中国北西部の甘粛(かんしゅく)省で、約1億6500万年前のジュラ紀の地層から、驚くべき保存状態の恐竜化石が発見されました。
中国地質大学(CUG)の調査で、この化石は新種の首長恐竜(竜脚類)として正式に記載され、新たに「ジンチュアンロング・ニエドゥ(Jinchuanloong niedu)」と命名されています。
注目すべきは、発見された化石が「ほぼ完全な頭骨」を含んでいた点です。
巨大な竜脚類の頭骨は非常にもろく、化石として残ることは稀であるため、これは貴重な化石となります。
研究の詳細は2025年5月23日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
- 頭骨がほぼ完全な形をとどめていた!
- 化石から浮かび上がる「過去の物語」
頭骨がほぼ完全な形をとどめていた!
この恐竜の化石は、甘粛省の「新河層群」と呼ばれる地層から発見されました。
地質学的には中期ジュラ紀のバトニアン後期(約1億6500万〜1億6800万年前)にあたります。
発見された部位は、下顎を含むほぼ完全な頭骨、首の骨(頸椎)5本、尾の骨(尾椎)29本などです。
こちらが頭骨の化石画像。

頭骨の長さは約31センチメートル。
まだ若い個体と見られますが、それでも全長は10メートルに達したとみられ、成体ではさらに大きくなった可能性があります。
頭骨と首の骨は連結して保存されており、これも非常に珍しいことでした。
竜脚類(首長恐竜)はその進化の初期に「真竜脚類(Eusauropoda)」というグループが誕生しています。
その後、真竜脚類の中から新たなグループ「新竜脚類(Neosauropoda)」が進化しました。
化石の分析から、今回の新種には真竜脚類の特徴(たとえば、スプーン状の歯や楕円形の鼻孔)と、新竜脚類に見られるような進化的特徴(上顎骨に小孔があることなど)の両方が認められています。
研究者たちは、この恐竜が真竜脚類のなかでも「新竜脚類へと進化していく途中のグループ」に属すると判断しました。
化石から浮かび上がる「過去の物語」

これまで、中国で発見された中期ジュラ紀の恐竜化石の多くは四川盆地などの南部に集中しており、甘粛省のような北西部からはあまり報告がありませんでした。
特に、今回の新種のように「真竜脚類から新竜脚類への進化の過渡期にある」ような恐竜の発見は極めて稀です。
頭骨には多くの貴重な情報が詰まっています。
たとえば、歯は前方に向かって重なり合うように並び、断面は「D字型」をしていました。
これらは植物を効率的に咀嚼するための構造で、他の初期の竜脚類とも共通しています。
また、前頭骨と頭頂骨の接合部には「松果体孔」と呼ばれる穴もあり、これが大きく開いていることから、まだ成長途中の若い個体だったことがわかります。
頭骨だけでなく、未癒合の神経弓や背骨の構造も、若い恐竜個体がどのように成長し、どのように形態が変化していくかを探る鍵となります。

ジンチュアンロング・ニエドゥの発見は、単なる「新種発見」にとどまりません。
ほぼ完全な頭骨という“恐竜の顔”が残されていたことによって、1億6500万年前の中国北西部に生きていた恐竜たちの進化や生態、そして多様性に新たな光を当てることができるのです。
参考文献
Nearly complete dinosaur skull reveals a new sauropod species from East Asia
https://phys.org/news/2025-06-dinosaur-skull-reveals-sauropod-species.html
Well-preserved dinosaur skull belongs to new sauropod species
https://www.popsci.com/science/china-dinosaur-skull/
元論文
A new eusauropod (Dinosauria, Sauropodomorpha) from the Middle Jurassic of Gansu, China
https://doi.org/10.1038/s41598-025-03210-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部