AIツールを利用すれば、カンニングは難しくないかもしれません。
そんな物議を醸すテクノロジーを堂々と提供しているのが、サンフランシスコ拠点のスタートアップ企業「Cluely」です。
2025年6月、この企業の創業者は「1500万ドル(約22億円)の資金調達を行った」とエックスで報告し、大きな注目を集めました。
目次
- 「カンニング支援」企業Cluelyとは?
- Cluelyが22億円の資金調達を報告!彼らが目指す「誰もズルをしない世界」とは?
「カンニング支援」企業Cluelyとは?

AIの進化によって、私たちの生活は大きく変化しています。
文章の自動生成や画像の解析、音声認識といった技術は、教育やビジネスの現場にも深く入り込みつつあります。
しかし、その一方で、「AIを使ってズルをする」という新たな問題も浮上しています。
Cluelyは、まさにこの“ズル”の可能性に着目した企業です。
創業者は21歳のChungin ”Roy” Lee氏とNeel Shanmugam氏。
彼らはコロンビア大学の学生でしたが、ソフトウェアエンジニア向けの技術面接でカンニングを可能にするAIツール「Interview Coder」を開発。
このカンニングツールの開発が問題となり、彼らは大学から停学処分を受け、後に中退します。

そして、この経験をもとに、2025年初頭にCluelyを設立しました。
もともと「Interview Coder」は、LeetCode(大手IT企業の技術面接で頻出のプログラミング問題を集めたオンライン学習プラットフォーム)などのコーディング問題にリアルタイムで答えを出す支援ツールでした。
しかし現在では就職面接、営業トーク、学術試験など“あらゆる場面でのカンニング”を支援するAIアシスタントへと進化しています。
CluelyのAIは、ユーザーの画面と音声を解析し、必要な情報や回答をリアルタイムで提示します。
重要なのは、このツールが非常に巧妙に作られており、Zoomなどのビデオ会議や画面共有に一切映り込まない点です。
面接官や監督者には存在が分からない“透明なカンニングパートナー”として機能するのです。
この特性を強調する形で、Cluelyは話題性を狙ったプロモーション動画を公開しました。
Cluely is out. cheat on everything. pic.twitter.com/EsRXQaCfUI
— Roy (@im_roy_lee) April 20, 2025
Lee氏が高級レストランで女性とのデート中、AIの指示をこっそりと受け取りながら年齢や芸術知識について語るという内容で、視聴者の間で賛否両論を呼びました。
Cluelyのスローガンは、”Cheat on everything(すべてでズルを)”であり、彼らのAIツールはまさにそれを体現したものとなっています。
そしてこの企業の前進は止まらないようです。
Cluelyが22億円の資金調達を報告!彼らが目指す「誰もズルをしない世界」とは?

Cluelyの存在がこれほどまでに注目を集めているのは、単なるプロダクトのユニークさだけではありません。
創業者のRoy Lee氏は、SNSを駆使した大胆なマーケティングを得意としています。
前述のレストランでのデート動画では多くの批判も浴びましたが、一方で、広告としては非常に効果的だったようです。
また、Y Combinator主催のAIスタートアップイベントの後にCluelyが主催しようとした非公式アフターパーティでは、なんと約2000人が殺到。
警察によって中止される騒動に発展しました。
Lee氏は「酒は次回のパーティ用に残っている」とコメントし、反省の色は見られません。
そして、こうした一連の騒動の渦中にありながらも、Cluelyは2025年6月21日、1,500万ドル(約22億円)の資金調達を成功させたと報告。
announcing @cluely‘s $15M fundraise, led by @a16z.
cheat on everything. pic.twitter.com/bACr8MpK2W
— Roy (@im_roy_lee) June 20, 2025
ある投資家は、Cluelyの推定企業評価額は1億2,000万ドル(約175億円)になったと考えています。
Cluelyは、自らのサービスを単なる「カンニングの支援」ではなく、「AIによる能力の底上げ」として位置づけています。
公開されているマニフェストでは、かつて電卓やスペルチェック、Google検索が「不正」と見なされていたことを引き合いに出し、「AIは新しい常識になる」と主張しています。
彼らはこうも言っています。
「私たちは世界の仕組みを再定義します。
AIモデルが数秒で実行できるのに、なぜ暗記したり、コードを書いたり、調査したりするのでしょうか?」
そして「皆がズルをすると、誰もズルをしなくなる」とも続けています。
果たしてこの主張は、現代社会に受け入れられるのでしょうか?
それとも倫理的問題として糾弾されるべきなのでしょうか?
「AIが私たちに力を与えるのか、それとも道を踏み外させるのか」
この問いの答えは、そう遠くないうちに明らかになるはずです。
参考文献
Columbia student suspended over interview cheating tool raises $5.3M to ‘cheat on everything’
https://techcrunch.com/2025/04/21/columbia-student-suspended-over-interview-cheating-tool-raises-5-3m-to-cheat-on-everything/
Cluely, a startup that helps ‘cheat on everything,’ raises $15M from a16z
https://techcrunch.com/2025/06/20/cluely-a-startup-that-helps-cheat-on-everything-raises-15m-from-a16z/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部