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サイの密猟を「78%も激減させる」方法が明らかに!


サイの密猟防止策として、南アフリカの研究でサイの角をあらかじめ切除する方法が密猟を78%減少させるという結果が示されました。サイの角はケラチンでできており、アジアやアフリカでは伝統薬として高額で取引されています。このため、国際密輸ネットワークが広がり、サイが絶滅危惧種に陥る事態が発生しています。従来の法執行型の対策では不十分であったため、角を安全に切除する手法が用いられました。 角切除は再生可能でサイに痛みを与えず、費用対効果も高いですが、長期的な影響はまだ不明です。また、その効果で密猟が別地域に移る「押し出し効果」も観察されています。根本的な解決には文化的信念の変革が必要とされ、この対策は時間稼ぎの応急処置とされています。

「殺されないために、角を切る」

そんな選択が、絶滅の危機にあるサイを救う最善の方法となるようです。

南アフリカのネルソン・マンデラ大学(NMU)の最新研究で、サイの角をあらかじめ切ってしまうことで、密猟を78%も減少させられることが実験で示されました。

サイにとってはかわいそうな話ですが、命を奪われるよりはいいのかもしれません。

研究の詳細は2025年6月5日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

 

目次

  • なぜサイを密猟するのか?
  • サイの角を切除する実験の効果

なぜサイを密猟するのか?

サイの角は、私たちの髪や爪と同じ「ケラチン」でできています。

にもかかわらず、アジアやアフリカの一部地域ではいまだに「解熱や解毒に効く」などと信じられ、伝統薬や高級品として取引されています。

その価格は金やコカインを上回ることもあり、国際的な密輸ネットワークがサイの角を狙って動いています。

これにより、サイの中にはは今や絶滅危惧種に陥っている種もいるのです。

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Credit: canva

6年で2000頭近くが犠牲に

2025年の論文によれば、南アフリカにあるグレータークルーガー生態系の11保護区では、2017~2023年の間に1985頭のサイが密猟されました。

年間にしておよそ個体群の6.5%が失われていた計算です。

これは驚くべき数です。

しかも密猟者は銃や罠でサイを殺し、角だけを切り取って去っていくため、動物福祉の観点からも極めて深刻な問題となっています。

「守る」だけでは止められない

従来の対策は、警備員(レンジャー)の巡回、監視カメラ、追跡犬の導入、そしてアクセス制限など、いわゆる「法執行型」の対策が中心でした。

これらは密猟者の逮捕にはつながったものの、密猟そのものを減らす効果は統計的に確認されませんでした

その背景には、地元の貧困、警察や保護区職員の汚職、そして法制度の不備(例えば逮捕されても保釈ですぐに出られること)といった構造的な要因が横たわっています。

つまり「リスクを高める」アプローチでは、密猟者の行動を止めるには不十分だったのです。

サイの角を切除する実験の効果

そこで試されたのが、あらかじめサイの角を切ってしまうという方法です。

サイの角は爪や髪と同様に再生するため、根元を残して安全に切除することができます。

南アフリカでは、2017年からの7年間で2,284頭のサイに角切除が行われました。

この切除処置には、専門の獣医とチームが関わり、鎮静剤を用いて安全に実施されます。

角は成長板の上で切るため、サイに痛みはありません。

その結果は劇的でした。

研究によれば、角を切除した保護区では密猟が平均78%も減少。角がないサイは「殺しても利益にならない」と判断されたため、密猟者の侵入自体も減ったのです。

また費用対効果も非常に高く、角切除は保護予算全体の1.2%で最大の成果をあげた対策となりました。

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角を切除したサイ/ Credit: University of Oxford –Study finds dehorning rhinos drastically reduces poaching(2025)

それでもサイは狙われる

ただし、これでも完璧な防護策とはなりませんでした。

再び伸び始めた角の「根元部分(スタンプ)」を狙って、切除済みのサイが111頭も密猟されたことが確認されたのです。

その多くはクルーガー国立公園に集中しており、角切除の頻度や範囲が十分でなかったことが原因と見られます。

また角を切除して密猟が減った地域では、別の地域に密猟圧が移動する「押し出し効果」も確認されました。

そしてもう一つの課題は、角切除がサイの生態や繁殖行動に与える長期的影響がまだ不明であることです。

現時点では大きな悪影響はないとされていますが、今後の研究が求められています。

この研究は、サイを守るために、人間がいかに極端な手段を取らざるを得なくなっているかを物語っています。

もちろん、角を切るのはサイにとっても本来望ましいことではありません。

けれども、命を守るために角を失う選択が「現時点で最も効果的」であるという現実は、科学的にも明らかになりました。

一方、この問題を根本から解決するには、医療効果のない角に価値を見出す人々の文化的信念を変える必要があるでしょう。

サイの角切除は、あくまで「時間を稼ぐための応急処置」――その時間の中で、私たち人間がどれだけ本質的な問題に向き合えるかが、真の勝負となるのです。

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参考文献

Study finds dehorning rhinos drastically reduces poaching
https://www.ox.ac.uk/news/2025-06-06-study-finds-dehorning-rhinos-drastically-reduces-poaching

Dehorning Rhinos Cuts Poaching by 78% – Saving Thousands of Animals’Lives
https://www.sciencealert.com/dehorning-rhinos-cuts-poaching-by-78-saving-thousands-of-animals-lives

元論文

Dehorning reduces rhino poaching
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado7490

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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