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昆布を使ったシャチの奇妙なルーティンを初発見!


エクセター大学の研究で、ワシントン州沖セイリッシュ海でシャチが昆布を道具のように用いて互いの背中をこすり合う行動が確認されました。この行動は「アロケルピング(allokelping)」と名付けられ、シャチの「サザンレジデント」と呼ばれるグループで観察されました。シャチは昆布を仲間と協力して使用し、皮膚の健康維持や社会的絆の強化に役立てている可能性が高いと考えられています。この文化的行動は特定のグループに限られ、シャチの知性と独自の文化を示すもので、環境変化による生息数減少が懸念されています。

道具を使ったシャチの習慣が発見されました。

このほど、英エクセター大学(University of Exeter)らにより、米北西部ワシントン州沖の「セイリッシュ海」で、シャチたちが自らちぎった昆布の茎を使って、仲間と背中をこすり合う奇妙な行動が確認されたのです。

この発見は、シャチが“道具”を作り、仲間と協力しながら使っている初の証拠であり、海洋哺乳類の行動における驚くべき知性と文化の存在を示すものとなります。

研究の詳細は2025年6月23日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

  • 昆布を「選び」「ちぎって」「活用」、道具づくりの証拠
  • 「昆布こすり」の目的とは?

昆布を「選び」「ちぎって」「活用」、道具づくりの証拠

この研究を主導したのは、米クジラ研究センター(CWR)とエクセター大学の研究者たちです。

彼らが観察していたのは、絶滅が危惧される「サザンレジデント」と呼ばれるシャチの小さなグループで、現在その数はわずか73頭。

1970年代から世界で最も詳しく研究されてきた群れです。

チームは近年のドローン技術を活用し、海上からシャチの自然な行動を高精細に記録する手法を取り入れていました。

そしてある日、研究者の一人が、2頭のシャチが互いに接触しながら昆布を体の間に挟んでこすり合っている様子を発見したのです。

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観察された行動/ Credit: Michael N. Weiss et al., Current Biology(2025)

観察によると、シャチたちはオオウキモと呼ばれるコンブ科の海藻の先端を自ら噛みちぎり、茎の部分を体と体の間に挟んで転がすようにこすり続けていました。

昆布の茎は中が空洞でしなやか、それでいて表面は滑らかで、まるで水を詰めたホースのような性質を持っており、グルーミング(毛づくろい)には最適な素材といえます。

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モントレー水族館に展示されているオオウキモ/ Credit: ja.wikipedia

この一連の行動は新たに「アロケルピング(allokelping)」と名付けられました。

“アロ(allo)”は「他者と共同で」という意味、”ケルプ(kelp)”は「昆布」という意味で、すなわち仲間同士で昆布を使って体をこする行動を意味します。

これまでにもイルカが海綿を使って口先を保護する行動や、シャチが海岸の石に体をこすりつける行動は知られていましたが、「仲間との共同作業」「道具の加工」「反復利用」といった要素がすべて揃った事例は、海洋哺乳類としては前例がありません

このアロケルピングは単なる遊びではなく、意図的に対象を選び、仲間と協力しながら繰り返し行う、高度な社会的行動だと考えられます。

では、この奇妙な昆布グルーミングには、どのような目的があるのでしょうか?

「昆布こすり」の目的とは?

一つは皮膚の健康維持です。

クジラ類の多くは、古い皮膚や寄生虫を落とすために海藻の中を泳ぎまわる行動を行います。

アロケルピングはおそらくこれを発展させたもので、特定の体の部位にピンポイントで圧をかけてこすれるという点で、より効果的と考えられます。

また、昆布には抗菌・抗炎症作用を持つ成分が含まれており、皮膚の炎症や感染を防ぐ薬用的な意味もあるかもしれません。

もう一つ注目されるのが、社会的な絆の強化という側面です。

人間を含む霊長類では、毛づくろいが信頼関係を築くための行動として広く知られています。

今回のアロケルピングも、そうした社会的ふれあいの一種である可能性があります。

実際に観察では、親子関係にある個体や、年齢の近い個体同士でこの行動が行われる傾向が確認されています。

さらに重要なのは、この行動が「文化的に特有なもの」であるという点です。

世界中のシャチは見た目は似ていても、生息域や言語、狩りの方法が異なる「エコタイプ(生態型)」という別々の集団を形成しており、互いに交配しません。

つまり、ある行動が一つの集団でだけ観察されるなら、それは“文化”の現れといえるのです。

今回のアロケルピングは、他のシャチの群れでは確認されておらず、サザンレジデントに特有の文化的行動である可能性が極めて高いと考えられます。

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アロケルピングをするシャチ/ Credit: University of Exeter –Killer whales make seaweed ‘tools’ to scratch each other’s backs(2025)

今回の発見は、サザンレジデントのシャチたちが単なる動物以上の存在であること――複雑な社会を持ち、独自の文化を継承している存在であることを改めて示しています。

しかし、その文化も彼らの命とともに消えかけています。

サザンレジデントのシャチたちは、主にキングサーモンを食べて生きていますが、その数はダム建設や過剰漁獲、気候変動などによって激減しています。

彼らは生きるためのエネルギー源を確保することが難しくなっており、出生率も著しく低下しています。

さらには、今回彼らが“道具”として使っていたオオウキモも、温暖化の影響で衰退しています。

シャチという種を守ることはもちろん大切ですが、彼らが持つ文化、知性、そして仲間を思いやる心までもが失われつつあることに、私たちはもっと目を向けるべきかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Killer whales make seaweed ‘tools’ to scratch each other’s backs
https://news.exeter.ac.uk/faculty-of-health-and-life-sciences/killer-whales-make-seaweed-tools-to-scratch-each-others-backs/

Orcas’Strange Beauty Routine Revealed by Scientists For The First Time
https://www.sciencealert.com/orcas-strange-beauty-routine-revealed-by-scientists-for-the-first-time

元論文

Manufacture and use of allogrooming tools by wild killer whales
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.04.021

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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