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脳トレゲームで神経痛の大幅な軽減に成功【オピオイド鎮痛薬レベル】


オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の研究者たちは、クラゲゲームを用いたEEG(脳波)神経フィードバックによって慢性的な神経障害性疼痛を和らげる新しい治療法を発表しました。このゲームは、自宅で脳波に基づいてクラゲが漂う海の色を変えることでリラックス状態を促します。4週間のトレーニングを経て、参加者の大半は痛みの軽減を実感し、伝統的な鎮痛薬に匹敵する効果が得られました。しかし、少人数での研究であり、効果には個人差があるため、今後はパーソナライズされたアプローチが求められます。

フワフワと海を漂うクラゲのゲームをするだけで、どうしても治らなかった神経痛が和らぐ。

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究者たちが、そんな新しい治療の可能性を報告しました。

今回の研究では、在宅で行えるEEG(脳波)神経フィードバック型のゲームを活用して、神経障害性疼痛という難治性の慢性痛を抱える患者の痛みを軽減することに挑戦しています。

研究成果は2025年4月12日付の学術誌『The Journal of Pain』に掲載されました。

目次

  • 神経の誤作動がもたらす「見えない痛み」
  • 脳トレゲームで脳を変え、痛みを軽くすることに成功

神経の誤作動がもたらす「見えない痛み」

慢性痛のなかでも、神経障害性疼痛(neuropathic pain)は特に治療が難しいとされています。

これは、末梢神経や中枢神経の損傷などが原因かもしれず、「痛み信号」が誤って脳に送られ続ける状態です。

たとえば、怪我は治ったのに痛みだけが続いたり、あるいは軽く触れただけで電気ショックのような激痛が走ったりするのです。

これらは神経の誤作動が引き起こしている可能性があります。

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角膜の神経障害性陣痛で苦しむ患者が対象の研究 / Credit:Canva

そのなかでも特に複雑なのが、角膜の神経障害性疼痛(CNP:corneal neuropathic pain)です。

角膜は身体の中で最も神経が密集している部分の一つで、レーシック手術、コンタクトレンズ、感染症、ドライアイなどの影響で神経が損傷することがあります。

患者は「眼が焼けるように痛い」「何かが入っているように感じる」と訴えるのに、眼科検査では異常が見つからないというケースも多く、医師ですら診断が困難です。

そして、既存の薬物療法や点眼治療では効果が得られにくく、慢性的な痛みに苦しむ人も少なくありません。

このような背景から、UNSWの研究者たちは神経の誤作動に対処するための、「脳や神経の信号を再構築する新しいアプローチ」が必要だと考えました。

過去の別の研究でも、脳の再教育で慢性的な痛みを軽減できることが分かっています。

【その痛みはどこから?】”脳の再教育”で慢性的な痛みを軽減できると判明

今回注目したのはEEG(脳波)神経フィードバックという技術です。

これは、脳波をリアルタイムで計測し、その状態に応じて視覚的なフィードバックを与えることで、本人が脳の活動状態を自己調整することを促すものです。

今回開発されたトレーニングゲームでは、プレイヤーはクラゲが漂う黒い海のような画面を見つめることから始まります。

脳が緊張している状態では水は暗く沈んでいますが、リラックスすると水が青緑色に変わっていきます。

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脳トレゲームの仕組み / Credit:UNSW

これは、EEGセンサーがアルファ波などリラックス状態の脳波を検知すると、即座に画面の色調を変化させる仕組みです。

プレイヤーは、何度もこの「海の色の変化」を経験することで、無意識に痛みを和らげる脳の状態=自己調整力を育てていくのです。

このゲームを用いた脳トレは、参加者の自宅で、1回20分程度のセッションを週5回・合計4週間(計20回)にわたって実施されました。

さらに、トレーニング終了後には直後および5週間後にフォローアップ期間を設け、持続的な効果や自己練習の成果を評価しています。

脳トレゲームで脳を変え、痛みを軽くすることに成功

この研究に参加したのは、角膜の神経障害性疼痛「CNP」を患う4人の被験者です。

彼らは事前に7〜17日間のランダムなベースライン観察期間を過ごし、日々の痛みの強さと生活への影響(pain interference)を記録していました。

その後、4週間のトレーニングと2回のフォローアップを経て、3人の参加者において著しい痛みの軽減が確認されました。

これは麻薬性鎮痛薬「オピオイド」と同等かそれ以上の鎮痛効果だったようです。

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クラゲの脳トレゲームでオピオイド並みの鎮痛効果が得られた / Credit:(左)Canva, (右)PainWaive,UNSW

興味深いことに、患者自身が「この方法は自分で痛みをコントロールできる感じがする」と高く評価していた点も明らかになりました。

脳は、痛みそのものを作り出す中枢でもあり、その働きをうまく調整することで、痛みの感じ方も変えることができるというのは、現代神経科学の重要な知見です。

今回の研究は、EEGフィードバックによってこの「脳の自己調整力」を鍛えることが可能であることを示す貴重な事例となりました。

とはいえ、この方法がすべての患者に有効というわけではありません。

しかも今回の被験者数は4名と少なく、1名には目立った効果が見られませんでした。

また、視覚的な変化に対する反応には個人差が大きく、一人ひとりの脳波パターンに応じた「パーソナライズ化」が今後の課題となります。

それでも、「薬に頼らず、自宅でゲームを楽しむだけで、自分の脳と向き合って慢性的な痛みを軽減できる」という可能性は、神経障害性疼痛で苦しんでいる人にとって大きな希望となります。

もしかすると将来、「痛みの治療=脳トレゲーム」という時代がやってくるかもしれませんね。

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参考文献

Drug-free pain relief game progresses to the next level in clinical trial
https://newatlas.com/chronic-pain/drug-free-pain-relief-game/

Brain training game offers new hope for drug-free pain management
https://www.unsw.edu.au/newsroom/news/2025/06/brain-training-game-offers-new-hope-for-pain-management

元論文

The effect of an EEG neurofeedback intervention for corneal neuropathic pain: A single-case experimental design with multiple baselines
https://doi.org/10.1016/j.jpain.2025.105394

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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