚移動でした。
一方で未経験者は、「1回以上の注視+複数回の視線移動」が多く見られました。彼らはターゲットを見つけても、視線をいったん止めて確認し、さらにもう一度視線を動かすなど、判断に余計な時間を要していたのです。
この視線の「迷い」の多さが、結果としてターゲットに対する反応の遅れや操作スピードの低下につながり、ゲームのスコアを落とす要因になっていました。

つまり、FPSの上手い人は必ずしもエイムが正確なわけではなく、瞬間的なチャンスを見逃さない反応速度が優秀だったのです。
視線の運び方だけでこれほど明確な差が出たという事実は、「FPSのうまさ」においてどこを見るか、どのように見ているかが極めて重要であることを示唆しています。
これはスポーツや演奏と同じで、熟練者ほど「次に何をするか」が体に染みついており、FPS熟練者の場合は視線が自然に先回りして動くようになるのかもしれません。
FPSゲームにおける「うまさ」とは、正確に的にカーソルを合わせられる手先の器用さ以上に、視線の動かし方にあったのです
FPSがうまくなりたい人は「エイム力」より「迷わない視線」を鍛えよう
この研究から得られる最大の示唆は、「FPSの上達には、視線の使い方を含めた“認知の効率化”が重要だ」ということです。
言い換えれば、単に手のエイム練習を積むだけではなく、「どこを見て」「どこに注目しないか」という視覚的な判断力を鍛えることが、勝敗を分けるカギとなります。
たとえ正確に的に当てる能力が低くても、反応速度を上げることで試行回数を増やすことが出来ます。結果的にそれがもっともスコアを最大化する戦略につながるのです。
YouTubeのトッププレイヤーたちが“敵の出現しそうな場所”を予測して先に視線を送っている様子を見たことがあるかもしれません。
あれこそが、「予測された視線戦略」の一例です。
あなたが次にFPSをプレイするとき、上手く照準カーソルを合わせることではなく、「自分はどこを見ていたか」「どのタイミングで目を動かしたか」に意識を向けてみてください。
その小さな気づきが、ゲームプレイをまったく違うものにしてくれるかもしれません。
参考文献
Experienced FPS gamers show faster, more efficient eye movements during aiming tasks, study finds
Experienced FPS gamers show faster, more efficient eye movements during aiming tasks, study finds
https://www.psypost.org/experienced-fps-gamers-show-faster-more-efficient-eye-movements-during-aiming-tasks-study-finds/
元論文
The aiming advantages in experienced first-person shooter gamers: Evidence from eye movement patterns
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563225000202
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部